[R18] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 9話 地球の女神 建国(アン視点)
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R18
第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)
第 9 / 12 話
約 24,000 字 – 38 場面 (各平均 約 630 字)
1/38.「『』寝てない?」
旅立ったユウタ達はバドが見張りをしている地点に差し掛かった。
「ねぇシェイク、バド寝てない?」
ニンはバドがぐっすりと寝ているのだと思ってユウタに訊いた。
「きっと寝ているね。駆けっこで疲れたんだろうからそっとしておこう」
びびりのバドが見張りの仕事中に寝落ちしてしまうのはよっぽどの事だった。
「分かった。皆にも伝えてくるね」
ニンは伝令役を買って出てくれていた。
「うん。お願い」
ユウタはニンを頼もしく思っていた。
「ちぇ、つまんないの。皆で取り囲んで起こしたらきっとびっくりして飛び上がるわよ!」
アンはバドにいたずらしたかった。
そしてアンがそのいたずら心のせいで高貴な客人の子供を泣かせて外交問題に発展するまで約180万秒(約3週間)。
「駄目でございますよ。バドを驚かせてはなりません」
ユウタはバドは怖がりだからバドの心臓に悪い事をしたくなかった。
かくしてユウタ達は静かにバドの横を通り過ぎていった。
2/38.「『』でございますのでご安心くださいね」
そしてユウタ達はしばらくすると隣の部族の見張りらしき男達が遠目に見えてきた。
「あの方達は隣の部族の見張りでございますのでご安心くださいね」
ユウタはアンに安心する様にと言った。
「全然安心出来ないんだけど……!」
アンは襲われたらどうしようと物凄く怖がっていた。
「剣を地面に突き刺して柄頭に両手を乗せている方が隊長のアルウィさんでございます。ああ見えてもお優しい人なのでございますよ」
アルウィは眉間にしわを寄せてこちらを睨み付ける様な眼差しを向けてきているのだがユウタはアルウィは優しい人だという事が分かっていた。
「どこがよ……!」
アンは全く信じられなかった。
かくしてユウタ達は隣の部族の戦士アルウィ達に近付いていった。
3/38.「我々に何の用だ?」
そしてユウタ達はアルウィ達と接触した。
「東のシェイクか。大勢で我々に何の用だ?」
ユウタは隣の部族の戦士隊長のアルウィから話し掛けられたのだがアルウィはどこか棒読みだった。
「アルウィさん、おはようございます。私達は今大河の河口へと向かっています。ここを通してください」
アルウィの前で馬を止め降りると事情を説明した。
「そうか。ところで目的は何だ?」
アルウィはその目的が気になりユウタに訊いた。
「国を造る為です」
ユウタは正直に話したのだが――。
「本気か……?」
――アルウィの部下達は驚いてしまった。
(東のシェイクが冗談を言うとは思えないが……)
そしてアルウィも本当だった事に驚き――。
「とりあえず俺の手には余るからうちの族長に会ってくれないか?」
――族長に決断してほしかった。
「分かりました」
ユウタには断る理由は無かった。
「よし。お前達はここに残れ。シェイク達は俺が村まで送る」
アルウィは部下達に命令を出すと馬に乗った。
「はっ!」
アルウィの部下達はアルウィに従った。
「シェイク達は付いてこい」
馬に乗ったアルウィはユウタ達を先導しようとした。
「はい。先導ありがとうございます。宜しくお願いします」
ユウタは先導を買って出てくれたアルウィに感謝し馬に乗るとアルウィが移動を始めたから付いていった。
4/38.「案外優しそうね」
「アルなんとかって人なんか最初は怖いと思ったけど案外優しそうね」
アンはアルウィの印象が良くなってきた。
「左様でございますね。アルウィさんは真面目で寡黙な方なのでございますよ」
ユウタはアンの中でアルウィの見た目の誤解が解けて良かった。
「アルウィさんはああ見えても手先が器用で料理もそうだし木彫りなんかも得意なのよ」
ニンも会話に加わりアルウィの豆知識を披露した。
「へー、意外。なんか女の子みたいね。木彫りの何が良いのかは未だに分かんないけど」
アンはアルウィの趣味からしてまるで女の子の様だと思った。
「聞こえてるぞ」
アルウィは戦士や男としての誇りが人一倍強く女の子みたいだと言われたり木彫りの趣味まで揶揄われてさすがに我慢ならなかった。
「わ……!」
アンは焦ってしまった。
「アルウィさん申し訳ございません。――さて、このあたりでアン様の目標をお聞かせいただけますか?」
ユウタはアルウイに謝罪し話題を変えた。
「私は~目先で言ったら~とりあえず甘い物が食べたいのと~いっぱい寛ぎたい!」
アンは亜空間での暮らしが恋しくて甘い物が食べたくて馬にさんざん跨っているからいい加減柔かい椅子かソファにめいっぱい座りたかった。
「畏まりました」
ユウタはアンの要望を叶えるつもりでいた。
かくしてユウタ達はアルウィの村へと向かっていった。
5/38.「東のシェイクが来ました」
そしてユウタ達はアルウィの村に到着しアルウィは――。
「族長。東のシェイク達が来ました」
――その事を族長のカルムに報告した。
「来たか。で、どんな組み合わせだ?」
カルムはアルウィにどういうメンツが来たのか訊いた。
「構成はシェイク、許嫁のニン、シェイクが敬語を使っていた見慣れない女、その他数組という感じですがシェイクと女2人がそこまで来ています」
アルウィはカルムにシェイク一同の構成と玄関前で待機している事を話した。
「そうか。とりあえず通せ!あと他の客人はもてなしておけ!」
カルムはユウタに会うのを楽しみにしていて面会を許可し他の来訪者をもてなす様に言った。
「はっ!」
アルウィはカルムの指示に従いユウタ達を呼びに行った。
「入って良いそうだ。付いてこい」
アルウィがやってきて玄関前で待っていたユウタ達に言った。
「分かりました。それじゃあ入ろうか」
ユウタはアルウィが言った事に了解しアンとニンに言った。
「もちろんよ!ニンもね!」
アンはアウェーな状況でしかもアルウィなど強面の戦士がいるなかで非常に怯えていたのだが目立ちたがり屋だしユウタのパートナーという印象付けをしたかったから大事なイベントには顔を出したかった。
「本当に私も良いの?」
ニンはアンが昨日まであれだけ自分の事を拒絶していたのに付いてきてほしがっているのが何でなのかいまいち分からず確認で訊いた。
「当たり前でしょ!ニンも武器いつでも出せる様に準備しておきなさいよ!」
アンは顔を出したかったとはいえ怖かったしニンもいてほしかった
しかしアンは小声でユウタにも聞こえるぐらいのつもりでニンに言ったのだがこの村の戦士やアルウィといった周囲にも普通に聞こえていた。
「何をしている。族長がお待ちだ。早く来い!」
アルウィはアンとニンに催促した。
「今行くわよ!アルなんとか!」
アンも中へと入っていったがやはりアルウィは高圧的で怖いなと思い印象は悪くなったのだった。
(「アルウィ」なのだが……)
アルウィは自分の名前をそんな風に言われるのは不満だったがシェイクがいる手前余計な事は言えなかった。
6/38.「よく来た!」
「よく来た!そこに座ってくれ!」
族長のカルムは応接の間で胡坐を掻いて座っていてユウタ達が座る場所を手で指し示した。
「来てやったわ!感謝なさい!」
アンは初対面のしかも隣の村の族長に物怖じする事無く上から目線を披露した。
*「このお馬鹿!こじれるから貴方は黙ってなさい!」*
ティアラはユウタ達がスムーズに交渉をする為にもアンには黙っていてほしかった。
「アン!そんな口の利き方をしては駄目よ!」
ニンは慌ててアンに注意した。
「がっはっは!おもしれぇ!そんな口の利き方されたの生まれて初めてだぜ!よく来た!よく来た!」
カルムはアンとは初対面ながらもアンからの不敬な態度を全く気にしていなくてむしろ面白がっていた。
*「カルムらしいぜ全く……」*
2号はカルムがアンにきれなかった事にほっとしつつ良くも悪くもカルムらしいなと思った。
「アン様はわたくしの左隣にお掛けくださり、ニンは僕の右隣に座って」
ユウタはアンとニンの座る場所を指定した。
「分かったわ!」
アンはユウタの左隣が割と気に入っていてユウタが座ると自分も座り――。
「そうするね」
――ニンもユウタの隣に座れる事に喜びつつアンと同じぐらいのタイミングで座った。
7/38.「招(まね)いてくれてありがとうございます」
「カルムさん、家に招いてくれてありがとうございます」
ユウタはカルムに感謝した。
「しっかしシェイクよ、両手に花じゃねぇか!羨ましいぜ!」
カルムは自称「最強の戦士」で実際この辺りでは最強なのだが鬼嫁の尻に敷かれていて側室を持てていないからシェイクの事が本当に羨ましかった。
「ちょっとおじさん!ユウタは両手に花なんて持ってないわよ!」
アンには冗談が通じなかった。
「がっはっは!花ってのはシェイクの両隣の嬢ちゃん達の事だぜ!」
カルムは笑ってアンに意味を教えてあげた。
「へー。悪い気はしないわね!でも『シェイク』じゃなくて『ユウタ』よ!ユ・ウ・タ!」
アンは花や自然が好きだから自分が花だと言われて悪い気はしなかったがユウタの名前についてを訂正した。
「お前もやっと名前が付いたんだな!」
カルムは嬉しく思いつつもいつの間にかユウタに名前が付いている事もそうだがユウタが見慣れない女の子を連れてきたりその女の子が自分に全く怖気付いていなかったりそもそも大勢で村へと来ていたりと次々と変化が起こっていて驚いていた。
「はい。つい昨日の事ですが」
ユウタはカルムにいつの出来事かは話した。
「名付けたのはもしかしてこの嬢ちゃんだったりするのか?」
カルムはアンがユウタに名前を付けたのだろうと思った。
「そうよ!よく分かったわね!」
まぁ新しい変化と言えばアンがいる事だろうし「『シェイク』じゃなくて『ユウタ』よ!ユ・ウ・タ!」と執着している様子からして誰でも勘付きそうなものではあった。
「そうか……ユウタの妹で隠し子が見つかったとかか?」
カルムは「アン」が東の村では族長一族の娘によく付けられる名前である事を知っていた。
「そんなんじゃないわよ!」
アンは誰かの姉妹になる気など全く無く否定した。
「がっはっは!そうかそうか!」
カルムは笑っていた。
8/38.「『』怪我してない?」
「ねぇユウタ。このおじさん物凄く怪我してない?」
アンは一息吐いたところでカルムが怪我している事をユウタに小声で訊いたのだが――。
「お、この話聞きてぇか?」
――カルムには聞こえていて訊き返されてしまった。
「気になって集中出来ないから聞かせて!」
アンは謎解きが好きで何でそうなったのかという訳が妙に気になる性格でとても聞きたかった。
「こりゃよ、えらくべっぴんの女傭兵がいてな。俺の女になるんなら手伝ってやるつったらぼこられちまったんだよ!がっはっは!」
カルムは怪我を男の勲章だと思っていてその痣を指差しながら上機嫌で話した。
*「笑い話になっていて良かったですね……」*
1号は2号がしでかした事が笑い話になっていてほっとした。
*「まぁあいつは不死身だから……」*
そんな訳は無いのだが2号も冷や汗を掻いていた。
*「不死身な訳が無いですよ……」*
1号は2号の言い訳に呆れた。
「それは手痛かったですね」
ユウタはカルムの痛みを思いやった。
「自業自得ね!」
アンは女に悪戯する男には厳しかった。
「まぁ治りかけだし自業自得といえばそうなんだが!で、こっちはそれを聞いた俺の嫁さんにやられたやつだ!がっはっは!」
カルムはお仕置きされて怪我した事は全く気にしていなくて上機嫌に嫁にやられたもう片方の痣を指差して豪快に笑った。
「お大事に」
ユウタはカルムに自分の体を大事にしてほしかった。
9/38.「で、この村に何の用だ?」
「ま、そんな事が有ったって話よ!で、ユウタ達はこの村に何の用だ?」
カルムは少し談笑をしたところでユウタ達がこの村に来た訳を訊いた。
「大河の河口へ向けて移動していたのですがアルウィさんに俺の手には余るからうちの族長に会ってくれないか?と提案されたんです。それで来ました」
ユウタはカルムに訳をありのままに話した。
「そりゃ手間を掛けさせちまって悪かったな!」
カルムはユウタに謝罪した。
「いいえ、大丈夫です。」
ユウタはカルムに気にしないでほしかった。
「で、何故そんな所へ?」
カルムは何でユウタ達がそこへ向かっているのか聞きたかった。
「国を造る為です」
ユウタはカルムに目的を話した。
「おー。また大きく出たな。――……もしかして女傭兵が関わってたりするのか?」
カルムは2号に「領地を広げねぇか?」と打診されていたのだ。
「いいえ。私が知る限りでは無関係です」
ユウタはアンに導かれているのであって1号達に導かれている訳ではなかった。
10/38.「じゃあ何故(なぜ)『』を?」
「そうか。じゃあ何故国造りを?」
カルムはその訳が知りたかった。
「こちらにお掛けになっているアン様がその様にご所望だからでございます」
ユウタはカルムに明かせる言葉を選びながらその訳を話した。
「この嬢ちゃんがね~ユウタに敬語を使わせる程とは一体何者だ?」
カルムは髭をもじゃもじゃしながらアンの正体について考え込んだ。
「絶対に教えないわよ!」
アンは自分の正体を教える気が全く無かったがグルメで釣られれば別だった。
「がっはっは!そうかそうか!ま、しつこく訊くような無粋な真似はしねぇさ」
カルムの性分的に正体を隠している者の正体を詮索するつもりは無かった。
というのもカルムだって都市部に遠征した際には身分を隠して大人のお店に出入りしているから自分も詮索されるのが嫌だったからだ。
*この時代の「都市」とは複数の街道が交わったりする交易の要衝で戦争に負けて流れてきた者や村から追い出された者、奴隷の身分で支配から逃れてきた者、定住し通行人への商売を営む者達によって構成されている多民族な独立領地なのだが、それゆえ争いを避ける為「王」を作る事が出来ていないが流れてきた部族の長や商人達の代表者による寡頭制による議会体制が敷かれていて兵力も有るから長らく独立性を保っているがアンや1号達からすればそんなものは国家の規模とは言えず議会の連中も領土拡大をする余裕が無いからユウタに他にも有るその様な都市や多くの村を、つまりこの一帯を支配する国を造ってもらうしか無かった。*
「その様に気遣ってくれてありがとうございます」
ユウタはカルムに感謝した。
「いやぁ、お前は本当に謙虚だなぁ!がっはっは!」
カルムは族長として今までに村の者達だけでなく他の族長や通行する商人達と会ってきたが若くして謙虚で善意に満ち溢れていながらも頭がきれ多くの周辺民族と交渉し交易路を開き高原の部族を代表する盟主でもあるユウタに感心していた。
というのもカルム自身も最強の戦士でありながらきれ者であり何でも戦で解決しようとする戦士達や何でも金で解決しようとする商人達に呆れていた分ユウタへの印象が良かったのだ。
「その様に評価してくれてありがとうございます」
ユウタはカルムがその様に評価してくれているのが嬉しくて感謝した。
11/38.「で、どんな国を造るんだ?」
「がっはっは!で、どんな国を造るんだ?」
カルムは本題に入った。
というのもカルムにとっては自分の今後の態度を決める為にもユウタがどんな国を造ろうとしているかが重要だった。
「幾多の民が幸せに暮らせる国を造ります」
ユウタは要約して答えた。
「幾多の民とやらには俺らも入れるのか?」
カルムは具体的な質問を始めた。
「はい、入れます。制限は無いです」
ユウタは誰でも受け入れるつもりだった。
「ならず者もか?」
ニンも気にしていたがやはり誰でも気になる事だった。
「はい。仕事を与え生活を保障し更生を促します」
ユウタは安定した生活を与えさえすればある程度は落ち着いて更生してくれると思っていた。
「まぁそうだよな。普通の仕事に就けて金が貰えりゃ盗賊なんて悪さする必要がねぇもんな」
カルムも同感だった。
しかしユウタもカルムも横領や窃盗、暴行、詐欺などといった犯罪が無くなるとは思っていなかった。
「そうですね」
ユウタとしては治安を良くする政策は既に考え付いていて幸せな国を造れる自信が有った。
12/38.「どこぞの連中が侵攻してきたらどうするんだ?」
「どこぞの連中がお前の国への編入を拒んだり敵対したり侵攻してきたらどうするんだ?」
カルムはユウタを試す様な事を訊いた。
「私は無理に編入を求めませんし支障が無い限りは敵対されても構いませんが攻撃されれば国として戦いますし私達が勝っても決して相手を奴隷などにはしません」
ユウタはカルムに正直に自分の意思を話した。
(戦の用意が有るのならやはり甘ちゃんという訳では無い様だな。しっかし国造りとはなぁ。まぁこれも時代ってやつか?ま、恩を売っておくか)
「分かった。今日は泊まってけ。寝床も食い者も用意してやる」
カルムも自分の村でも人が増え今後を模索しているところだったし時代の流れを感じていて今の内にユウタに恩を売っておく事で編入する選択肢を確保しておきたかった。
「分かりました。ありがとうございます、カルムさん」
ユウタもカルムの恩を売っておきたいという意図には気づいていたし自分も未来の為に喜んでそれを買っておきたかったからカルムの提案を受け入れて感謝した。
「やったわ!ユウタ!寝床と食いもんよ!」
アンは外で屋根も無い所で地面で寝たり今後の事を考えて保存食を少しだけしか食べられないなんて絶対に嫌だったから一番喜んでいた。
「左様でございますね。おめでとうございます、アン様」
別にアンが成し遂げた事でもないのだがユウタはアンを祝った。
「がっはっはっはっは!」
豪快なカルムもカルムでめでたい事だったから喜んでいた。
かくしてユウタ達はカルムの村で一晩泊まる事になりイルクの時の様に領民を宛がわれユウタ一行は翌朝皆に見送られながら出発したのだった。
13/38.「いつか俺達も「」てくれよ」
(いつか俺達も迎え入れてくれよ、ユウタ)
カルムは豪快に笑い大層めでたそうにお酒をぐびぐびと呷りながら去っていくユウタ達の背を見届けた。
(俺はお前の事がさっぱり分からない。戦士なら例え全滅してでも最後まで戦うべきだと俺は思っていたのだが……こういう戦士の生き様も有りなのかもしれないな。俺はやっとカルムの親父がお前の事を買っている訳が分かったかもしれない)
p style=”padding-left: 20px;”>アルウィは部族の連合で兵を集め異郷の連中と戦うつもりだったのだがその戦を回避し抗う事無く恭順する事を選択した東のシェイク達に不満を抱いていた。そして東のシェイクが高原の諸部族の代表として交易を仲介し戦争に発展させる事無くウィンウィンの関係を構築した事に一定の理解を示していたもののやはりその決断に戦士として不満を抱かざるを得なかったのだがシェイクの決意と多くの民に慕われている様子を見てその後ろ姿にある種の「戦士」を感じたのだった。
14/38.「ここから先は危険だよ!」
そしてユウタ達は川の民の縄張りに差し掛かった。
そもそも「川の民」とは川の沿岸部を縄張りとしている部族の事で高原の部族とは連合も生活様式も文化も異なっている。
「ねぇ、シェイク。ここから先は危険だよ!本当に行くの?」
ニンは不安になりユウタに訊いた。
「うん、もちろん行くよ。まぁ定期的に連絡は取り合っているし交易もしているから大丈夫」
ユウタがそう言うと――。
「ねぇ、何が危険なの?」
アンはユウタに何が危険なのか訊いた。
「わたくしは危険とは存じておりませんのでご安心ください」
ユウタは危険だとは思っていなかったしアンに安心してほしかった。
「私達高原の部族と川の部族は昔からいがみ合ってるの。シェイクが掛け合ってからは大分そういうのは無くなったけどでもまだ緊張状態は残ってるのよ」
ニンはアンにこれまでの経緯を教えてあげた。
「へー。じゃあ別のとこ通るわよ!」
アンは迂回したかった。
「迂回する方がかえって危険でございますよ。この街道には盗賊もあまり近寄らないので」
正規の街道を通る方が盗賊に襲われる可能性が少なかった。
というのも正規の街道での襲撃は問答無用で死刑だったから盗賊もそんな危険を冒したくはなかったのだ。
そして盗賊は都市部の者達と野盗の二種類が有り都市部の者達は独自の地区を形成し売春や窃盗、奴隷売買などといった人目を憚る商売で生計を立てていて野盗は一般的な村の様に悪党の家族達で集落を形成し縄張りに侵入してきた者達を捕獲して持ち物を奪い取り奴隷にして都市部で売り捌いて生計を立てているのだが今ユウタ達が気を付けなければいけないのは主に野盗であり野盗達も交易が活発になっている今その恩恵を受けたいが為に周辺の部族に対して強硬手段には打って出ていなかったしこの大所帯の一行を襲う気力も無かったしましてやユウタは野盗達とも襲撃を減らす取り組みとして取引しているから組織的な襲撃は滅多に無かった。
「もー!どうしてそんな危険な場所を通らないといけないのよー!」
身の安全が第一のアンだって危険を冒したくはなかったのだがユウタが迂回してくれないから嘆いた。
15/38.「あれが見えますか?」
「アン様、あれが見えますか?彼らが川の民の見張りです」
遠くに人影が見えた。
「あ、ほんとだ!なんかいる!」
アンも見えた。
「ねぇ、シェイク。本当に大丈夫かな?」
正直ニンも不安だった。
というのも報復し合う様な激しい対立をしていた時期も有ったし今は女子供も連れていたから戦闘になるのは避けたかったのだ。
「大丈夫だよ。安心して」
ユウタはニンに優しく言い聞かせた。
「うん。分かった」
ニンはユウタの言葉を聞いて改めて安心した。
16/38.「お前は『』だよな?」
そしてユウタ達は川の民の見張り達と接触した。
「お前は高原の盟主シェイクだよな?」
見張りの隊長ルガルが相手がそっくりさんだったら大変だからと一応確認してきた。
そしてユウタは高原の外では「高原の盟主」として名が通っていた。
「はい、そうですよ。ルガルさん」
(何度も顔を出していて良かったです)
ユウタは自分がシェイクである事を認めたし相手がルガルだという事も分かっていた。
「そうか。で、多くを連れている様だが商人でもなさそうだし目的は?」
ルガルはユウタに目的を訊いた。
「大河の河口へと向かっています」
ユウタはルガルに目的地を話した。
「その目的は?」
ルガルはその目的を訊いた。
「国を造る為です」
シェイクはその目的も話した。
「今国つったか?」
「本気かよ」
「きれ者って聞いてたけどこいつも頭羊なんじゃねぇか?」
「へっへっへ」
川の民の戦士達は心の声を隠そうとはしていなかった。
というのも川の民は高原の民を「心まで羊になってる」などと蔑み高原の民も川の民を「魚ばかり食べているから魚顔が多い」などという偏見や蔑みの風習はまだ残っていた。
そして多くの部族が縄張りを守りあまり協力しようとせず人口が多い都市部ですら多民族の対立は残っていて分裂の危機に有るのが分かっているからこそ不可能だと思っていた。
17/38.「ちょっとあんた達!『』が悪いわよ!」
「ちょっとあんた達!感じが悪いわよ!ユウタが国を造ろうとしてたって別にいいじゃない!」
アンは臆する事無く物申した。
というのもアンは自分や自分に関わる大切な人達が馬鹿にされるのは気に食わない性分だったのだ。
「うちの戦士達が無礼な物言いをしてしまってすまなかった」
ルガルは謝った。
「隊長……!」
鬼教官であるルガルが謝ったから部下の戦士達は狼狽えた。
またルガルはユウタのおかげで川の民は交易で潤っているし暮らしが良くなった事も実感していて高原の民との和解まで導いてくれたから頭が上がらなかった。
そしてユウタに嫌われてしまう事でまた対立状態に戻ったり交易から外されたりユウタの国造りが成功した際にその恩恵が受けられなかったらと危機感を抱いていたのだった。
「お前達も高原の盟主に謝れ!今すぐに!」
ルガルは無礼を働いた戦士達にも謝る様にと怒鳴った。
「すみませんでした……!」
戦士達もルガルに怒鳴られて即謝った。
「別にいいんです。気にしないでください」
ユウタはルガル達に別に気にしてほしくなかった。
「心遣いに感謝する。いずれにせよ長老に一度話を通してくれないか?」
ルガルもまた自分の手には負えなかったから長老への面会を要求した。
「えー!またー?」
アンはこの繰り返しが嫌になっていた。
「お願いだ」
ルガルとしてはぜひそうしてほしかった。
「分かりました。ぜひ長老に会わせてください」
ユウタも長老に会って話を通しておきたかったし望むところだった。
「それでは俺が村まで送る。お前達はここで見張りを続けていろ!」
ルガルが道案内する事をユウタに話し部下達には見張りを続ける様にと命令した。
「はっ!」
かくしてユウタ達はルガルに連れられて川の民の村へと移動を始めた。
18/38.「いつもありがとな」
「いつも羊肉や羊毛、羊乳のバターをありがとな」
ルガルはユウタに感謝した。
ちなみに羊肉については羊を生きたまま運ぶ事で新鮮な羊肉を食べられる様にしている。
「いえいえ、こちらこそいつも川魚をありがとうございます」
ユウタもルガルに感謝した。
ちなみに川魚も生きたまま運ぶ事で新鮮な魚を食べられる様にしている。
「川の民と高原の民は長年争ってきたがシェイクのおかげでその争いも無くなって暮らしが豊かになって俺の嫁さんも子供も喜んでいるし感謝している」
ルガルはユウタに心底感謝していた。
というのもルガルは対立するのがチキンレースをしている様でもう嫌だったのだ。
「それは良かったですね」
ユウタも頑張った甲斐が有るというものだった。
「へー。お嫁さんと子供ってどんな感じなの?」
アンが食い付いた。
というのもアンは子供が好きなのだ。
何故なら子供はアンの正体を気にする事無く「お姉ちゃんお姉ちゃん」と遊んでくれるからだ。
「嫁はよく鬼嫁か?と訊かれるがその正反対だ。で、子供は一男一女なんだが男の子は戦士ごっこ、女の子は花嫁ごっこでよく遊んでいるぞ」
ルガルは愛妻家だったし女癖も無かったから嫁は温厚なままだったし鬼嫁へと変貌を遂げる事は無かった。
「へー!そうなんだ!私が遊んであげようかしら!」
アンは時間が有ればルガルの子供達と遊んであげても良いかと思った。
「その時は頼む」
ルガルもアンが自分の子供と遊んでくれるのなら幸いだった。
かくしてユウタ達は川の民の村へと移動していったのだがアンは後にルガルの子供にごっこ遊びで男の子には狩られる盗賊の役、女の子には不倫相手の役をさせられるという大変な目に遭う事になるのだった。
19/38.「よくぞ来た」
そしてユウタ達は川の民の村に着くとユウタとアンとニンは長老の家へと招かれた。
しかし今回面会する長老は気難しいしその村の面会方法は大事な時程基本的に圧を掛けるつもりで幹部達が参列するから中にはこれまた気難しい人もいるだろうしという事でユウタはアンに今回だけは黙っていてほしいとお願いしていて「分かったわ!」と了承も貰っていた。
「改めてよくぞ来た、東のシェイクと同伴の女達よ」
呼んできた村の要人達も参列したから改めて川の民の族長ザムカルが相対しているユウタ達に話し掛けた。
「招いてくれてありがとうございます」
ユウタはザムカルに感謝した。
「良い良い。わしは長老のザムカルじゃ。それにしても高原の盟主シェイクよ、山岳の節は大変だったのう」
ザムカルは自己紹介しユウタが山岳の民との交渉で形だけとはいえ奴隷になった事を労った。
またザムカルは長老なのだが村長でもあり族長でもあった。
というのも「長老」とは大体「族長」の引退後の役職で引退の目安は満足に戦えなくなった時であるが族長に指名出来る者がいない場合に限り長老が族長を兼ねていたりするものなのだ。
「へっへっへ」
参列者達はザムカルが「○○の節は大変だったのう」と皮肉を言ったと思って高原の民を良く思わない者達はくすくすと笑い参列していたルガルはまずいと思った。
20/38.「静(しず)まれい!」
「静まれい!――すまなかったな」
ザムカルは参列者達の陰口を静まらせようと叫んだのだがザムカルが叫んだ事が本気だった事が皆に伝わって皆は黙ったしザムカルは謝罪した。
「いいえ、気にしないでください。山岳の民との交渉では盟主と外交大臣の意に反し暴走してしまいそうだった戦士団長を納得させるべく形だけその様にしただけですから」
ユウタはザムカルに気にしてほしくなかったしこの場にいる知らない者の為にも一応何が有ったのか話した。
「そうじゃったのう。しかしわしらにも相談してくれたら加勢したものを」
ザムカルはユウタ達を案じて言ったのだがまたザムカルが皮肉を言ったと思った者達がくすくすと笑っていた。
(全く。わしの真意も分からん愚か者達じゃ)
ザムカルはその者達の事を良くは思っていなかったし愚か者だと思っていた。
というのもその者達は戦争を好み奴隷制を解禁しようとし他部族との交易などの交渉では自分達は騙されている、不当な条件を吞まされているなどと誤解し他部族の事を見下していてザムカルも手を焼いていたしどういう訳か自分の発言を皮肉と捉えられてしまう事にも嫌気が差していた。
「高原の問題は高原で解決すべき事ですから川の民の手を煩わせる訳にはいきませんしそれに私は戦争にならない方法が選べるのでしたらそちらを選びたいので」
ユウタとしては高原の問題を高原で、しかも自分の村だけでしかも戦争にならずに解決出来て心底良かったと思っていた。
「そうじゃのう。わしも同感じゃ。――」
ザムカルはユウタが言った事に理解を示したのだがこれまたザムカルが皮肉を言ったと思った者達がくすくすと笑った。
(我慢我慢我慢我慢我慢我慢……!)
アンはユウタに「使えない駄女神」などと思われたくなかったからさっきからずっと言い付けを守って怒鳴り散らしたいのを我慢していた。
21/38.「さて、何用じゃ?」
「――さて、高原の盟主よ。あれだけ連れて何用じゃ?」
ザムカルはユウタに目的を訊いたがまたまたくすくすとされた。
「大河の河口へ向けて移動していました」
ユウタはザムカルに目的地を話した。
「それは何故じゃ?」
ザムカルはユウタに何でか訊いた。
「国を造る為です」
ユウタはザムカルに目的を話したのだがその瞬間場がざわざわとし――。
「国を造るだと!?何を戯けた事を!こんな小僧に国など作れやしない!」
――金庫番のバジが怒鳴った。
金庫番のバジは横領や汚職をする為に金庫番になったクズでザムカルが呆れる主張の数々を唱えている膨張主義文官派の急先鋒だった。
*「文官」とは軍人ではない官僚の事。
*「膨張主義」とは領土や勢力の拡大を目指す思想の事。
*つまり「膨張主義文官派」とは軍人ではない官僚が戦士を支配し領土や勢力の拡大を目指す思想を持つ者達の一派の事。*
またバジは自分では戦士にはなれないし戦士達が歯向かってくると鎮圧されてしまうから戦士を文官の下にし、つまり自分が戦士達を管理する事で村を牛耳り侵略戦争を始めたかった。*
そして若くして活躍しているユウタに嫉妬していて蔑みたかった。
22/38.「私の『』ならそんなのちょちょいのちょいよ!」
「何が戯けた事よ!私のユウタならそんなのちょちょいのちょいよ!」
アンは黙ってられずついに反論してしまいバジに眼を飛ばした。
(「私のユウタ」って……とほほ……)
アンとバジが口論している一方でニンは心の中で泣いた。
「バジよ、よさんか。――家臣が無礼を、すまん」
ザムカルは無礼を働いているバジを黙らせ謝った。
「長老……!」
バジ達は長老が謝った事が不満だった。
「大丈夫です。気にしないでください」
ユウタはザムカルに気にしないでほしかった。
「高原の盟主は心が広くて助かるのう。――さて、どの様な国を造りたいのかのう?」
ザムカルは無礼を働いているバジを黙らせ話の続きとして気になっていた事を訊いた。
「幾多の民が幸せに暮らせる国です」
ユウタは国の概要を話した。
「世迷言だ!他の部族となど相容れない!」
バジは黙ってはいられなかった。
「そうだそうだ!」
バジに同調する者達もやじを飛ばした。
23/38.「やってみなきゃ分かんないでしょ!」
「何よ!そんなのやってみなきゃ分かんないでしょ!」
アンは成功すると思っていた。
バジは黙ってはいられなかった。
「バジもお前達もよせ!――で、わしらは幾多の民に当てはまるのかのう?」
ザムカルはバジ達を黙らせ次に自分達が受け入れ可能かを訊いた。
「はい、もちろんです」
ユウタからすれば当然ザムカル達も受け入れ可能だった。
「長老!我々がこいつの国に加わると言うんですか?我々の誇りと土地を売る気ですか!」
バジは長老の権威を失墜させる為ここぞとばかりに長老も口撃した。
「私達はそんな事しないわよ!馬鹿じゃないの!」
アンはそんな酷い事をするつもりなど無かったしユウタもそんな事をするつもりが無いと分かっていた。
「で、大河の河口と言っておったがここからさらに南下するのかのう?」
ザムカルはもうバジを黙らせる事を諦めユウタは気にしていない様だから会話を続けた。
「はい。ここからさらに南下します」
ユウタはここから川沿いに南下していけば目的地に着く手筈だった。
24/38.「海に近付けば獣(けもの)に食われるぞ!」
「海に近付けば海に棲まう獣に食われるぞ!そこに国を造るなど言語道断だ!」
バジに触発された漁師長のドゥムが警告した。
「我々まで祟られたらどうしてくれる!小僧答えろ!」
バジも捲し立てた。
「あんた達いい加減にしなさいよ!祟りなんて有る訳無いでしょ!」
アンだけは女神だから祟りなどという迷信なんて存在しない事を知っていた。
しかし海洋生物は実在するから突っ込まれたら困るしあえてそこには言及しなかった。
*そして川の民に伝わる迷信の正体としては、「棲まう獣」とは本当に実在し世界で2番目に大きい海洋動物で全長約22メートル程の「シロナガスクジラ」や59種類の「サメ」、「イルカ」の事だった。*
*またクジラが神、サメが神の戦士、イルカが助けてくれる海の天使だと信じられていたし実際クジラに衝突すれば船は転覆して「神がお怒りだ!」と文明レベルが低い内は誤解してしまうしサメは本当に襲ってくるしイルカは溺れていたら背中に乗せて助けてくれるのだった。*
*また「祟り」とは言い換えればその海の神に「目を付けられる」という事で他にも船の転覆や海難事故、離岸流、津波もろもろの恐怖が言い伝えられてきて確固たる恐怖として定着してしまっていたのだった。*
「我々まで祟られたらどうしてくれる!小僧答えろ!」
バジはユウタに大事な質問を突き付けた。
25/38.「どうするのかのう?」
「確かに祟られるのは困るのう……高原の盟主よ、どうするのかのう?」
ザムカルはユウタが国を造る事に関しては全く問題は無かったのだが自分達に危害が及ぶかもしれないとなれば川の民の長老としては話は別だった。
「だからそんなのは無いんだって!」
アンは説得を続けたが根拠を示す事が出来ず口だけでは無駄だった。
「仮に『祟り』が実在しているとして移住した我々が祟られるのは分かりますが何故そこへ移住しない貴方々が祟られるのですか?」
ユウタは何としてでもユウタを追い詰めようとしているバジの主張の弱点を突いた。
「確かにそうじゃな」
ザムカルは納得させられた。
「そ、それは……お前達を行かせた我々への罰だ!」
バジは何とか最後の一言を思い付いた。
「それでは貴方々は我々への協力を一切せずに追い返したら良いのではないですか?そして我々が建国した暁には貴方々は我々からの協力を一切受けられない事になりますが、それでも宜しいのですよね?バジさん」
ユウタは反論しこの村の要注意人物としてバジを把握していたしここで名前を繰り出した。
「お、脅しだ……!」
バジはユウタが見事に建国を果たした際自分のせいでユウタからの協力を得られなくなってしまったと責められるのが怖くなった。
「そもそもの話はまだ有ります。ここから海は遠いですよね。そしてここから海までの間にはいくつもの集落や都市が有りますから仮に祟りが実在したとしても貴方々には関係が無い事だと思うのですが」
ユウタはバジに論破という名の止めを刺したと思いきや――。
26/38.「『』は実在する……!」
「だが……!祟りは実在する……!」
――しぶといバジは自分が恥を掻かされて完敗した事を認められず少しでも名誉を取り戻そうとしていた。
「それでは1つ訊きますが実際に海やその神に祟られた事は有るのですか?」
ユウタは食って掛かってくるバジにこういう議論も後学の為に今の内にしておくべきだろうと思い会話を続けた。
「何……だと……?」
バジは狼狽えた。
「確かに無いかもしれんのう」
(良いぞ。その調子じゃ)
ザムカルはユウタに愚か者達を懲らしめる様に説き伏せてほしかったしユウタの実力を見てみたかったのも有るが純粋に議論を楽しんでいた。
「無いがこれまでに何度かは有ったはずだ!それに海に神はいるぞ……!」
バジもさすがにすぐにばれる嘘は吐けないから「有る」などと断言は出来なかった。
「それならば川にもいてもおかしくないのではないですか?他にも山や谷、高原、森、オアシス、平野、山岳などにも。しかし私達もそして貴方達もその側あるいはその地に住んでいますが少なくとも私達は私の知る限りでは祟られた事は無いですがそちらも同じなのではないですか?」
ユウタはバジの主張を悉く論破し――。
「そ、それは……!」
バジはもはや何を言い返せば良いのか分からなかった。
27/38.「確かにそうじゃなぁ」
「確かにそうじゃなぁ。他にも太陽や月、漁など自然はわしらに恵みを与えてくれるものじゃ。そしてわしらはその恩恵を受けているのに海だけは祟られると考えるのはおかしな話じゃのう」
長老も不審に思っていた。
「長老まで……!」
バジは長老までユウタが言っている様に海の祟りや言い伝えに反論してきて狼狽えた。
「だが海に漁へ行って帰らなかった者は大勢いるぞ!」
バジは実際に起こった出来事で理詰めしてくるのならと自分も出来事を言った。
「なら海に漁へ行って帰ってきた者も大勢いるのではないですか?」
事故に遭う事の方が少なかったはずでユウタはこのバジの主張にも乗っかり正面から論破した。
「確かに海へ漁に行った者達がおったが高原の盟主ユウタの言う通り無事に帰ってきよったぞ」
ザムカルの経験上ユウタが言う通りだった。
「ぐぬぬぬ……」
バジは論破され赤っ恥を掻き意気消沈して座った。
「他に異論が有る者はおらんな?――それでは長老のわしの判断を告げる。高原の盟主ユウタよ、今日はこの村に泊まって明日出発するが良いぞ。そしてユウタ達とルガルはそのままでこれにて解散じゃ」
ザムカルはバジ以外にも異論が有る者がいないか訊いたが誰も何も言ってこなったしこれにて議論はユウタの勝利で終了とし裁定を下し参列者達は帰っていった。
28/38.「やったわ!」
「やったわ!」
アンはこの場の誰よりもはしゃいで喜んでいた。
(小僧もあのガキも皆殺しにしてやる……!)
論破されたバジはユウタやアンへの復讐を決意しその場を後にした。
「高原の盟主シェイク、すまんかったのう。わしから改めて謝罪じゃ。本当にすまんかった」
ザムカルは改めて謝罪した。
「いえいえ、気にしないでください。ザムカルさんが我々の宿泊を認めてくれて我々は助けられたのですから」
ユウタはザムカルに気にしてほしくなかったしむしろ感謝した。
「恩に着るぞ、ユウタよ」
ザムカルからすればユウタに協力する事で想像以上の恵みがもたらされてきたし最近益々増長していたバジにお灸を据えてくれたしザムカルの方がむしろ頭が上がらない程だった。
「こちらこそ恩に着ります、ザムカルさん」
ユウタもザムカルに感謝し恩に報いようと思った。
「あの人ちゃんとしつけておいてよね!」
アンとしては長老にバジにがつんと叱ってほしかった。
「そうじゃのう。お嬢ちゃんの言う通りじゃ。――さて、ルガルよ。客人のユウタ達一行が明日旅立つまで妻や他の協力者達と共にもてなし戦士達を率いて護衛するのじゃ。良いな?」
ザムカルは長老の自分にずかずかと言ってくるアンにも一本取られた様に頭が上がらないと思ったのだった。
そしてザムカルはその場にいた戦士隊長のルガルにユウタ達をもてなす事と護衛を命じた。
「はっ!」
ルガルは快く長老からの命令を引き受けた。
かくしてユウタ達はザムカルとの面会を終えこの村で1泊する事になったのだが――。
――翌朝出発する時にはまたいつもの様に新しい国民という名の新メンバーが加わったのだった。
29/38.「わぁ!人がいっぱい!」
そしてユウタ達は都市へと入った。
「わぁ!人がいっぱい!」
アンは人がたくさんいて驚いた。
*この都市は多民族や商人が寄せ集まった都市で多くの建物が1階建ての低層階*
「左様でございますね」
アンは人がたくさんいて驚いた。
「で、何するんだっけ?」
アンは何をするのか訊いた。
「補給と商人との交渉と宿泊でございます」
ユウタはこの都市で食料などを補給し宿泊したら翌日目的地まで辿り着けると思っていて今後の為経済活動が出来る様に商人と交渉をしておきたかった。
「そ!」
アンはユウタが言った事を正確には把握し切れていないがそういうものなのだろうととりあえず順調な様で満足した。
かくしてユウタ一行は商会の会館前に到着し班分けして一旦自由行動になった。
30/38.「ようこそいらっしゃいました」
商会の会長秘書の案内でユウタとアンとニンが部屋に入ると――。
「久しぶりです、シュマさん」
――商会の会長のシュマがいたからユウタは挨拶した。
「こちらこそ久しぶりです高原の盟主シェイクさん。ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらにお掛けください」
「やったわ!椅子よ!」
アンは村々ではずっと敷物の上に座らされていたからやっと椅子に座らせてもらえると感動していた。
「左様でございますね。それではアン様はわたくしの左にお掛けください。そしてニンは僕の右に座って」
ユウタはアンが喜んでくれている様で嬉しかったし座る順番を指定した。
「分かったわ!」
アンはユウタが言った通りに座り――。
「うん。そうするね」
――ニンもその様に座った。
(高原の盟主が敬語ですか!?)
シュマはユウタのアンへの丁寧な言葉遣いやニンとの慣れ親しんでいそうな言葉遣いを見逃さずユウタの同伴の女性が、特に世間知らずで我がままそうな女の子が高原の支配者であるユウタよりも偉い事に驚いた。
「さて、長旅でしたか?」
シュマはシェイクの長旅を労いたかった。
「はい。村から村へと移動しては宿泊するの連続でした」
ユウタは旅の経緯を思い出す様に話した。
「そうでしたか。ところで、こちらのお嬢さん方はどなたですか?」
シュマはアンとニンが誰かを訊いた。
「私はめ!」
アンはつい自分の正体を言ってしまいそうになり――。
「あー!」
――ニンは慌ててアンの声を搔き消そうとし――。
「アン様!こちらはさる高貴なお方のアン様でございまして、こちらが幼馴染のニンです」
――それと同時にユウタはアンのうっかり暴露を慌てて遮る様にしてシュマにアンとニンを紹介した。
31/38.「よろしくお願いします」
「それはどうもどうも。私はシュマと申しましてこの町で商会の会長を務めております。どうぞよろしくお願いします」
シュマは商人として磨いてきた笑顔でアンとニンに自己紹介した。
「そ!で、私がさる高貴なアンよ!よろしく頼むわ!シュマなんとか!」
アンはシュマに対しても今までと同様に物怖じする事無く上から目線で言い放った。
「私はニンと言います。シュマ様、私もどうぞよろしくお願いします」
ニンは自分がユウタの妻になる者として自分だけは夫になるユウタの恥にならない様しっかりしていようと思っていて丁寧に自己紹介した。
「ところでシェイクさん。さる高貴なお方とはどれ程ですかな?」
シュマはアンの正体を詮索する気は無かったがアンがどれ程偉い人物なのかは気になっていた。
「この世の金銀財宝を全て搔き集めても足元にも及ばない程ですね」
ユウタは真剣そうな面持ちで言ってみた。
「ユウタありがとー!」
アンはユウタがそう言ってくれてとても嬉しく感じていた。
「そ、それ程とは……!」
シュマは驚きのあまり絶句した。
「ま、冗談ですが」
ユウタはその事は冗談って事にしておいた。
実際は本当の事なのだがシュマは冗談が好きだから冗談を言ってあげただけで言わば「リップサービス」なのだ。
「冗談って何よ!」
アンは冗談だったと知り嘆いたが――。
「冗談だったのですね。もう、私を驚かせないでくださいよ。ははははは……」
――冗談だと分かり安心しつつもニンの表情を見て違和感は抱いていた。
32/38.「早速本題に入っても?」
「ところで早速本題に入っても良いですか?」
ユウタから本題を切り出した。
「はい。どうぞ」
シュマはユウタから早く本題を聞きたかった。
「手始めに37名の一泊の手配をしてもらえませんか?なるべく近くでまとまって」
ユウタはシュマに宿泊の手配をした。
「お、そんなに大所帯でお越しになっていたのですね。分かりました。至急手配します」
シュマからすれば1泊の手配など造作も無かった。
「それと近々大きな商談を持ってきますからその際のアポイントメントも宜しくお願いします」
ユウタとしてはシュマに会う約束を取り付けておきたかった。
「分かりました。楽しみにしていますとも。私事になりますがこの前凄腕の女商人に高額な商品を買わされましてな。金欠なのですよ」
シュマはユウタとの商談が楽しみだった。
というのもシュマはユウタのおかげで内陸の交易ルートを持つ事が出来て繁盛していたし金欠で稼ぎたかったのだ。
*「なぁ、あれって1号の事だよな?」*
2号は1号の事だと思って1号に訊いた。
*「そう……です……」*
凄腕の商人でもある1号は地上の経済活動や生活の質を向上させる為通貨に必要な金銀などを売り捌いていて特に話の通じるシュマといった商人にはいつも相手が買える限界まで売り付けていた。
*「あらあら。程々にしときなさいよ?」*
ティアラ妙にエロく言った。
*「貴方もですわ」*
腹黒いティアラなら相手の弱みを握って最大の利益を出そうとするからプリシラからすればティアラこそ程々にしておいてほしかった。
*一般的な交易ルートとは川沿いで川沿いは川に沿って移動すれば良いだけだから迷わないし集落も多く多民族の都市から多民族の都市へと行き来出来たから交易もしやすくこの時代では世界人口の半分が川沿いにいると言っても過言ではなかった。*
*しかし商人達は更なる利益を求め内陸に住む多くの者達への販路を開拓しようとしたのだが一般的に縄張りを持つ部族達は余所者に排他的で交渉が容易ではなかったから商人達は寛容な一部の集落としか交易ルートを開く事が出来ないでいた。*
*しかし多方面で人口の増加が起こり多民族への侵略行動が活発になっていた頃ユウタの機転により川の民の縄張り、高原の民の縄張り、山岳の民の縄張り、その先の者達を繋ぐ内陸ルートが開通してメソポタミア全域に光が灯りつつはあったのだが――。*
*――痺れを切らしたアンが勇者を任命し人口の爆発的発展、文明国家の樹立を目指し動いていたのだった。*
33/38.「揃(そろ)えてもらえませんか?」
「それは大変でしたね。それとこちらに書かれている品目を全て明日の出発までに揃えてもらえませんか?」
ユウタはシュマに買い付けリストを机に置いてシュマに向けて押す様にして渡そうとした。
ちなみにユウタがシュマに渡した買い付けリストにはあらゆるジャンルの商品を1つずつやその製造道具、製造方法が書かれた紙、それらを運ぶ為に必要な台車、そして適正価格の買値は所持金をオーバーした分は利益を出した後に支払うと書いていてそれらの品目が手に入れば建国直後に製造業を始める事が出来開幕のスタートダッシュが可能になるからユウタはそれが何が何でも必要だった。
「どれどれ。んー。急ぎですからね。値が張っても大丈夫ですか?」
シュマは買い付けリストを受け取り目を通し急ぎの案件だから値が上がってしまう懸念が有りつつそれでもお金を出せるか訊いたのだがシュマはユウタによって稼がせてもらっているし今後の事も考え適正価格で取引するつもりだった。
「はい。大丈夫です」
ユウタはこの国家建設プロジェクトに全財産を注ぎ込む覚悟をしていた。
「分かりました。それでは早速手配しますが、他にも有りますか?」
シュマは他にも要件が有るか訊いた。
「いいえ。今日はこれだけです」
ユウタはシュマに今日言うべき事は全て言えていた。
「畏まりました。本日のところは来ていただき誠にありがとうございました」
シュマはユウタに感謝した。
34/38.「それでは行きましょうか」
「こちらこそありがとうございました。それでは行きましょうかアン様、ニン」
ユウタはアンとニンに声を掛け立ち上がろうとした。
「ええ!街に繰り出すわよ!」
アンは誰よりもショッピングを楽しみにしていたから自分も立ち上がると部屋から出て行こうとした。
「はしゃぎ過ぎないでよ?」
ニンはアンが勝手にどっかへ行ったりあれもこれも買ったりなどと暴走してほしくなかった。
「分かってるわよ!」
アンはそうは言ってても結局あれもこれもと大量に買いそのお金をユウタに出させたくなかったニンはユウタが故郷の村から出る前にくれた今までのニンへの報酬が入った巾着からお金を出す事になるのだった。
そしてシュマはアンとニンが部屋から出ていってシェイクも部屋から出ようとした時に――。
「ところでシェイクさん。あの品目の数々、村でも作るのですか?」
――ユウタにクリティカルヒットする事を訊いた。
シュマも商人で会長を務めているだけの事は有り勘は鋭かった。
「いずれ分かります」
機密情報だからスタートダッシュで転ばない為にもべらべらと話す訳にはいかないし嘘を吐く訳にもいかないからはぐらかしてその場を後にした。
かくしてユウタ達はこの街で商人との取引も終え1泊すると生活困難者達や孤児達を連れて総勢89名で目的地へと出発した。
35/38.「見えてきたわ!」
そしてユウタ達はついに目的地が見えてきた。
「ユウタ!見えてきたわよ!やっとね!目的地はきっとあそこよ!」
海が見え無人の開けた土地が見えてきたのだが女神のはずのアンが目的地を把握していなくて頼りない事を言っていた。
「『きっと』って貴方ね……」
この大冒険に多くの者達の命や努力や手間暇が掛かっていてしかもアンは言い出しっぺにも拘らず適当な事を言っていたからニンは呆れた。
「河口は海と繋がる場所だからあそこで間違い無いよ。だから安心して、ニン」
ユウタは冷静だったがユウタの方こそ目的地が無人で安心していた。
「うん。私ユウタがそう言ってくれたから安心した」
ニンは新婚旅行ムードだったし新婚生活の事を思ってすっかりユウタにうっとりしていた。
(ほんと何なのよこの女……!)
アンは後ろに同行者達を大勢引き連れているから近い内素晴らしい女神として崇め奉られたいと計画しているからニンに一言言ってやりたいのは山々なのだがさすがにイメージダウンを避ける為痴話喧嘩するのは控えた。
36/38.「着いたわ!」
そしてユウタ達は目的地に到着し――。
「着いたわ!多分ここよ!」
――アンとしてはここまで来れば満足だった。
「左様でございますね」
ユウタはアンがここだと言ったから馬を止め一行も止まった。
「じゃあユウタ抱っこ!」
アンは地面に降り立ちたくてユウタに抱っこを要求した。
「畏まりました」
ユウタは地面に降り立つといつもの様にアンを抱っこして地上に降り立たせた。
また一行の者達もユウタが馬から降りてアンを降ろそうとすると馬から降り「やっと着いた」という空気になっていた。
「良い眺めね!」
アンは海を眺めながら潮風に髪を靡かせた。
「左様でございますね」
ユウタも同感だった。
「私海見るの生まれて初めて」
ニンは海を見るのが初めてで感動していた。
「そうだったよね」
ユウタはニンに海を見せる事が出来て良かったと思っている。
「こんな素敵な所に連れて来てくれてありがとう、シェイク」
ニンはユウタに感謝した。
「ニン、どういたしまして」
ユウタもニンが来てくれて嬉しかったし感謝していた。
「ちょっと!良い雰囲気のとこ悪いけどあんたがここに来れたのは私のおかげよね!」
感謝されたい欲求が強いアンは口を挟まずにはいられなかった。
「そうね。ありがとう、アン」
ニンはアンに敢えて言い返さない事で大人の余裕を見せた。
「そ!」
アンはニンの余裕な態度に内心で「むきー!」っとしたが感謝してもらえたから憎しさ半分嬉しさ半分という感じで一応心の中で咀嚼は出来た。
37/38.「迷信のおかげでございますね」
「それにしてもこれ程宜しい場所が手付かずだったのは迷信のおかげでございますね」
ユウタは迷信様様だと思った。
「ほんとの事だけど?」
アンは真剣な面持ちで言った。
「でございましたら何故アン様は怖がっていらっしゃらないのですか?」
ユウタは不審な点を突いた。
「あ!確かに。怖がりなアンが平気そうにしてるのはおかしい」
ニンもユウタに言われておかしいと思った。
「それは……ふんだ!海獣が襲ってきても祟られても絶対に助けてあげないんだから!」
アンは驚かし甲斐が無かったりリアクションが薄かったり言った事を信じてもらえなかったりすると拗ねてしまうタイプでユウタもニンも未開人なのに迷信を怖がってくれなくて不満だったのだがもちろんその様な事になれば助けてあげるつもりだった。
「ふふ」
ニンが笑い――。
「ぷ!何笑ってるのよ……!もう……!」
――アンも笑い――。
「左様でございますね」
――ユウタも笑い皆でひとしきり笑い合った。
そしてアンは――。
「さてと。ユウタ!ここに私達の王国を作るのよ!」
――本題に入った。
「畏まりました。それではここに王国の建国を宣言いたします」
ユウタが建国を宣言すると拍手喝采が起こり皆が未来に胸を膨らませた。
かくしてユウタは建国を宣言すると直ちに建物関連で建設ギルド、石工ギルド、生活関連で木工ギルド、手芸ギルド、鉄工ギルド、経済関連で商人ギルド、食関連で漁業ギルド、農業ギルド、料理ギルド、防衛関連で衛兵ギルド、戦士ギルド、武具ギルド、教育・子育て関連で学校ギルド、孤児院ギルドなどを作り話し合ってそれぞれが好きなギルドに所属する事で役割分担していった。
*ギルドとは「労働者の集まり=組合」の事で公的な組織の事。また私立(個人が創立)でファミリービジネス化する組織を「クラン(血縁集団である「氏族」が所以)」と呼ぶ。*
38/38.「頑張って!」
そしてティアラ達はその様子をモニターを通して見守っていたのだが――。
*「ここで私からアンの天使の皆に言いたい事があるのだけど、ここまでアンは何にもしてないわ!このままでは女神の名が廃れてしまうわよ!1号ちゃん達もアンに仕える天使として陰ながら手伝ってあげてね!頑張って!」*
――皆に聞こえる様に少し大きな声で1号達を激励した。
*「はい、ティアラ様。早速アン様を手伝ってまいります。解説と美味しいお菓子や飲み物など出してくれてありがとうございました」*
1号はティアラに感謝し――。
*「感謝だぜ!」*
――続けて2号も――。
*「ありがとうございました」*
――他の天使達も感謝した。
*「いいのよ。こちらこそ楽しい時間をありがとう♪」*
ティアラはユウタというアベルに代わりそうな男を見付けられただけでなくユウタを暗殺する為にニンやバドのみならずあの金庫番や商人などといった使えそうな人材も豊富に把握出来て大変満足していた。
*「それでは失礼します。皆さん、これから会議をします。全員会議室へ移動です」*
1号は部下達に指示を出したのだが――。
*「そうこなくちゃな!」*
――2号もその気だったし――。
*「はい!」*
――他の天使達も同感で元気良く返事し移動していく1号に付いていった。
*「ティアラさん、わたくし達も帰りますわよ」*
プリシラは空間魔法で収納していきながらティアラに声を掛けた。
*「ええ……分かってるわ……」*
*(それにしても凄いわ……とんとん拍子で本当に1週間以内に建国よ……まだ宣言をしただけだけど、手慣れている……いえ、手慣れ過ぎているわ……彼は一体何者……若くして高原の部族連合の盟主……内陸の交易ルートを開き、旅立つ前に長老が手紙を書いてユウタさんの事をよろしく頼むと嘆願までして、あちこちの要人達がここで死なれては惜しいと協力までするなんて……本当にアベルみたい……)*
とんとん拍子ぶりにティアラ達は驚いていたが誰よりもティアラが驚いていてティアラはプリシラからの声掛けも上の空ながら返事をしつつモニターに映っているユウタを見ながらアベルを思い出していた。
というのもティアラにはユウタが交渉を難無くこなし率先して火を起こし何でもしてくれてホームレスや孤児まで助けているその姿がいつかの最愛のアベルと重なって見えていたのだった。
後書き
世界史では遊牧民が活躍し始めるのは紀元前8世紀頃からで、正確には遊牧騎馬民族の事ですが、アン達の時間はそこからさらに3200年も前の人口がもっと少ないメソポタミア文明の初期の話です。
ちなみに作中の山岳の民は人口が増えてきて食糧難になるのを恐れ遊牧民と交易がしたかっただけで戦士達を除いて戦争をする気など有りませんでした。
またユウタ達を山岳の民にも民族名が有るのですが差別の助長になってしまう事を懸念し公開はしない事とします。
ヒントはこの一帯の中間に位置しその中央を縄張りとしていた民族です。
しかしそれにしても仮に戦争になっていたとしてもその品々の作り手がいなくなってしまっては困るので抵抗勢力が消される程度でしたが、やはり血を一滴も流さない様にしつつ山岳の民の戦士を満足させるには最初から恭順するしか有りませんでした。
またこれはスピンオフにと思い作中には書きませんでしたがアンは移動の最中ずっと「暑い」だの「疲れた」だのとぼやき続けていました。
もっと言うとアンは食事をすれば元気になって煩くなり、空腹になるにつれてぼやき疲れて静かになるというのを繰り返していました。
またアンがぼやいていたのは置いておいてあの我がままな女神が頑張ったという事だけでもティアラ達の中でアンの再評価路線に繋がり、またとんとん拍子の成果に加え地上に下り炎天下の中で勇者と旅を供にした女神というのも珍しく異例の高評価に繋がっていく事となります。
そもそも勇者候補に「どこどこへ行きなさい」や「何々しなさい」と信託を下ろして目的地に行かさせたり指示通りに国を造らせる事も出来たし、天界ではそれが一般的なので自らも現地に赴いて苦労をしたというのがプラス査定に繋がったという訳です。
ま、でも冷静に考えてみたら「勇者が凄いだけでこの女神何もしてなくね?」と評価は落ち着いていく事になるのですが(笑)