[R18] 優しく俺様系で女が好きな天才新社会人、異世界を救う (JP) – 1章 2節 10話 異世界の女神 – 真の友達 (マナリスの視点)

前書き

青年男性向け – ソフト – R18

第2節 異世界の女神 (第1章 勇者の村)

第 10 / 28 話

約 12,000 字 – 17 場面 (各平均 約 700 字)

1/17.「大変です!」

わたくしは本日も自室で勇者候補の一覧を見ていたのですがすると突然扉が開きました。

「マナリス様!大変です!」

慌てた様子で入ってきたのはラヴリスでした。

「ラヴリス、何が大変なのですか?」

わたくしも大変です。よい勇者が1人も見当たらないのです。

「アン様が!勇者が暗殺され魂が奪われてしまったそうです!!!」

な、何ですって!?!?!?

勇者様の魂が奪われてしまった……その手がありましたか!

純粋なマナリスにまた1つ悪知恵が備わってしまった。

「アンの勇者様に一体何があったのですか!あとどのようにして奪われてしまったのですか!」

そもそも魂の誘拐とはその名の通り死者の魂が通常の手順に入るのを妨げ捕らえて攫う事だ。

所持は禁止されているが闇ルートで任意の対象の魂を吸い取る魔道具などが出回ってしまっている。

「分かりません!それ以外にもアン様が意気消沈した様子で天界を彷徨っているという情報も……」

天界とは神々専用の亜空間の事で、共用と私用の2種類がある。

アンが人間不信になりかけたパーティー会場は共用の亜空間にあるパーティー会場で、ティアラとドラマばりのハグを交わした噴水のある公園も共用の亜空間にある。

ちなみにその共用の亜空間は世界神であるティアラが開き管理している。

そして現在マナリスがいる自宅は私用の亜空間にあり、誰でもおいそれと入れる訳ではないし、私用の亜空間でも地上でも許可なく侵入すれば侵入罪に問われてしまう事になるのだが、この世界の世界神はカトラスなので前世界神の実力主義性を踏襲し半ば有名無実化してしまっている。

*「神なら自分の身くらい自分で守れよ!☆――あとあたしの寝首を掻(か)こうもんならぶっ殺すぞ!☆」*

などとカトラスならキリッとしつつも白い歯が見える程の笑顔でグッジョブしながら言い放ってしまうといった具合だ。

わたくしはあの世界の事が分かりませんので何とも言えませんが……あちらの世界神様が目を掛けていらっしゃったであろう勇者様の魂が暗殺されてしまうなど真に起こり得る事なのでしょうか……。

マナリスはアンと会った事が何度もありアンに仕えている天使の優秀さなども把握しているし、アンが勇者にべったりと一緒にいる事も惚気話として聞いているので勇者の暗殺が起こった事が信じられなかった。

いえ、あのアンなら起こり得るかもしれません……。

マナリスはアンが成年儀礼の事もすっかりと忘れていたくらいどこか抜けている事を思い出し、あり得ないどころかむしろあり得るとすら思ってしまった。

2/17.「これから会いに行きます」

「ラヴリス、わたくしはこれからアンに会いに行きます。アポイントメントの方をよろしくお願いします」

わたくしはアンのお友達として彼女に苦境に寄り添ってあげなければいけないのです!

「かしこまりました!ただちにアポイントメントを取ってまいります!」

(マナリス様!頑張ってください!!!)

かくしてマナリスはアンに寄り添うため自宅がある亜空間へとテレポートした。

そしてマナリスはアンに仕えている天使1号に迎えられた。

「マナリス様、お越しいただき誠にありがとうございます」

1号がマナリスにお辞儀をしてそう言った。

「いえ、アンのお友達として当然の事をしているだけです。――ところでアンは今どちらに?」

(アン様は本当によいお友達をお持ちになられました……)

1号はボッチのアンにずっと仕えてきたし、いつか友達が出来てほしいとも願っていたし、しかし性格に難ありというのも重々承知していたのもありついに友達が出来た事に、それも優しい友達が出来た事に感動した。

「アン様は現在外出しておられますが、世界神様が探しに行かれたのでもうすぐ帰ってこられるかと存じます。――マナリス様にはそれまで今から案内するお部屋でお待ちください」

アンが天界を彷徨っているというお話は本当だったのですね……。

「承知しました。――それでは1号さん、ぜひわたくしをそのお部屋までご案内ください」

マナリスは今では1号の事を「1号さん」と呼んでいるが、当初は「1号様」と呼んでいたのを「女神様がわたくし天使如きを様呼びなさらないでください!」などといった押し問答がもちろんあった。

かくしてマナリスは1号に応接室へと案内され、座り飲み物と食べ物を出されアンの帰宅を待つ事となった。

3/17.「おかえりなさいませ!」

そしてアンはティアラに連れられ帰ってきた。

「おかえりなさいませアン様!ティアラ様!」

1号がそう言いながら慌てて玄関に迎えにきた。

ティアラから念話が来ていたので帰ってくる事は分かっていた。

「た……ただいま……」

アンは意気消沈している様子で声を振り絞り帰宅の挨拶をした。

「はい、ただいま♪」

ティアラもアンの挨拶が終わってから帰宅の挨拶をした。

「アン様、お体の具合やお怪我は……」

1号は心配そうにアンの体を見回す。

「大丈夫よ……」

アンはそう言っているが1号は気が気ではない。

「何が大丈夫ですかアン様!こんなに憔悴なさって!!」

1号は珍しくアンの事をそう言って叱った。

「1号ちゃん、とりあえずアンに身体的な怪我は無いわよ。まぁ、心に傷はあるのだけど。――じゃ、わたくしはこれからしなければならない事があるから、アンの事を頼むわね。――それに、アンの事を心配してマナリスちゃんもここに来ているのでしょう?」

(わたくしはこれから犯人捜しをしなければならないのです)

ティアラはこれから犯人捜しをするつもりなのだが、その事は言わなかった。

というのもティアラは世界神であり、この件は世界神としての公務だと考えていて、それには当然守秘義務があると考えていて、アンの事とはいえ公私混同にならないようにしているからだ。

4/17.「『』がここに!?」

「マナリスがここに!?」

アンはマナリスがここに来ていると聞いて思わず声が出た。

「はい、来ておられますよ、アン様。――マナリス様は先程から応接室にてアン様のお帰りをお待ちになっています」

アンはそれを聞いて嬉しい反面――。

「そう……」

――信じられずにいた。

というのもつい先程パーティー会場で友達だと思っていた神々に酷く冷たい態度を取られてしまったからだ。

今のアンは世界神と自分の天使達の事しか完全には信じられずにいた。

「それではティアラ様、アン様の事は私達天使が引き継ぎますので、お忙しいところアン様のため天界まで探しに行ってくださるなど大変ありがとうございました」

1号はティアラにお辞儀し感謝した。

「ええ、いいのよ♪また何か困った事があったら言ってね♪じゃ♪」

ティアラはそう言うとテレポートしていった。

「それではアン様、マナリス様がお待ちですので応接室へ参りましょう。――さぁ、こちらです」

(アン様、マナリス様が来ていらっしゃるのに嬉しくないのでしょうか……)

「ええ……分かったわ……」

(どうせ私を笑い者にしに来たのよ……)

かくして1号は帰宅したアンをマナリスが待つ応接室へと案内した。

そして1号に連れられてアンが応接室に入って来た。

「あ、アン!――大丈夫ですか?」

マナリスは思わず立ち上がりアンの傍へと寄る。

「ええ……とりあえず座りましょ……」

アンがそう言って座ったのでマナリスも再び座った。

「それでは私は外におりますので何か用がございましたらお申し付けくださいませ」

1号がそう言ってドアの前でお辞儀した。

「ええ……分かったわ……」

アンがそう言うと1号は退室していった。

マナリスはここは1号のあるじであるアンが返事をすべきだと思い黙っていた。

5/17.「何が有ったのか話してくださいませんか?」

「それではアン、何が有ったのかわたくしに話してくださいませんか?」

わたくしはアンの事が心配なのです。

「どうしてよ……」

は、はい!?!?!?

「アン、一体どうされたのですか?」

(どうしたもこうしたもないわよ……)

「だからどうして私が話さないといけないのよ……」

そのような事、分かり切っているでしょう?

「わたくしがアンの事が心配だからです」

友達が友達の事を心配して一体何がいけないのでしょうか……。

「どうせもう何があったのか知ってるんでしょ……」

(皆 知ってるのよ……)

「ラヴリスから大まかな事は聞きましたが、詳細については全く存じ上げていません」

詳細は知らないですし、わたくしは第一アンに寄り添いたいだけなのですよ……。

「でもどうして私が話さないといけないのよ……それだけ知ってたら十分でしょ……」

(また心が抉られるみたいで思い出したくないのよ……)

「どうしてって、アンはわたくしのお友達でわたくしはお友達のアンの事が心配だからです」

(何よ……友達って……)

「私……励ましてもらおうと思って誰かさんのパーティーに行ったのよ……。そしたら私の成年パーティーに来てくれた顔ぶれもいたわ……。でもね……だ~れも私に優しい言葉をかけてくれなかったのよ……?むしろ私の事を馬鹿にしてきたのよ……。皆 私がどうやって勇者を死なせたかって細かい事まで知ってたの……。もう女神のメンツなんて丸潰れよ……。友達だって言ってくれた子だっていたのに……ちっとも友達じゃないじゃない……」

アン……。

「辛い目に遭われたのですね……」

(何よ……他人事みたいに……)

「マナリスだって私の事を馬鹿にしに来たんでしょ……」

(どうせマナリスだって……)

6/17.「『』しに来た様に見えますか?」

「アン!わたくしが貴方の事を馬鹿にしに来た様に見えますか?」

わたくしの事を安く見ないでほしいです!

「そんなの分からないわよ……」

(私はもうママと自分の天使以外は誰も信じられないの……)

「わたくしはラヴリスから聞いてアンの事を聞いて心配だからいてもたってもいられず急いで来たのですよ」

どうしてわたくしのこの気持ちがアンに上手く伝わらないのでしょうか……。

そしてアンが口を開き涙を流し始めた。

「そう……何があったのか聴きたいなら話してあげるわよ……ユウタが造った国が諸外国と国交樹立した事を祝ってパーティーを開いたの……パーティーといっても私とユウタとニンの3人だけのパーティーよ……で私が知り合ったおじさんがお酒とか結婚祝いの品々を持って来てくれたから部屋に通したの……でおじさんが渡してきたお酒に毒が入ってるってユウタ達は見破ってたのに、すっかり騙されてた私はそのお酒を無理言ってユウタに飲ませて死なせちゃったのよ……私は毒が入っている事も気づかずに勇者に飲ませて死なせた馬鹿な女神なの……どうぞ好きなだけ私の事を馬鹿にしていきなさいよ……」

(もう皆から馬鹿にされて構わないわ……むしろその方が自分がしでかした事の罰としてお似合いなのよ……)

「話してくださってありがとうございます。大変でしたね。わたくしも同じ立場だったら耐え難い心痛がある事と思います。――そしてわたくしはアンの事を馬鹿にしに来た訳ではないのですよ」

もしわたくしだったら、わたくしも今のアンのように憔悴し切ってしまうのでしょうね……。

「嘘よ……部外者の癖に……知った口を利いちゃって……マナリスも皆 私に愛想尽かしていなくなっちゃえばいいのよ!!!!!」

ごめんなさい、アン……。

マナリスはアンの頬をバチン!とビンタした。

「わたくしだって!!!お友達のアンが辛い思いをしていて、でも何もしてあげられなくて、わたくしだって辛いのですよ!!!」

マナリスも涙腺が崩壊してしまった。

「何すんのよ!!!!!!――あんたに一体私の何が分かんのよ!!!!!!!!!!!!」

アンは激怒しテーブルを乗り越えマナリスの胸倉を掴んだ。

7/17.「少しでも『』してあげたくて……」

「わたくしにはアンのお辛さは分かりませんよ……だから話してくださいと言っているのです……わたくしがアンのお友達としてお気持ちを少しでも理解してあげたくて……」

(……)

それを聞いたアンは掴んでいた胸倉から手を離すと意気消沈したように再び座った。

「無理に私の友達を続けなくていいのよ……。――私……知り合った人達との連絡が途絶えてしまったの……。予定もキャンセルよ……。まぁそうよね……勇者を失った私に利用価値なんて無いものね……自分でも分かってるわよ……こんなお調子者で間抜けな女なんてウザイだけでしょ」

というのも神々の間では勇者の貸し借りが行われている。普通は勇者は自分の星で見繕うものなのだが、自前の勇者ではどうにも出来ない時や勇者が見つからない時などは他の神から勇者を借りたりする事が一般的なのだ。そのため優秀な勇者を所有している神と知り合っておいて、いざという時には借りられるようにしておくものなのだ。

というのも基本的には自己責任の世界なので誰も助けてはくれないからだ。そのため神を殺せるレベルの魔王が出てきてしまった時などに対処し得る勇者を借りられるかどうかは神自身の命にかかわる重大な問題なのだ。

「アン、わたくしは貴方に優秀な勇者がいようといまいとずっとお友達です。掌を返して去っていってしまうような方々の事など忘れてしまいましょう。それにわたくしはアンのお人柄は大好きですよ?――世界神様が勇者様を取り返してきてくださると信じて前向きに待ちましょう!」

わたくしは一生アンのお友達でいるつもりです。

「ありがとう……私もマナリスとずっと友達よ……そうね……あんな薄情な連中の事なんかとっとと忘れてやるわ!!!!私もマナリスの事が大好きよ!!!!ええ、そうね!!!!ママを信じて前向きにユウタを待つわ!!!!」

アンは指で涙を拭い元気が出てきた。

かくしてマナリスとアンはキャッキャしてハグし合ったりしてより仲良くなった。

そしてマナリスはアンに勇者の事を尋ねてみた。

「ところでアン、その勇者様とはどのような殿方だったのですか?」

マナリスは勇者アベル物語のアベルのような勇者が好きなので当然気になっていた。

「そうね、前にも話したと思うけど私が望んだ要素を全て持っていたわ」

それが凄いです。

「それは本当に凄いですよね。奇跡ですよ、奇跡」

(そうね)

8/17.「今なら分かるわ……」

「そうね、今なら分かるわ……私の気を紛らわそうとしてくれたのか天使達が新しい勇者候補をリストアップしてきてくれたんだけどものの見事にクズばっかだったわよ……トップになるために平気で人を殺したり、自分が神だと言い張ったり、平気で侵略して戦争して人々を虐殺して奴隷にしたり、私の指示に従わないどころか私の存在すら信じてくれない奴も大勢いたわ……」

それが現実なのですよね。

「わたくしも勇者を探しているのですけど似たような状況です……あの、もし宜しければアンの勇者様の事をもっとお聞かせくださいませんか?」

わたくしはもっとお聞きしたいのです。

「そうね~~あ、ユウタはね、時々寝言を言ってるのよ」

アンはユウタの寝言を思い出したので話してみた。

「ね、寝言とは!!!ま、まさかアン……!!!」

勇者様と!!!!!

「誤解しないでよ!――まだしてないわよ!!!」

ふぅ……。

「なら良かったです」

(え!?)

わたくしが初めての女性になれるチャンスがあるという事ですね♪

「え!?ねぇマナリス、どうして良かったの???」

あわわわわ、何とお答えしましょう……。

「わたくしはまだそのような経験がありませんので、お友達のアンに置いていかれてしまうのが悲しくて嫌でそう言ってしまっただけなのです」

適当な理由が思いついて良かったです。

9/17.「嫌でも『』を聞いちゃうのよ」

「そ、そう!――ほら、あたしユウタと大河を目指して移動したりしたし、現地に着いても小さな掘っ立て小屋から始まったし、嫌でも寝言を聞いちゃうのよ」

なるほど。

「なるほど、それは仕方の無い事ですね。――それで、ユウタさんは寝言で何とおっしゃっていたのですか?」

とても気になります。

「それがね、あ、あべ、――あ!アベルだ!そうそう!時々アベルって言ってるの!!!!」

え!?!?!?!?!?!?

「今何と!?!?!?!?!?」

マナリスは驚き飲み物をこぼしてしまったが、それどころではなかった。

「もー!マナリスったらどうしちゃったのよ!!!」

いえ、それはいいのです。

「あの、今アンはアベルとおっしゃったのですか?」

マナリスは確認するようにアンに尋ねた。

「だからそうだって言ってるでしょ!!!!」

ん!?アンはアベルを御存じでない???

「アンは――」

知っているかどうか尋ねようとしたが心の中で待ったがかかった。

10/17.「何よ?」

「何よ?」

ユウタさんがアベルの魂を持つ希少な存在だと分かれば、アンはわたくしに魂を貸してはくださらないかもしれません……。

それに、勇者も人ですから死ねば記憶がリセットされます。ですからユウタさんも死んだ事でアンの事など忘れているはずです。――話を聞く限り性交渉もまだしておらず、結婚すらまだしていないとの事。これはわたくしに大いにチャンスがあると見て間違いありません。――確かにアンはお友達ですが、勇者がアベルとなれば話は別です。

ここは気づかれないようにしなければ……!

「いえ、特に何も。アンは寝言は言わないのでしょうか?と尋ねようかと一瞬迷ってしまっただけです」

マナリスはピュアを演じた作り笑顔でそう言って難を乗り切ろうとした。

「あらそう!――私は寝言は言ってないと思うわよ!――よくお昼寝とかしてるけど天使達は誰も言ってこないもの!!!」

……天使ならお仕えしている主が寝言を言っていたとしても気を遣って中々言い出しづらいと思うのですが……。

「そうなのですね――まぁとりあえず、前向きに未来の事を考えていきましょう」

さてどうしましょうか。ハイランクの勇者の魂を公共入札で手に入れるには、相応の緊急性を示さなければなりません。また段階を踏んでそれ相応の勇者が必要であるという事も示さなければならないのです。――特にアベル様の魂を受け入れるためには、SSランクの魔王クエスト、いえ、SSSランクの魔神クエストは最低でも用意しなければ、いえ、それでも生ぬるいかもしれません。――今からでも遅くはありません。徹底的に強者の魂を購入し治安を悪化させなければ!!!

マナリスはついにアベルの魂が出回ったと知り気合いを入れて受け入れ態勢を整える決意をした。

(前向きに未来の事を、ねぇ……。――私はユウタとずっと一緒にいたい……。でも人間には寿命があるからユウタにはその都度 輪廻転生してもらうしかない……。でもそしたらその度に記憶がリセットされちゃう……。それを解決するにはユウタに私のように神になってもらうしかない……。でも科学の世界では神にはなれない……。だって魔法も無いし肉体の強化には限界があるんだもの……だったらどうすれば……――もし魔法があるマナリスの世界だったら……――強くなればなれる!神になれる!!!――そのためにユウタが強くなるには……強敵をあてがわなきゃ!!!!)

アンはアンで遠くない未来に訪れる絶望を回避するためユウタを神にしたかった。

11/17.「私がもし『』を取り返したらの話だけど」

「ねぇ、マナリス。――その、私がもしユウタの魂を取り返したらの話だけど、マナリスの星に預けても良いかな?」

(そしたら魔王とか魔神とか邪悪な魂をバンバン送りまくってめちゃくちゃにしてユウタを神に押し上げちゃうんだから!!!)

ぜひ!

「ぜひお願いします!!!!!!」

そしたらユウタさんに強敵や多くの困難に直面させ勇者アベルの雄姿をこの目で見たいのです!!!!!

これはマナリスにとって夢に見た初恋のアベルの絵本の世界の出来事が現実に自分の目で見られるチャンスだった。

(え!?良いの!?!?!?)

「どうして良いの?――マナリスにメリットなんてちっとも無いと思うんだけど」

いえ、凄まじくあるのですが……。

「アンの星で活躍なさった勇者様ならわたくしも大歓迎ですから。――それに、お友達なのですから困った時はお互い様です」

(マナリス!!!!これがお友達というものの素晴らしさなのね!!!!)

「そうね!!!困った時はお互い様よ!!!!――じゃあ、その時は魔王とか魔神とか邪悪な魂をバンバン送り込んじゃっても良いかしら!!!」

アンは急に上機嫌になり饒舌になった。

「はい!どうぞ遠慮なく!!!そういった魂はお高いですからアンが購入してきてくださるのは助かります!――それにわたくしもユウタさんに勇者としての道を歩ませて様々な強敵や困難に直面させてもよろしいでしょうか!!!」

マナリスも急に上機嫌になり饒舌になった。

「もちろんよ!!!ユウタのためにどんどんやっていきましょう!!!協力は惜しまないわ!!!!」

(もうマナリスとは親友も親友!大親友よ!!!)

(ユウタを神にするために一緒に頑張りましょう!!!)

「はい!ぜひ一緒に頑張ってまいりましょう!!!」

わたくしはアンと思いが通じて嬉しいです!これが「お友達」、いえ、親友なのですね!!!

ぜひユウタさんを、アベル様の勇者アベル物語をこの目で見て共に愛し合う穴姉妹になるために!!!

かくして和解し仲良くなったマナリスとアンはユウタについて目的は違えど手段が一致しそれぞれの欲望のために計画を進めていくのだった。

12/17.「おかえりなさいませ」

そしてマナリスはアンと十分に戯(たわむ)れた後(あと)自宅に帰還した。

「おかえりなさいませ、マナリス様」

ラヴリスはマナリスを迎えるとお辞儀してそう言った。

(マナリス様の様子からして、アン様の事は上手くいかれたのですね)

ラヴリスはマナリスの様子を見て成功したのだと安堵した。

「ただいま、ラヴリス。お留守番ありがとうございました」

マナリスはラヴリスに微笑んでそう返事をした。

「いえ、マナリス様に仕える天使として当然の事をしたまでです!――ところであの、マナリス様――世界神様が本部の執務室に来るようにとの事です」

「えっ、お母様が!?――分かりました、ただちに伺います。ラヴリス、引き続きお留守番をお願いしますね」

マナリスはカトラスに呼ばれていたのだった。

わたくしは叱られてしまうのでしょうか……。

マナリスは自分が勝手な事をしたとカトラスに叱られてしまうのではないかと不安になってしまった。

「かしこまりました、マナリス様、行ってらっしゃいませ」

ラヴリスはマナリスを再び送り出す事となった。

「はい、それでは行ってまいりますね……」

マナリスはそう言うとカトラスがいる場所へとテレポートした。

(マナリス様、妙に不安そうだったわ……でもきっと大丈夫よ!マナリス様は何も悪い事をしていないのだもの!!!)

ラヴリスは長年の経験からマナリスが不安そうにしている事を察知したが、マナリスの事を信じており大丈夫だろうと踏んでいた。

13/17.「おう!よく来たな!」

「おう!よく来たな!――ほらそこの椅子に座れよ!」

するとカトラスが立って迎えてくれた。

「はい……――分かりました……」

マナリスはカトラスに挨拶すると指示通りに椅子に座った。

「ラヴリスから聞いたぞ?アンに会ってきたんだってな!」

わたくしはお母様に叱られてしまうのではないかと不安なのです……。

「は、はい……」

(お、どうした?)

「おい、マナリス。全然嬉しそうじゃねぇな」

お母様、わたくしが勝手な事をしてしまい申し訳ありません……。

「いえ、喜ばしい事ですし嬉しい事なのですが……その……」

(もったいぶらずに言ってほしいなぁ)

「その、何だ?」

マナリス!勇気です!勇気!!

「わたくしはお母様に何らお断りする事も無く勝手な事をしてしまい、お母様に何かお手を煩わせるような事があったなどの理由で、わたくしを叱るためにここへ呼んだものと……」

厳しい処罰は覚悟しております……!

「な~んだ、そんな事か。お前はほんと心配性だな」

え!?

14/17.「ではなぜわたくしをここへ?」

「ではなぜわたくしをここへ?」

わたくしを叱るためにお呼びになったのではなかったのですか!?

「そりゃもちろんアンと会って話してどうだったのか話を聞くためさ。あと感謝もあるしな」

(あたしがそんな事で怒る訳がねぇんだけどなぁ)

「感謝まで頂けるのですか……?」

わたくしは拍子抜けしてしまいました。

「あぁ、ダチ公が感謝してたぜ。アンがつれぇ時にお前が心配して会いに来てくれたってな。で、アンもちょっと元気を取り戻したみてぇでありがとうってよ――で、あたしからもありがとな」

(こりゃダチに恩を売れたも同然だな)

「いえ、感謝される程の事では。――わたくしはアンのお友達として当然の事をしたまでです」

感謝される程の事ではありません。

「良いぜぇそういうの。――いつまでもダチを大切にな」

(おめぇはアベルみてぇな事 言いやがるぜ)

「はい!」

(良いねぇ、あたしは素直で優しい女は大好きだ!あたしの座を狙ってコソコソと裏で動いてる連中と比べりゃ何千倍もな)

「あたしからの要件は以上だ。気を付けて帰れよ!あとこれからも頑張りな!」

とりあえずお母様に叱られる事が無くて良かったです!

「はい!これからも誠心誠意 女神のお仕事を頑張らせていただきます!――それでは失礼します!」

かくしてマナリスは頑張る事を決意しカトラスとの対談を終えテレポートで帰還した。

そして再び部屋で一人になったカトラスは頭の中で思案する。

(ティアラは中々隙を見せねぇかんな。ここで恩を売れたのは超でけぇ。でマナリスがハイランクの勇者を引き当てたアンと繋がれたのも超でけぇ。――全て順調だぜ。――これもアベルのおかげだな)

かくしてカトラスは自分が策略家になれたきっかけになったアベルとの思い出を回想した。

15/17.「今すぐ敵を全員ぶっ殺そうぜ!」

そしてこれはアベルがカトラスの勇者で攻城戦を行う前の事。

「おいアベル!!!とっとと武器を取って全軍に号令を掛けろ!!!今すぐ攻撃して敵を全員ぶっ殺そうぜ!」

カトラスはアベルに司令官のテントでそう言った。

カトラスは血気盛んで今にも攻めたがっている。

標的は魔王軍が籠城している今後の戦局を左右しかねない要衝の城郭都市だ。

「カトラス、君はこの戦争に勝ちたいのかい?」

アベルはカトラスに本質を問いただす。

「あったりめぇだろ!!!急に何を言い出すんだよ!!!」

カトラスはアベルが急に何を言い出すんだと困惑してしまった。

「じゃあどのようにして勝ちたい?」

アベルは本質へと迫っていく。

「どのようにってどういうこった?あたしはあんま頭が良くねぇから分かんねぇよ!!」

カトラスは訳が分からなくなっていた。

「どのようにというのは、例えば正々堂々と戦いたいとか、なるべく一般市民を死なせないようにとか、戦後の事も考えてなるべく都市を破壊しないようにしたい、とかだな」

アベルはカトラスに目的と理念についてを説いている。

「おー!なるほどそういう事か!おめぇの言ってる事が分かったぞ!――あたしは正々堂々と戦いてぇな!あとパンピーを死なせたくねぇのも同感だ。まぁ建物はしょうがねぇんじゃねぇか?あたしは建物ごと薙ぎ払っちまうしよ」

カトラスはアベルが言いたい事が分かり、自分の流儀を説いた。

「そしたらその理念の通りに今 目の前に広がっている城郭都市をどうやって手に入れるか?を考える。つまり方法を考えるという事。――正々堂々と戦い、一般市民を死なせないようにする方法は何だろうか?ってね――つまり目的と理念を定めて、それを実現するための方法を考えるって事だよ」

アベルはカトラスに目的と理念が定まればそれを実現するためにはどのようにすればいいかという方法を考える事が大事なのだと説いている。

「目的と理念と方法か……分かったようなまだ分っかんねぇような!!」

カトラスはまだモヤモヤしていた。

16/17.「さてどうする?」

「都市を落としたい。でも正々堂々と戦いたいし一般市民は死なせたくない。さてどうする?」

アベルは要点を簡潔にまとめた。

「おー!それなら分かりやすいな!!――でもどうしたらいいか分っかんねぇ!!!!」

カトラスはそれを実現するための方法が全く思いつかなかった。

「そもそも『正々堂々』って何だい?」

アベルはカトラスに本質を尋ねる。

「そりゃ、喧嘩だったら道具は使わねぇとか、同じ人数で、とかだな」

カトラスは自分の中の「正々堂々像」を話した。

「じゃあこれは戦争だし道具を使わないのは難しいから、同じ人数で戦ってみるかい?」

アベルはカトラスに奇抜な事を提案した。

「そりゃ面白れぇ!でもいいのか?攻城戦は攻める方が不利だぞ?」

正々堂々と戦う事が大好きなカトラスはアベルの提案に乗ってきた。

「うん、攻める方が不利なのは分かっているよ。でもカトラスは不利な方が燃えるだろう?」

カトラスは不利な状況ほど熱狂するタイプで、その様子を目の当たりにした事がアベルは当然その事を知っていた。

「よく分かってんじゃねぇかアベル、愛してるぜ!」

――あ!!!!!

カトラスはつい本音が漏れて女友達にするようにハグしてしまった。

「え!?」

アベルは驚いてしまった。

「いや、こ、これはちげぇんだ……!ついダチにやってるみたいにやっちまって……!――あ、ダチって女だかんな……!――友情だぜ友情……!だから誤解すんじゃねぇぞ……!?」

カトラスは察しの良い人が見ればアベルに惚(ほ)れている事が丸分かりな程の恥ずかしがりと慌て具合になっていた。

17/17.「あとは『』するにはどうするか、だね」

「わ、分かったよ……で、あとは一般市民を戦禍に巻き込まない様にするにはどうするか、だね」

アベルはティアラに『他の女とは絶対に恋愛しないで!』と言われているため反応し過ぎず次へと進めていく。

「お、おう……パンピーを巻き込まねぇ方法だよな………………考えてみたけど分っかんねぇ!!!!!」

カトラスは自分なりに方法を考えてみたものの思いつかなかった。

「じゃあこうしてみるのはどうかな。先ずは市民を全員解放してもらう。その見返りとして都市の守備兵力と同数の兵力を持って正々堂々と攻城戦を行う。そして敵が勝てば包囲を解き退路から撤退出来るようにする。負けても捕虜として親切に扱う。食料が足りていないようなら不足分も提供する。でどうかな?」

アベルはカトラスに人によっては甘々に聞こえる作戦を提案した。

「敵に飯までくれてやるのか!!ワッハッハ!!!おもしれぇ!!でも敵が乗ってくるか?」

カトラスは敵はそれでも乗ってくるとは思えなかった。

「大丈夫。きっと乗ってくるよ」

この城郭都市には敵の魔王軍からの補給はとっくに途絶えており、それは見捨てられているも同然の事で、敵からすれば勝っても負けても美味しい話に聞こえるはずだろうとアベルは確信していた。

「よっし!そうと決まりゃ今から2人で交渉しに行くぞ!」

カトラスは思い立ったらすぐに行動に移してしまう行動力お化けだった。

「うん!行こうか!」

カトラスとユウタは腕クロスをしてお互いに気合を入れるとただちに敵陣へ交渉しに行った。

かくして交渉は成立し市民は解放され不利な攻城戦にも勝ち捕虜も親切に扱ったのだった。

そして今に戻る。

(アベルが教えてくれた目的と理念と方法、今でも忘れてねぇぜ。――あたしはどんな手を使ってでもお前の魂を取り戻してやっかんな……!)

――カトラスは自分の手を上げその手のひらを見つめながらそう心の中で言い握りこぶしを作った。

かくしてカトラスも目的のために頑張る事を決意したのだった。

後書き

カトラスの過去編の魔王軍は実際には魔神の軍勢でありトータルで見ると魔神軍です。

まぁ戦闘狂な世界だったのでそりゃ戦う為にも支配する為にも強くなる必要が有ればどんどん強くなっていっちゃいますよね。

そしたら神の領域に片足を突っ込む奴も出てきてしまうというものです。

また2大陣営としては「自由を勝ち取りたきゃ戦え!革命・クーデター上等!自由万歳!」というカトラスの勢力と「力により己(おのれ)の理想の世界を手に入れるしカトラスにも消えてもらってこの世界を我が物にしたい」という魔神の勢力が対立しているという感じです。

ただ厄介なのは元世界神フリードの意向で定期的に都市や地方が壊滅する程のスタンピード(魔獣暴走=ダンジョン氾濫(はんらん))が発生したり魔王をはじめとする強力な魔族や闇の勢力の人材が豊富に誕生するという背景が有り魔神の誕生によりカトラスの手には負えなくなっていたという感じです。

そしてカトラスは戦神であり多くの者達を斬っていた為買っていた恨みも多くヒューマンでありながらカトラス憎(にく)しで魔族陣営に協力していた者達も多かったのですがアベルが峰打(みねう)ちや麻痺や催眠効果を付与した武器を導入する事で敵を死なせない様にしたり処刑をやめたりして当然その事でカトラスと衝突したもののアベルの良い影響でカトラスは徐々(じょじょ)に改心し「慈悲深く最強の女神」という印象まで構築出来やがて魔神も打ち倒し世界は平和になったという感じです。

まぁ結局ティアラへの当て付けでアベルを貰う事を条件にフリード側に付いてしまうのですが。

そして話は変わりますが作者自身は「真の友達」と「親友」はほぼ同じ意味かなぁと思っています。