[R18] 優しく俺様系で女が好きな天才新社会人、異世界を救う (JP) – 1章 2節 7話 魔法の世界の女神 – アベル (カトラスの視点)

前書き

青年男性向け – ソフト – R18

第2節 異世界の女神 (第1章 勇者の村)

第 7 / 28 話

約 11,100 字 – 14 場面 (各平均 約 790 字)

1/14.「お母様、『』を読んでください」

これはマナリスがまだ幼かった頃の事。

「お母様、絵本を読んでください」

幼い頃のマナリスは絵本を抱き締めてカトラスに近寄って話し掛けた。

*ティアラとアンの様に血の繋がりは無い。*

「お、また絵本を読んでほしいのか?」

こいつはほんと絵本が好きだなぁ。誰に似たんだか。

「はい」

しかしマセてるよなぁ。ガキはタメ口失礼ワンパクの3拍子で大変結構なんだがなぁ!

「よし来い!」

ソファに座って絵本を読んであげようとした。

「はい」

ソファに座った。

「で、今回は何を読んでほしいんだ?」

(まぁ勇者ものかお姫様ものの2択だな)

「これです。勇者アベルの絵本です」

それか!

持ってきたのはあいつの本だった。

でもなぁ~ん~。

思い出しちまうのはしんどいしどうせ絵本を読んでやるならあたしの武勇伝を聞かせてやりてぇんだよなぁ~

――そだ!!!

「なぁ、どうせならカトラスの本にしねぇか?」

あたしの本だってあんだろ!

*英雄神カトラスの絵本も魔法の世界の女神なだけ有り一応一部に人気ではあった。*

そしてカトラスは自分自身に自身が有ったし読むならぜひ自分の本を読んでほしかった。

「分かりました、取ってきますね」

浮かない顔をしてそう言うと自分の本をテーブルに置きカトラスの本を取りに行った。

てかおい……!どうしてそんなに浮かねぇ顔してんだよ……!

カトラスは幼い頃のマナリスが喜んでくれない為不満だった。

2/14.「取ってきました」

「取ってきました」

おー!あんじゃねぇか!!!

絵本を受け取った。

「よし!寄越せ!――てかおい……!どうして浮かねぇ顔してんだよ……!」

カトラスはつい訊いてしまった。

「この本はあまり好きじゃないんです……」

な、何でだよ……!

*幼い頃のマナリスは純粋で世間知らずだった事も有りカトラスの自慢したい欲求に気付いておらずまた「英雄カトラス」と「魔法の世界神カトラス」が同一人物である事に気付いていない。*

*また有名人の名前程他の神も同じ名前にする事が多くその為同名の神が多かった為気付きづらかったのも有った。*

*さらに実在が疑われている勇者が登場する為より一層結び付かなかった。*

「何で好きじゃねぇんだよ……!」

あ、あいつがカッコ悪かったからか?

それとも敵が雑魚かったからか?

ま、いずれにせよあたしのせいじゃねぇな……!

「だって……女神様があまり……」

女神様が何だよ……!

「ま!それは書き手のせいだな……!とりあえず読んでやっから……!」

(書き手のせい……!?)

「はい、お願いします」

カトラスは幼い頃のマナリスに絵本を読み聞かせ始めた。

「これはとある剣と魔法の世界の、とある星の女神と勇者アベルのお話しです。――俺っ娘(こ)だった女神は、召喚した勇者アベルに『テメェを俺の勇者にしてやる!ありがてぇし異論はねぇよなぁ?文句を言ったら殺すぞ!』と剣を突き付け言い放ちましたぁ!?」

おいおいおいおいおい!マジかよ!あたしの昔ってこんなだったか?

カトラスは絵本に描(えが)かれている自分の言動に青ざめとても自分の事とは思えなかった。

「――女神は勇者を引き連れ戦闘に勝つと『テメェら!これは俺の勝利だ!讃(たた)えねぇ奴は殺すぞ!』と言って勇者の功績を自分のものにしぃ!?――『これから酒を飲みに行くぞ!もちろん断ったら殺すぞ!』と勇者の疲労に構う事もなく連日の様に酒屋を連れ回しお酒を浴びるように飲ませぇ!?――『テメェ、俺の名前を考えろ!もちろん断ったら殺すぞ!』と剣を突き付け無理矢理 名前を考えさせぇ!?」

誰がこの本を書いたんだよ……!殺すぞ……!

カトラスは自分が酷く描かれている事に憤慨(ふんがい)した。

またカトラスは俺っ娘(こ)だった事を思い出してしまい恥ずかしくも有った。

*(ヘックシュン!――なんか怖いです……)*

3/14.「お母様……」

「お母様……」

カトラスは幼い頃のマナリスの声が聴こえてきて我に返った。

幼い頃のマナリスは世界神に気圧(けお)されて恐怖心を抱(いだ)いていた。

「あ、すまんすまん!血が上(のぼ)っちまったら周りが見えなくなっちまうのはあたしの悪い癖だ……」

カトラスには戦闘の才能が有りその際には血が上(のぼ)り異常な集中力を発揮するのだがつい我を忘れて周りが見えなくなってしまうという悪癖(あくへき)が有った。

「どうして血が上(のぼ)ったのですか?何か粗相(そそう)をしてしまったのならごめんなさい……」

幼い頃のマナリスはカトラスの言った事に疑問を抱(いだ)いた。

「い、いや……それはだな……」

カトラスは「何を隠そう、この英雄はあたしの事なんだぜ!」としたかったのだがあまりに内容が悪かった為今更(いま)言い出せず知られる訳にもいかなかったから理由は言えなかった。

「何か粗相(そそう)をしてしまったのならごめんなさい……」

幼い頃のマナリスは自分が何かしてしまったのだろうと思い謝罪した。

「いや、お前は何も悪くねぇから心配すんなって。あたしはただこの英雄が悪く描かれ過ぎなんじゃねぇか?って思っただけだっての」

カトラスは描(えが)かれている内容が事実過ぎてぐうの音(ね)も出なかった。

「そうでしたか……ところでお母様、なぜこの女神様は勇者様にきつく当たっていたのですか?」

幼い頃のマナリスは気を取り直して気になっていた事を訊いてみた。

*アベル推しのマナリスは当然アベルが登場するカトラスの本も読破しておりアベルにきつく当たるカトラスの事が苦手でその心理が分からずにいた。*

いや、別に誰に対しても同じだったと思うんだが……。

「別に勇者にきつく当たっていた訳ではないと思うぞ?」

間違いなくそうだ……間違いなくそうだ……。

カトラスは自分の無実や何らの悪意も無かった事を信じる様に念じた。

*ティアラがアベルにお熱だった為親友を奪われた様で不快だったし少し嫉妬していた。*

*また自分が女の戦士だった為「女が武器を持つなどと……」という様に快(こころよ)く思わない者達も多く時々舐められる事も有りそれが非常に不快でそれゆえ男だったアベルへの性別的な嫉妬心も有った。*

*もっと言えばカトラスが「俺っ娘(こ)」だった事からも分かる様に男になりたかったしその嫉妬心が有った。*

「そうなのですね」

幼い頃のマナリスは純粋だったし一応その説明で納得した。

「おう!」

カトラスとしてはその事をそれ以上深堀りしたくなく根性(こんじょう)というかノリで押し切った。

4/14.「じゃ、今度はそっちのを」

「じゃ、今度はそっちの絵本を読み聞かせてやるよ!」

カトラスはもう自分の過去の言動に向き合いたくなかった為アベルの本を読み聞かせてあげようとカトラスの絵本をテーブルに置いた。

お口直しだぜ!

「はい、お願いします」

そう言って絵本を手渡してくれた。

「よし、読んでやるぜ!!!――どれどれ――これはとある剣と魔法の世界の、とある星の女神と勇者アベルのお話しです。――女神はアベルを勇者に任命しました」

読み聞かせていると女神が口を開いた。

「お母様、私もいつか勇者と出逢えますか?」

何だ、そんな事か。

「ああ、出逢えるだろうさ」

分かんねぇけど……!

カトラスは夢を壊す様な事は言いたくなかった。

まぁ「借りれますか?」という問いなら「その時になったらあたしが貸すか紹介してやるよ!」ぐらいは言える感じではあった。

*実力主義のカトラスは基本的には「自分のケツは自分で拭きな」という感じの為「その時になったら貸すか紹介してやる」と言えるのはマナリスをよっぽど気に掛けている事の証左(しょうさ)。*

「どうやったら出逢えますか?――先程の女神は召喚でしたが」

幼い頃のマナリスはカトラスに出逢い方を訊いた。

「ん~そう言われてもなぁ……自分の星で見つけるか育てるか誰かの勇者を買うか借りるかするしかねぇな」

カトラスは無難に答えた。

まぁ他にも奪うとか色々あんだが、それは教育にわりぃし今のこいつに教える訳にもいかねぇしな。

5/14.「お母様の時はどうでしたか?」

「お母様の時はどうでしたか?」

幼い頃のマナリスはカトラスに自分はどう出逢ったのかを訊いた。

「あたしの時は……」

かくして世界神はその時の事を思い出そうとした。

そしてこれは世界神がかつて星神だった時の事。

「ティアラ!確かお前んとこにすんげぇ勇者がいたろ!今あたしの世界がヤベェ事になってんだ……!だからちょっくら貸してくれ……!頼む……!」

カトラスは神でありながらも自(みずか)ら戦(いくさ)に出陣していた為女性も武器を手に取って戦うという空気が有り好戦的だった為戦争も多くそれゆえ未婚率や孤児率が高かったのだがそんな時にある魔王が魔神に進化してしまった為人族が滅亡どころか世界が崩壊に向かっていた。

今までは自力でどうにかしていたのだがさすがに魔神との戦いは自分が無事でも世界が崩壊してしまうと思いティアラにお願いしにきた。

*ちなみに俺っ娘キャラはティアラにだけはガールズトークがしたい為封印している。*

「もちろん良いわよ!困った時はお互い様だもんね!」

ティアラは快く引き受けてくれた。

「良かった!恩に着るぜ!」

かくしてティアラから勇者アベルを召喚で借りた。

そして今に戻る。

「あたしは友達から借りたんだぜ!」

やっぱダチって最高だぜ!

「良いですね。――私もお友達が欲しいです……」

幼い頃のマナリスは内気だったので友達がいなかった。

「いつかお前にダチが出来るようにあたしが紹介してやっからよ!」

きっとティアラの世界に良いのがいんだろ!

「お願いします――じゃ、続きをお願いします」

おうよ!

「女神は親しくなった勇者から『マナリス』というマナに着想を得た名前を授かりました」

すると幼い頃のマナリスが口を開いた。

6/14.「私も『』が欲しいです」

「お母様、私もこの名前が欲しいです」

マナリスもその名前が欲しかった。

「やめとけ……!縁起がわりぃぞ……!この女神確か死んだんだろ……?」

マナリスは楽園級 勇者のアベルが唯一死なせてしまった女神として有名だった。

というのもそれが勇者アベルにとって唯一の汚点であり、楽園級に相応しいかどうかで天界で「女神を死なせた勇者が楽園級な訳があるか!」に対し「それは勇者のせいではない!女神が望んだ事だ!!」などと論争になったからだった。

「でも……私は自分の名前は『マナリス』が良いんです……」

マナリスはそう言って下を向いてしまった。

「そ、そうか……ま、まぁ……お前がそうしたいと思ったんならそうすりゃ良いんじゃねぇか……?」

世の中には気に入った人物の名前を拝借する物好きな連中もいるしな。

カトラスは別に無理を言ってまでやめさせるつもりは無かった。

「い、良いんですか……?」

マナリスは希望が持ててカトラスを見上げた。

「ああ。これからもそうだが決して自分を曲げるんじゃねぇぞ?じゃあ、お前の名前はたった今から『マナリス』だ!」

カトラスはマナリスの背中を押した。

神は精神的に自立していなければならない為自分で自分の名前を決める事は勇者から名前を貰うのと同様に普通の事だった。

「はい!それに私に『マナリス』と名付けてくださる勇者様と出会えると思えませんでしたので……」

そうだなぁ……あいつはもう死んじまってるしなぁ……。

「ま、マナリスもいつか自分に気に入る勇者に出会えると思うぜ」

これも分かんねぇけど。

「はい。そう願っております」

てかマナリスに合う勇者かぁ。

良いのがいたらあてがってやりてぇんだけどなぁ……。

7/14.「『』はどうやって決められたのですか?」

「あの、ところで世界神様のお名前はどうやって決められたのですか?」

あたしの名前かぁ。――あたしの時は……。

かくして世界神は自分の名前を貰った時の事を思い出そうとした。

名前、ねぇ……。

「お前も名前を勇者に考えてもらったら良いんじゃねぇか?自分で付けるでも良いんだしよ」

あたしもそうだったしな。

そしてこれは世界神がアベルから名前を貰おうとしていた時の事。

「テメェ、俺の名前を考えろ!もちろん断ったら殺すぞ!!!」

アベルに剣を突き付けてそう言い放った。

「分かった、考える」

いやぁ、こいつぁ物分かりが良くてほんと助かるぜぇ。

「あと言っとくけどな、オシャレでカッケェ名前にしろよ????でねぇとぶっ殺してやっかんな!!!!!」

……。昔のあたしはやっぱヤバかったわ……。

昔の世界神は尖り過ぎていたため友達が全くおらず、別の方向だが我がままに尖っていたティアラしか友達がいなかった。

「それじゃあ、『カトラス』はどうかい?」

すると世界神は――。

「んーーーーー」

――そう言って腕を組んで考えだした。

「あのよく海賊が使ってるやつか?」

カトラスとは大きなナイフという意味があり、狭く障害物の多い船の甲板上でよく使われているサーベルのような剣の事だ。

アベルには海で移動する際に女神がカトラスを所持していた事や、海戦時や海賊討伐の際に女神がカトラスで華麗に敵を薙ぎ払っていた記憶があった。

良い名前だが――。

「俺の事を海賊だって言いてぇのか????おーーーん????」

――答え方しでぇでぶっ殺してやっかんな!!!!

鬼の形相で息がかかるくらいまで顔を近づけそう言い放った。

「女神様が帯刀しているやつを見てみてよ。それが答えだよ」

実際 気に入って帯刀していた。

「お、おう……」

女神は自分の腰に差しているカトラスを見て納得しうろたえ後ずさってしまった。

「それじゃあ、僕はこれから他にしなければならない事があるからもう行くね」

そう言ってアベルはその場を歩き去ろうとするのだが、――。

8/14.「ありがとな」

「テメェ、待てよ……――あたしに名前、ありがとな」

――カトラスは照れながらアベルの腕を掴みそう言った。

「こちらこそありがとう、どういたしまして」

こちらこそありがとうって何だよ……。名前付けろって言ったのはこっちなのによ……。――テメェってヤツは……、いや、アベル……。

「アベル、あたしの事はこれからはカトラスと呼べよ。でねぇと殺すぞ……?」

(打ち解けたと思ったら結局殺される心配は無くなってないのかぁい!)

「分かったよ、カトラス。――名前似合ってるよ」

アベルがそう言うとカトラスが恥ずかしがって、――。

「うるせぇ!殺すぞ!」

そう言い放った。

かくしてカトラスは勇者アベルから名前を貰った。

そして今に戻る。

キャハーーー!!!今思い出しても恥ずかしぃいい!!!!

俺っ子時代の黒歴史もさることながらだが、アベルに殺す殺すばっかり言ってて恥ずかしぃいい!!!!

「お母様?」

マナリスの声にハッと!我に帰った。

「あ、わりぃわりぃ、絵本の続きだったな。――じゃ、続きといくぜ~」

再開していこうとする。

「はい、お願いします」

ほんとこいつは礼儀正しい子だな。

気がつえー勇者とは合わなそうだ。

「――やがて女神と勇者は親しくなり、共に恋に落ちました」

いいなぁ……。

「良いですね、羨ましいです。私もいつか勇者様と恋がしたいです」

いいよなぁ。

「そうかぁ。頑張れよぉ」

(世界神様、どこか他人行儀です……)

9/14.「『』様の恋はどうでしたか?」

「世界神様の恋はどうでしたか?勇者様と恋に落ちましたか?」

今度はあたしの事かよ!

「あたしは……」

あいつと親しくなって……。

*「俺は敬語がきれぇなんだよ!次使ったら殺すぞ!」*

*「これから酒を飲みに行くぞ!もちろん断ったら殺すぞ!」*

*「奢ってやんだから俺より酒を飲まねぇと殺すぞ!ま、各国から巻き上げた金だから俺の金じゃねぇんだけど!ワッハッハッハ!」*

*「んじゃなんか芸をしてみろ!さもねぇと殺すぞ!つまんなくても殺すぞ!」*

……。昔のあたしマジでヤバかったな……。

で恋に落ちて……。

あたしの事抱けよ!!!!何で抱いてくんねぇんだよ!!!!

女に見られたくて「俺」って言うのはやめたし、嫌われたくねぇから「殺すぞ」まで言うのやめたのによ!!!!

自分を大切にしろってなんだよ!!!ふざけんなよ!!!!

って部屋に引き篭もっちゃった事もあったっけか……。

「ま、あったにはあったな……じゃ、続きを読むぞ!!!――しかし、それを世界が待ってくれる訳がありませんでした。――ヒューマンと魔族の間で大戦争になりましたが、彼は知略を駆使し快進撃を続け、やがて魔王城で諸悪の根源である魔王と相対しました。そして彼は魔王と戦い、ついに討ち倒す事が出来たのですが、――受けた傷が大きく死んでしまいました。――そして女神は自身の命を対価に彼を蘇らせましたが、女神が自身の命を対価に1個人を蘇らせた事は前代未聞でした。これがのちに天界で大論争になり天界規則で神が自身の命を対価に勇者を蘇らせる事を禁止するきっかけになった出来事です。――生き返った勇者は自身の命を対価に女神を生き返らせようとしますが、力 及ばずそれは叶いませんでした……。残された勇者は女神との約束通り、絶え間なく続いていた戦争を終わらせ地上を楽園に導きました。――そしてその女神と再会する願いを叶えるため、果てしない戦いに身を投じたその勇敢な者の名はアベル。これは勇者アベルの最初の物語。おしまいおしまい」

うおー、あいつってそんなもん背負ってたのかよ!!!

またその女神に会うために頑張ってたとは知らなかったぜ……。

「悲しいです……」

マナリスは泣いていた。

おい、泣くなよ!あたしまで貰い泣きしちまうじゃねぇかよ!!!

「そうだな。悲しいな……」

あいつは自分を犠牲にしちまうからな……。

10/14.「ほら、今日はこれで終わりだよ!」

「どうして彼は自分を犠牲にしてでも世界のために戦っていらしたのでしょうか?」

ん~。

「あいつの思考回路の事だからなぁ……。あいつの事はあいつに訊いてみねぇと分かんねぇな」

(あいつ!?!?!?)

「女神様はアベル様の事を御存じなのですか????」

あ、やべ!!!!

(これは初めての感触です。なぜなら今まで……)

*「お母さんがそんな人いないって、作り話だよって言ってたよ」*

(他の子に聞いてみても、――)

*「アベル?――あぁ、絵本の事?――おとぎ話だから話半分に読んだ方が良いわよ?」*

(――先生に聞いてみても、――)

*「あぁ楽園級の?――おじさん随分長く生きてきたけど、見た事無いし一般的な事ぐらいしか知らないなぁ……お嬢ちゃんの役に立てなくてごめんな」*

(――おじいさんに聞いてみても分からなかったのに……お母様が知っているような口ぶりをしているなんて……)

まぁ別に秘密にする事でもねぇんだけどな……。

いや、あたしが悪目立ちしちまうから駄目か……。

じゃ、ここはとりあえず否定しとくか。

「知らねぇなぁ~、マナリスの聞き間違いだよ!」

(聞き間違いの訳がありませんし、世界神様のこの慌て様を見たらどう考えても慌てて嘘を吐いて隠そうとしているとしか思えません)

「お母様!」

じゃ、ここはとりあえず否定しとくか。

11/14.「ほら、今日はこれで終わりだよ!」

しゃあねぇ、こういう時は……――。

「ほら、今日の絵本の読み聞かせはこれで終わりだよ!」

――お開きにして一旦追及を回避するしかねぇ!

(そ、そんなぁ……)

「読み聞かせありがとうございました」

マナリスは丁寧に感謝した。

「あいよ!!!」

かくして絵本の読み聞かせは終わった。

そしてマナリスは思った。

(世界神様は『カトラス』なのかもしれません……。なぜなら世界神様のお部屋にはカトラスが飾られているんです……。もしこの絵本が事実なら、勇者アベル様は実在するという事です……!!!!)

かくしてマナリスは初恋の勇者アベルが実在する事と、いつか会えるかもしれないという事に希望が持てた。

そしてカトラスはマナリスを見届けると壁に飾っているアベルが贈ってくれたカトラスを見つめて過去の事を思い出した。

「これをカトラスにあげるよ。僕の所持金で届く範囲で一番の素材で僕が知っている中で一番の鍛冶師に打ってもらったんだ。女神のカトラスに使ってもらうには格式も素材も色々と足りていないと思うけど、これが僕の気持ち」

アベルがカトラスをプレゼントとして手渡そうとしてくれた。

アベルは全財産を使って最高のカトラスを仕上げたのだった。

「お、あ、あ、あり、ありがとう」

カトラスは照れながらそう言いながら受け取った。

あの時のあたしは嬉し過ぎて照れちまって「ありがとう」を言うのにきょどっちまったな……。

かくしてカトラスは壁に飾っているカトラスをアベルがくれた時の事を思い出し、――。

12/14.「カトラス、もう行かないと」

――そして別れの時の事を思い出した。

「カトラス、もう行かないと」

アベルはティアラのもとへ帰ろうと転送陣の上に立った。

「ま、待ってくれよ!別に元の星に帰らなくたっていいだろ?ティアラにはあたしから言っとくからよ、好きなだけあたしの星にいてくれたっていいんだからよ……」

カトラスはアベルの腕を掴んでそう言った。

「魔神も倒したし、カトラスの世界に僕はもう必要無いよ」

必要無いって決めつけるなよ!!!!

「あたしには必要あんだよ……」

カトラスはアベルの事を後ろから抱き締めそう言った。

「僕の事は忘れて。今までありがとう」

そう言ってアベルは転送されていった。

カトラスは抱き締めていた両手を胸に抱くと、その場に両ひざをついて慟哭した。

そしてカトラスとティアラはアベルの件でこれを機に激しく仲違いする事になるのだった。

一緒に愛したってバチは当たらなかっただろ……。

かくしてカトラスはアベルとの別れの時の事を思い出し、――。

――そしてアベルの最後の時の事を思い出した。

これはティアラがアベルをプリシラに託しその場を離れた直後の事。

カトラスはこの戦争でティアラを殺すため世界神の側についていたのだが、アベルとは戦いたくなかったので少し離れたところでアベルと世界神の一騎打ちがどうなるかの結果を固唾を呑んで待っていた。

カトラスはアベルが負けたようなら命だけは見逃してほしいと懇願するつもりでいたし、世界神にも出来れば殺さないでほしいと言っていた。

情勢は世界神側は革命側に世界神の本城まで攻め込まれていたので革命側の大優勢は誰の目にも明らかだったが、世界神が存命の内は世界神側が勝てる可能性が常にあり、アベルが倒されれば革命側は優位性を失ってしまうので、まだどちらが勝つかは分からないという状況だった。それゆえ圧倒的に押されている世界神陣営も果敢に応戦していた。

やたて事態は動いた。

世界神が滅び、それが終戦を告げたのだ。

世界神側があちこちで武器を落としその音が響き渡り、革命側が歓喜しその声が響き渡っている中、カトラスは一目散に玉座の間へと走った。

13/14.「おい……!あいつはどうした……!」

「おい……!あいつはどうした……!」

玉座の間の外でティアラに会い話し掛けた。

「死にました……」

は!?!?!?!?

「そ、そんな……な、何でだよ……」

カトラスは手に持っていたカトラスを落とした。

「相討ちになったんです……」

嘘だろ……マジかよ……。

カトラスは正直アベルが負けると思っていた。

というのも世界神には力が及ばないと思っていたからだ。

実際その世界の神々が束になっても余裕で返り討ちにしてしまうのが世界神だった。

なぜなら世界神とは「世界」を司る神の事だからだ。

だがアベルは世界神の域に届いた。

そして手加減が出来ないと悟った両者は、本気を出して戦い相討ちになってしまったのだった。

「お前が付いていながらどうしてあいつを死なせたんだよ……!」

カトラスはティアラの胸倉を掴んでそう言いながら激しくゆすった。

「ごめんなさい……」

ティアラは謝罪した。

「は……!?謝って許される事じゃねぇだろ……!第一お前が私からアベルを取り上げさえしなけりゃあたしだってアベルの傍でお前と一緒に戦えただろうに……!」

涙を流しティアラの胸倉を掴みながらそう言い放った。

実際戦神として名高いカトラスが共に戦っていればアベルは死なずに済んでいた。少なくとも相討ちは避けられていた。

「ごめんなさい……」

(私がアベルを独占していなければ……)

14/14.「最後の手段が有るだろ……!」

「最後の手段が有るだろ……!あたしの命と交換する……!」

カトラスは掴んでいたティアラの胸倉から手を離すと、玉座の間へと入っていこうとする。

「ダメよ……!それは天界で禁止されてるわ……!私もやろうとしたけど発動しなかった……!」

ティアラは必死にカトラスの腕を掴んだ。

「発動しなかったなんて嘘だ!!!!お前は自分の命が惜しかっただけだろ!!!!あいつに大変な事 全部押し付けて、自分だけ安全な場所から高みの見物 決めてやがった癖によ!!!!アベルはあたしが助ける!!!――だからあたしの邪魔をするな!!!!は、離せ!!!!」

カトラスは必死に腕を掴んで引っ張ってくるティアナの手を振り払おうとして、何が何でも玉座の間へと入っていこうとする。

するとプリシラが出てきた。

「ティアラ様、終わりました……彼の亡骸は光になり魂も創造神様の元へと消えてゆきました」

カトラスもティアラもその言葉に脱力し、カトラスはその場に両ひざをついた。

つまり蘇生はもう不可能だという事だ。

「ありがとう、プリシラ……迷惑を掛けたわね……」

ティアラがそう言っている側(そば)でカトラスは呆然とし慟哭(どうこく)した。

かくして世界神は破れ革命側が勝ち、世界神による戦争や犯罪、飢餓、疫病、不幸の操作が無くなった事で、世界は平和になったとは言えないが少なくとも世界神による作為を受けない世界になるのだが、カトラスもティアラもプリシラも最愛のアベルを失ってしまったのだった。

そして今に戻る。

アベル、お前今どこで何してんだよ……またあたしに会いに来てくれよ……また会いてぇよアベル……。

かくしてカトラスはアベルの事を思い出し咽(むせ)び泣いた。

後書き

カトラスは読み聞かせの後(のち)に例のノンフィクション絵本を出版した出版社にちゃんと焼きを入れに行きました(笑)

その後(ご)リニューアル版という名の美化版が出版されました(笑)

もちろん嫌な予感がしていた記者もちゃんと焼きを入れられました(笑)

それで美化版の執筆に当たったのもその記者です(笑)

また話は変わりますが「最後の手段」とは自分の命を犠牲にして相手の命を助ける魔法でして魔法のジャンルとしては「闇魔法」に当たります。

闇魔法はエグい魔法ばかりの為禁忌とされそれを使うと暗黒神認定や場合によっては邪神認定されてしまう為天界で禁止されているという訳です。

ちなみに誰かに危害を加える神が「邪神」であり闇の魔法を使うだけではせいぜい「暗黒神」止まりです。

しかしその境界はシビアで戦闘中に敵を代償にモンスターを召喚したり味方を回復させるという様な場合を除き人命を代償にした時点で「邪神認定」であり自分に呪いを掛けたり傷や痛みを受ける対価に力を増したりグロめの魔法を使っているだけではギリギリグレーですが「闇魔法を得意とする神」という感じである程度周囲から避けられる様になるという感じです。