[R18] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 5話 地球の女神 出会い(アン視点)
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R18
第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)
第 5 / 12 話
約 18,500 字 – 28 場面 (各平均 約 660 字)
1/28.「いつになったら『』進むのよ!」
これは遥か昔の事。
「いつになったら私の星の文明レベルは先に進むのよ!」
私は天使達との会議中につい声を荒げてしまっているわ!
だってちっとも文明が発展しないんだもの!
このままじゃまた私がママに叱られちゃうのよ!
「その時期については私達には答えられないです」
1号達には文明レベルを前に進められる程の権限が与えられていなくて1号達にはどうする事も出来ないから当然その時期についても何とも言えなかった。
「何で答えられないのよ1号!」
ママ!私の天使はちっとも有能じゃないんだけど……!
「文明の成長は現在は女神様が命じた「好きにさせておけば良いのよ!」の通り地上の人々に委ねてますから私達天使のコントロール下には無くその為私達にはその時期は分からないです」
1号達は自発的に何かをしようとしても女神に怒られてしまうから「好きにさせておけば良いのよ!」と命じられている事も有り活動は悔しながら最低限に留めていた。
ちなみに1号は女神から「頭が痛くなるから敬語も難しい言葉も使わないで!」と言われていて全員簡単な言葉遣いを心掛けている。
そして女神は1号からの切り返しに「ぐぬぬぬ……」となってしまった。
「だって私には何したら良いか分かんないんだもん!だから1号!とりあえず何かアイデアを出してちょうだい!」
(女神様は相変わらず人使いが荒いです……)
「それではこの様な大河の河口など大河のほとりに人々を集結させてみるのはどうですか?」
1号は女神に地図のその場所を指で指し示す様にして提案した。
「え?何で海の近くに?」
女神は1号が地図の指し示した所を見つめるも1号の言っている事の訳が分からず何でなのか訊いた。
「女神様、続けて言わせてもらいますが人々の拠点が海の近くに有れば人々は漁業を行えますしそうすれば食料の確保や人口の増加も期待出来ますしまた大河の河口は港の設置に適していて海上交易の要所にもなりますしさらなる発展を期待出来ると思うからです」
ん~、よく分かんないけど失敗したら1号の責任にすれば良いんだしとりあえずやってみようかしら!
「良いわ!やってみてちょうだい!1号に一任するわ!」
女神はこの計画が失敗してしまった時に備え自身の責任を回避するべく1号にその全てを任せた。
2/28.「誰に『』を牽引(けんいん)させますか?」
(次は勇者の選定ですね)
「分かりました。それでは女神様、誰に人々を牽引させますか?」
1号は女神に勇者を決めてもらうべく尋ねた。
「ん?どういう事?」
(はぁ……)
「『誰を勇者に任命しますか?』という事です」
1号は呆れつつもこれはいつもの事でありもはや自分の訊き方が悪かったとすら思っていた。
「あー!勇者を誰にするか問題ね!でもそれくらい私だって分かってるわよ!――でも何でそんな事するの?」
(はぁ……)
「人々を大河の河口に集めるに当たりそれを導いて人々を纏め王になる勇者様が必要ですよね?」
1号は呆れながらも女神にその心を説いた。
「あ!なるほど!あんたやっぱり説明が分かりやすいわね!」
何だかやっぱり有能かも!
(はぁ……)
「でも1号が全部やってくれるんじゃなかったの?」
(……)
「女神様、天使の私が地上で人々の女王になる訳にはいかないですよね?」
1号は呆れながらもそれが態度に出てしまわない様に必死に堪えながら教える様に冷静に返事をした。
「確かに!けど1号、勇者が必要なのは分かったけどその辺に良さそうなのたくさん転がってないの?」
選り取り見取りのはずよ!
(たくさん転がっている訳が無いです……)
「女神様がどの様な方を勇者に選びたいかによると思います」
誰を勇者にするかは神や担当の天使が決めるもので例えば武力で言えば武力が有る者、武功が有る者、武力組織のリーダー、社会性で言えば実際に地域を治めている者、カリスマ性が有る者、財力が有る者、事業基盤を持つ者、人格者、知恵が回る者、政治力が有る者、学力が有る者、技能を持つ者、話力が有る者など勇者選びは選ぶ側により無限の可能性が有った。
そしてもちろん選ぶ側の好みにより容姿端麗な者を探し求めたり性別や性格、年齢、能力、地域などといった条件を加えていくと途端に該当する候補者が減ってしまうものなのだ。
「へぇ~!そうなの!」
女神は学校でとっくに習っていたのだがすっかり忘れていて初めて聞いた事かの様に驚いた。
3/28.「どの様な方を『』に任命しますか?」
「それでは訊きますが女神はどの様な方を勇者に任命しますか?」
(我々天使は勇者を探すに当たり当然女神様の意向に則らなければなりません)
「あ!確かにそれちゃんと決めておかないといけないわよね!変な人を勇者にしたら駄目だし!ん~そうね~」
女神は新居を買うが如く真剣に考えてみる事にした。
「はい。勇者選びは大事ですから思う存分考えてほしいです」
女神は自分の娯楽を優先してしまう性格の為「愉快な人が良い」などととんでもない勇者選びをしてしまう可能性が有り1号としてはそうなると困るから女神には地上の民の為、ひいては自分達の為にもちゃんと考えてほしかった。
「決めたわよ1号!私はもちろん最高の勇者が良いわ!当然優しくって、有能で、頭が良くって、私が言った事は何でもやってくれて、私の話し相手になってくれて、面白い事が言えて私を楽しませてくれて、家事もやってくれて、努力家で、行動力が有って、絶対に私を裏切らない お・と・こ が良いわ!」
女神は考え終えると口を開き思い付く限りの条件を指を数える様にして言って理想の勇者を1号に要求した。
(め、女神様……)
1号は女神のあまりの理想の高さに気圧され呆気に取られてしまった。
「1号~私のが名案過ぎて言葉も出なくなっちゃったの~?これじゃ足りないくらいだけどとりあえずはこのくらいにしておいてあげるわ!えっへん!」
女神は1号の真意に気付くはずも無くどや顔を披露し胸を張った。
「1号、そんな奴本当に見つけられるのか?」
1号の後ろで話を聞いていた2号が1号に耳打ちした。
と言うのも2号にも今回の女神の要求の困難さが分かっていたのだ。
「見つけ出すしかないでしょう……私達は女神様に仕える天使ですし女神様の決定は絶対です」
(私達に拒否権は無いんです)
1号は2号に振り返り口元を手で隠す様にして小声で返事をした。
「で、でもよ……」
2号は狼狽えながらも1号に小声で返事をした。
「気持ちは分かりますが……先ずは女神様の命令通りに事に当たりましょう。そして任務遂行が不可能でしたら女神様にその事を報告し条件を緩和してもらいましょう」
(先ずはやってみる事です)
「お、おう……」
1号と2号は女神様の要望通りの勇者を探す事を決意した。
「ねぇそこ!何さっきからこそこそ喋ってるのよ!私語厳禁よ!」
1号と2号はさすがに女神に突っ込まれてしまった。
「2号と作戦会議をしてたんです」
もちろん「陰口を言ってたんです」とは言えなかった。
4/28.「私の『』候補で思い当たる人いない?」
「そ!――そうだ1号!私の勇者候補で思い当たる人いない?ほら皆もよく考えて!」
女神は1号に心当たりを訊いた。よく地上に繰り出している1号なら何か知っているかもしれないと思ったのだ。そして他の皆にも考える様にと言った。
(彼は絶対に駄目です。ですから彼以外で勇者候補を見つけ出さなくてはいけません)
(知ってるけど言えねぇよ……)
1号と2号には旅の者として親切にしてくれる若くして高原の部族の長をしている青年という心当たりが有ったのだが1号は彼に迷惑を掛けたくないのと個人的な事情により――。
「私は……思い当たる人はいないです」
――女神に嘘を吐いてしまった。
「ん~?――そ!」
勘が鋭い女神は1号が嘘を吐いた気がしたのだが一刻も早くお目当ての勇者を探してきてほしかったから流す事にした。
「じゃあ2号は?」
女神は続けて2号にも訊いた。
「あたしも知らねぇな……」
余所者の1号達を温かく村で迎えてくれて美味しい食事を御馳走してくれるだけでなくお金や地産品までくれて行く宛が無くなったら村で受け入れるとまで言ってくれている命の恩人を売る様な真似は1号にも2号にも出来なかった。
「あんた達ほんと役に立た……!」
女神はつい言ってはいけない事を言い掛けてしまったがその途中でちゃんと耐えた。
5/28.「『』候補を探しに行ってきます」
「すみませんでした。それでは女神様、天使一同女神様の要望通りの勇者候補を探しに行ってきます」
1号は謝罪し頭を下げると他の天使達も頭を下げた。
「ええ!行ってらっしゃい!早く見つけ出すのよ!出来れば今日中にね!遅れたら家に入れてあげないんだから!」
女神の「遅れたら家に入れてあげない」というのは本気だった。
「分かりました。それでは」
1号がそう言って行動に移すと他の天使達もそれに続き1号の指示のもと班分けや目標の共有、地域分けを行い地上へと繰り出していった。
私は任務に向かう天使達を見送ってあげたわ!たくさん飛び立っていくのって最高ね!
かくして天使達は女神に見送られ女神の要望に適った勇者候補を探す為地上へと飛び立っていった。
6/28.「探す当ては有るのかよ?」
「なぁ1号。探す当ては有るのかよ?」
2号は後ろに部下達を引き連れ空中で翼を使って飛びながら同じく後ろに部下を引き連れて飛んでいる1号に話し掛けた。
1号は天使長で2号は副天使長であり幹部の為当然それぞれ班を持っている。
「無いですし各班が先程割り当てた地域で勇者候補がいそうな場所を探してみるしか無いでしょう」
1号は野心の有る統治者を焚き付けるのならまだしもそのうえ女神のお眼鏡に適う勇者となると見付けられるとは到底思っていなくて女神には妥協してもらおうと思っていた。
「ほら、あいつはどうだ?勇者にしてやるのが礼な気がすんだよなぁ」
1号にお互いが知っている候補者の事を訊いてみた。
「絶対に駄目です」
1号は即答した。
「またそれかよ!何でだよ!」
2号が1号に彼を勇者にする事を提案したのはこれが初めてではなかった。
「それは……」
1号にとって楽しい思い出であり自分が同じ人間ではないと知られたらもう今までの様に優しく接してくれなくなってしまうのではないか?と嫌われてしまうのが怖かった。
「狙ってんのか?」
2号は単刀直入に訊いた。
「わ、わ、私は別に……!」
1号は顔を赤らめながらも否定した。
(完全無欠の天使長様も色恋には初心だったってか)
「ま、あたしらが化け物だって思われちまうのも嫌だしあたしらの引退先を失っちまう訳にもいかねぇもんな」
天使は女神により解雇され人間に戻されてしまう可能性が有りその為その備えをしておく必要性を1号も2号も認識していた。
そしてそうなった際はどちらもお世話になるつもりだった。
「そうです。ですからあの方に近くていざという時に処分出来る人を探しましょう」
1号は人は簡単にはコントロール出来るとは思ってはいなくて支配が暴走してしまう可能性も考慮していてそういう人ばかりではない事はもちろん分かっているのだが一部の人間は大きな権力を手にすると支配的になり独裁者になり戦争や虐殺を行ってしまう事を知っていてそういう時には遠慮無く処分出来る人が適任だと考えていた。
「担ぐ神輿は軽い方が良いもんな!あいよ!――あたしらはあっちだよ!」
目的地が近付いてきていて2号は1号からの返事で気が楽になると後ろで飛んでいる部下達に振り向き手で目的地の方向を指し示すと号令を掛けその方向へと羽ばたいた。
「はい!」
2号も1号の様に部下達から親しまれていてその部下達は元気良く返事をすると2号の後を付いていった。
(まぁ焚き付けるぐらいで良いでしょう)
1号は彼以外の人材を見付けられるとは到底思っていなくて手っ取り早く有能な地域の支配者の野心を焚き付けて女神を楽しませられる宴会芸も身に付けさせた王へと魔改造するつもりだった。
7/28.「見つけたか?」
そして地上に降り立ち勇者候補探しを始めてからしばらく経ち2号は――。
「1号!良さそうな奴は見つけたか?」
――困っている様子で1号に話し掛けた。
「いえ、まだ見つかっていません……――」
1号は商人に扮し頻繁に地上へと足を運び女神の天使という優位性を利用し手に入れている貴金属など貴重な資源を売ってくれる商人として地上ではありがたがられていてその為多くの有力者とのコネが有り凄腕スパイの如くたくさんの情報を把握していてもちろんその為大体の有力者は把握していた。
そして「謎の美女からの野心の焚き付け」を繰り出したのだが妻や愛人になる誘いを断っていたしその為相手をコントロール出来る程の効力を発揮させられず「何故海の河口に移り住まなければならない?」や「これ以上領土を広げる予定は無い」、「妻になるなら出資してやる」、「そこまでの野心は無い」、「戦争はごめんだ」などと断られてしまっていた。
「2号はどうでした?」
1号は2号の様子からして駄目だったのだろうという事が分かり切っていたのだが訊かれたから一応自分も訊いた。
「あたしも駄目だったよ!そこまでの勇気はねぇだのやりたきゃあんたがやりゃ良いだのどいつもこいつも金玉付いてんのか?ってぐらい根性無しだったぜ!」
実際どこも自分の縄張りを維持するのに必死であり土地への愛着が有る分その土地から離れ辛くどの支配者も海岸まで縄張りを広げる気力も勇気も余裕も無かった。
「やはり駄目でしたか。私が接触した人達も似たようなものです」
分かってはいたのだが1号もその報告に落ち込んでしまったのだった。
「その血は何ですか?」
1号は2号の袖などに血が付いている事に気付いた。
「あ~これは……」
女神の命令により天使は不当な暴力などが禁止されておりその懸念が有った。
特に喧嘩っ早い2号にはその懸念が有った。
「ちゃんと言ってほしいです2号」
1号は2号はやましい事が有ると中々話そうとしないから催促した。
「『俺の女になるなら手伝ってやる!』ってふざけた事言いやがったからぼこったんだよ」
2号も1号と同様に美人でありその手の不快な誘いを受ける事が多かった。
そもそも2号は傭兵といった戦闘職に扮しており戦闘力で成り上がった様な手荒い者との繋がりが多かったのも有った。
8/28.「その人はどうなったんですか?」
「その人はどうなったんですか?」
2号が言う「ぼこる」とは相手を蹴っ飛ばしたりして相手が反撃してこようものなら戦意を喪失したり気絶するまでとことん付き合うというスタイルで、もちろん想定しているのは戦士長や盗賊といった荒くれ者達なのだがこれまでの経験から2号は命を奪う程の事はしないと分かってはいるものの万が一の事が有り天使長としては訊かない訳にはいかなかった。
「酒くせぇ野郎だが自称『最強の戦士』だしもうちょいすりゃ目も覚めるだろうさ。殺してねぇから心配すんな」
2号がぼこったのは戦闘を得意とする部族の長であり本人も自称「最強の戦士」の為特に問題は無く酒宴の後の余興の如くだった。
「誰の事を言っているのか分かりました……」
その人物は1号も知っている人であり溜息を吐いてしまった。
「それもこれも全部女神様のせいだぜ!」
2号は不満を言い始めた。
「2号!」
1号はその不満を女神に聞かれてしまうかもしれないのがまずかった。
「どうせあの女神様は地上の事なんて見てねぇさ。どーせあたしらの事だってどうでもいいんだろうしな!」
2号は理不尽な命令で困りそして疲れぼこった勢いで女神への不満が止まらなくなっていた。
「2号!女神様がもし覗いていたらどうするつもりですか!地上でも決して女神様の機嫌を損ねてしまう事を言ってはいけないんですよ!」
1号は地上でも常に最新の注意を払っていたのだ。
そして2号は1号から「2号」と呼ばれふと――。
「くびに出来るならしてみろってんだ!あたしらの事なんて1号2号って番号でしか呼んでくれねぇし!女神様はあたしらの苦労なんてちっとも分かってねぇのさ!ほんと素晴らしい女神様だよなぁ!」
吐露してしまった。
すぐさま「気持ちは理解出来ますが……私達は女神様に仕える天使なんですからここはぐっと堪えなければいけないんですよ」
1号は女神の機嫌が良い方が都合が良かった。
と言うのも1号は自分が仕えている女神の機嫌が悪くなってしまったら大変な事になりかねないと考えていたのだ。
それこそ神からすれば自身に仕えている天使を解雇する事など容易くそのうえ1号達が仕えている女神は感情で動いているから一時の激情で何を仕出かすか分からなかった。
そして1号は女神がその様な事をするはずが無いと信じてはいたのだが万が一の事を1号は懸念していた。
「分かってるよ~だ!べ~~!」
8/28.「いやした!この女達でやんす!」
「いやした!この女達でやんす!」
突然柄の悪そうな男が自分達の後ろから現れ1号達の顔を確認した後誰かと話しているそぶりで1号達を指差した。
「お?何だ?」
1号達は突然の事に驚いた。
「おい嬢ちゃん達、この先へは行かせねぇぜ」
大男で古傷が顔に刻まれ剣を見せ付ける様に携え極めて柄が悪い盗賊達の頭が1号達の前に立ち塞がる様にしてどすが利いている声で声を掛け「へっへっへ」と同じく柄の悪い連中も1号達を取り囲んできた。
と言うのも頭は手下から美人の女を2人見つけたと報告されその手下の案内のもとで手下達を連れてその女達に会いに来たのだった。
そして異変を察知した民衆はすぐさまその場を離れていった。
そしてもちろん手下達も極めて柄が悪かった。
「何ですか?」
1号達は困惑しながらも――。
「そこをどけ」
――一瞬にして相手の人数や装備を確認し戦力を把握した。
「でかしたぜ!上物じゃねぇか。――いや、ちと俺達と遊んでこうぜ」
頭は1号達の顔や胸など全身を舐め回す様に吟味し大当たりを引いたと胸が高鳴った。
実際1号も2号も極めて美人なのだ。
そして1号達は手下達からも品定めをしているかの様に全身を舐め回す様ないやらしい視線に晒された。
そして中には想像し興奮し舌なめずりする者までいた。
「嫌です。そこをどいてほしいです」
1号は即断った。
「あたしもごめんだね。ほら、あたしらは忙しいんだからとっととそこをどきな!」
続けて2号も断り手であしらう仕草をした。
9/28.「状況が分かってねぇみてぇだな……」
「まったく、嬢ちゃん達は状況が分かってねぇみてぇだな……」
頭は「この状況で断れると思ってんのか?」と呆れた。
「分かってねぇのはあんたの方だぜ!」
喧嘩っ早い2号は早速火に油を注ぐ様な事を言ってしまった。
「うるせぇ!野郎共!武器を出して逃げられねぇ様にちゃんと取り囲め!」
怒った頭は手下達に命令し――。
「へい!」
手下達は威勢良く抜刀すると1号達を戦闘態勢で囲んだ。
(はぁ……またこの手の輩ですか……)
「何の真似ですか?」
1号は美人でありよく単独行動をしていたり商人としての活動など地上で多くの事をしているから危険な事もこの様な下衆な連中に囲まれ脅され全身を品定めされる事も初めての事ではなかった。
「何の真似って見りゃ分かるだろ。これで言う事聞かせんだよ」
普通の女性達が相手なら大体この辺りで交渉や命乞いのフェーズに入るのだった。
「ったく女相手にいい大人が大勢で寄ってたかって武器ちらつかせて言う事聞かせようだなんていい御身分だぜ!こっちはもうそういうのいい加減飽き飽きしてうんざりしてるしただでさえいらいらしてるってのによ!」
もちろん荒くれ者が多い業界との繋がりが多い2号も1号と同様で初めての事ではなかった。
と言うかほとんどの天使がその様な事を経験していて対応マニュアルもとっくの昔に出来上がっていた。
しかし2号は傭兵や戦士、盗賊の世界では有名人でありぼこられた事やその現場を見た者事が有る幹部などが気付くと恐怖し手下達の無礼を謝罪し事を穏便に済ませようとする者が多かったのだが、この盗賊達は不運にも2人の事を知らなかった。
と言うのもここは戦争とは無縁で商人の町であり1号の管轄だったから2号が足を運ぶ事は無かったし1号は「山岳民族による高原民族への侵略阻止」という他にやるべき事が有ったからだった。
しかし1号が不在だったからこそこの新興組織が幅を利かせ始めていたのだった。
10/28.「文句(もんく)ばっかだな」
「まったくてめぇらは文句ばっかだな。他に言う事はねぇのかよ?何でもするから命だけは助けてくれだの友達は見逃してくれだのよ」
頭は1号達の反抗的な態度に首や肩の骨をごりごりと鳴らしながら呆れた。
「無いです」
1号は即答した。
「あたしもねぇな。だからさっさとそこをどきな!」
2号も1号と同様だった。
「友達をこうもあっさり見捨てるなんざとんだ薄情な女共だぜ!」
頭は「やれやれ、これでこいつらの友情も終わりだな」と言わんばかりに呆れる様に首を振った。
「見捨てるとは一度も言ってないです」
1号は堂々と言い放った。
「あたしも言ってねぇぞ?」
2号もけろっとしていた。
「調子に乗るのもいい加減にしろ!さっさと観念しろ!言う事聞かねぇとてめぇらを力尽くで連れ去って全員犯した後嬲り殺しにするぞ?」
頭はこのままでは埒が明かないと思いギアを一段階上げた。
「おい、どうするよ1号。こいつら本気だぜ。こいつら言う事聞かねぇと力尽くで連れてくってよ」
2号は心底めんどくさがっていたものの内心は「おもしれぇ」と思っていた。
と言うのも2号はちょうどストレスの捌け口を探していたし2号がからすれば敵の数イコールサンドバッグの数だったのだ。
「とりあえず正当な権利を主張しましょう。それでも駄目だったらやむを得ないですが正当防衛ですよ、正当防衛」
1号はマニュアルに従い淡々とこなすつもりだった。
「分かってるよ!――いい加減にするのはてめぇの方だぜお頭さんよ」
1号も2号も盗賊の要求に従うつもりなど毛頭無かった。
「何……だと……?」
どすの利いている声で訊いた。
「あたしらはてめぇの要求には従わねぇし急いでんだからさっさとそこをどけってこった!」
2号は方針が固まった。
11/28.「力尽(ちからず)くで連れてくぞ!」
「ったく物分かりのわりぃがき共だったか。しゃあねぇ。てめぇら!こいつらを力尽くで連れてくぞ!」
頭はついに強硬手段に出る事を決意し手下達に命令を下した。
「へい!」
手下達はいつもの様に意気揚々と1号達を拘束して連れ去ろうとした。
「それ以上力寄らないでほしいです」
1号は迫りくる手下達の手を巧みな足捌きで振り払った。
「あたしに触ったら殺すぞ?」
2号は拳闘術の手捌きで巧みに振り払った。
「頭!こいつら抵抗しやがります!しかもなんか心得まで有りそうっす!どうしやすか?」
副長は手下達が1号達を掴もうとした手が振り払われてしまい上手くいっていないのを見て頭の判断を仰いだ。
「しゃあねぇ!殴って言う事聞かせろ!」
頭はついに暴力に打って出る事にした。
「1号!」
2号は独断する訳にはいかないから1号の判断を仰いだ。
「はい。私の背中と半数はお願いします。くれぐれも手加減を忘れないでほしいです」
(私が心配なのはむしろこの人達の方です。2号はついついやり過ぎてしまうきらいが有りますから)
「分かってるって!」
1号達はファイティングポーズを取り続けていて2号は1号に背中を預ける様にして後ろにいる連中と相対した。
12/28.「無理矢理連れ去るぞ!」
「いいぜ。上等じゃねぇか。野郎共!こいつらやっちまえ!半殺しにして無理矢理連れ去るぞ!」
とことん従わない1号達の態度にぶち切れた頭は手下達に号令を掛け――。
「へい!」
――手下達は頭の号令に応じ一斉に1号と2号に襲い掛かった。
「あんたらその程度か?」
1号と2号は受け身から入り武器も使わず1号は足技で2号は拳術で手下達の攻撃をいなしていった。
「こ、こいつら一体何もんなんだよ!」
手下の1人が1号達に歯が立たず狼狽えた。
「ちょっと心得が有る程度のただの女共だろ!何も怖がるこたぁねぇ!やっちまえ!」
頭は既に勝利を確信していて素直に言う事を聞かなかった1号と2号をどう嬲るかという事を考えていてそう言うと――。
「へい!」
――意気消沈しかけていた手下達が威勢を取り戻し再び1号達に襲い掛かった。
「1号!躱してるだけじゃいつまで経っても終わらねぇぞ!こいつらを戦闘不能にする許可をくれ!」
手下達の力量が分からなかったから1号達は本来の力を出さずに威力偵察の如く手下達の攻撃を躱しながら軽く反撃する程度に留めていたのだがその様な正当防衛でも現状を打破出来る見込みが無くいくら返り討ちにしても手下達が逃げずに襲い掛かってくるから2号は埒が明かないと思い1号に積極的に打って出る許可を取ろうとした。
「仕方が無いですね。許可します。しかしくれぐれも回復可能の範囲内に留めてほしいです」
(私達天使が例え相手が輩であったとしても女神様の許可無しに人命を奪ってはいけないんです)
「はいよ!背中は頼んだよ1号!」
2号はファイティングポーズを取ったまま1号に背中を預けた。
「私の背中も頼みましたよ、2号」
1号も2号に背中を預け襲い掛かってきた盗賊達を次々に戦闘不能にしていった。
「残るはあんただけだな、お頭さんよ」
そしてついにその場に立っている敵は頭だけになった。
13/28.「ば、化(ば)けもん共!」
「このば、化けもん共!」
(化け物ですか……心に刺さるお言葉ですね……)
「私達を力付くで攫うとか犯して殺すとか言ってた連中が何言ってやがんだ!」
(あたしらを化け物呼ばわりしやがったこいつをどう痛めつけてやろうかなぁ!)
「うるせー!」
すると盗賊達の頭が剣を振るって突撃してきたが――。
「お前がな!」
――2号が繰り出した顔面パンチにより一撃で気絶しその場に倒れた。
「威勢の割には弱かったな……」
2号は気絶した頭を見下ろした。
「貴方が強過ぎたんです」
1号は頭脳を駆使した戦い方を得意としている一方で純粋な腕力といったパワーで言えば日々猛烈に鍛えている2号の方が圧倒的に強かった。
しかしその序列で言っても戦いとは総合力であるからやはりリーダーである1号の方が2号よりも強かった。
「だよなぁ……」
2号は自分と互角にやり合える敵や劣勢といった場面に中々巡り合えていなくて物足りなさを感じていた。
「それでは後片付けをしましょう」
1号は後片付けに取り掛かった。
「おう!あたしも手伝うぜ!」
2号も1号の後片付けを手伝い始めた。
かくして1号達は勇者候補の調査に当たっていた時に絡んできた輩達を返り討ちにし武器を没収し拘束すると自警団に突き出した。
14/28.「報告は以上です」
そして天使達は調査の結果を報告する為女神のもとへと集まった。
「女神様、報告は以上です」
1号達は天使達を代表して女神に報告した。
「え……じゃあ収穫は無しってこと!?」
「はい」
1号は天使達皆のびんたや物を投げ付けられるなどといったお叱りを受ける覚悟は出来ていた。
「勇者候補すら見つかってないってどういう事なのよ!もっと頑張りなさいよ!見つかるまで探し続けなさいよ!貴方達!見つかるまで探し続けるのよ!それまで帰ってこなくていいわ!いいわね?」
女神は天使達には勇者が見つかるまで仕事をしていてほしかった。
「そ、そんな~~……1号先輩……!」
2号が1号に視線を向けて小声でそう言いながら狼狽えていた。
「皆、私達は女神様に仕えてる天使なんですから女神様の為に女神様が言った通りに頑張り続けましょう」
(私にはこれ以外に言える事が無いです……皆さんすみません……)
天使達は元気が出ないながらも1号に励まされた様にして返事した。
かくして天使達は連日の様に勇者候補を探し続けどんどんと疲労困憊になっていった。
15/28.「太陽系の天使達がお困りの様ですわ」
そして世界神ティアラのもとへと――。
「太陽系の天使達が女神の命令にお困りの様ですわ」
――天使長プリシラから報告が上がった。
「またあの子ね……今度は何かしら?」
これが初めての事ではなかった。
「勇者探しにお困りの様ですわ」
勇者探しや選定などで揉める事は割とよく有る事ではあるのだがティアラはあの女神の事だからと仲裁に入る必要が有ると感じていたし実際それが正解だった。
「勇者ねぇ……あの子ももうそんな時期なのね……)
「で、その条件というのは何なのかしら?」
(あの子の事だからこれまたとんでもない条件を付けていそうね……)
「それが『優しく、有能で、頭が良く、言った事は何でもやってくれて、話し相手になってくれて、面白い事が言えて楽しませてくれて、努力家で、行動力が有り、絶対に裏切らない男などという最高の勇者』だそうです」
「あの子はほんとお馬鹿ね~そんな男中々いる訳無いじゃないの」
目的ごとに実現可能な人材を見つけ出し誘導するのが普通でさらに女神の相手までしてくれて何でもしてくれる人格者を探すなど非常に困難だった。
「そうですわね」
プリシラはその女神を使ってティアラを今度はどう困らせるかを考えていた。
16/28.「紹介してほしいくらいよ」
「いたら私に紹介してほしいくらいよ」
ティアラはつい心の声が漏れてしまっていた。
「声が出ていますわよ」
(そう言うならわたくしにも考えがありますわ)
「あ……!これは違うの……!最近忙しくてついぼやいてしまったのよ……!これはわたくしに限った事じゃなく皆がつい思ってしまう事でしょ……?あの子ったらもう……!ふふふふふふ……!」
ティアラは慌てて弁明した。
まぁティアラは1人で酒を呷りながら愚痴をこぼす事が癖になっていてそれがつい出てしまったという格好だった。
「どうぞこれが今わたくしが把握している世界神様に相応しい神と勇者の一覧表ですわ」
神の一覧表と勇者の一覧表を空間収納から取り出しティアラの目の前の机の上にティアラの向きに合わせて置いた。
「別に探してなんかないし冗談よ」
ティアラはそれは不要だとその一覧表に手を添える様にして押したが――。
「どうぞ遠慮は要らないですわ」
プリシラも同様にして反対側に手を添えると押し返しティアラとプリシラの黒笑とその目線が激突した。
「ま、冗談はさておき――」
ティアラは話題を変えようとして――。
「わたくしは冗談ではありませんのに」
(死ねティアラ!そんな軽口が叩けるなんて……!貴方は相応しくないですわ……!外道女神死ね……!死ね……!)
――プリシラの逆鱗に触れ確執がより一層強固になってしまい――。
17/28.「それでは早速行こうかしら」
「はいこれ――それじゃ早速行こうかしら」
――ティアラはそれに気付かず机の上の物を片付け一覧表を手渡しでプリシラに返すと執務椅子から立ち上がった。
「どちらへですの?」
プリシラは手渡された一覧表を大人しく空間収納に戻した。
しかしティアラがどこへ出掛けようとしているのか分からなかった。
「もちろん決まってるじゃない。あの子の星よ!」
(あのお馬鹿が言う条件に合致するのなんて私が知ってる限りだとあの人だけだけれどあの子は本当に運だけは良いから……本当に見付けられちゃったりしてね。――まぁ理想てんこ盛りなんてほんと私とそっくりだわ)
ティアラは少し楽しんでいた。
(え!?)
「分かりましたわ……」
(何を浮かれているのかしら……腹立たしいですわ……)
ティアラがわざわざ一星神の問題で現地へ出向く事は非常に珍しかったからプリシラは心の中で驚いてしまったがその女神には特別に目を掛けている事は知っているから一瞬で納得し頭を出向くモードに切り替えたものの腸は煮えくり返っていた。
かくしてティアラとプリシラは共に地球の第3惑星の女神の亜空間へとテレポートしていった。
18/28.「いつになったら見つかるのよ!」
「もう!いつになったら見つかるのよ!ほんと役立たずばっかりね!」
女神は物事が自分の思い通りにいかず苛立っていた。
早く文明を発展させて色々贅沢したいのに!
女神の星は長らく文明が発展せずその女神の我がままで一匹狼な性格が災いし友達もいなくて物々交換する相手もいないから亜空間では不便で美味しい食べ物も娯楽も無く退屈な生活が続いていてその事に飽き飽きしていた。
「役立たずは誰よ」
突然ティアラとプリシラが女神が居る亜空間にテレポートしてきて話し掛けてきた。
「マ、ママ!」
女神はその声と姿と連れている天使を見てすぐにその声の主が誰なのか分かった。
また女神とティアラに直接の血の繋がりは無いのだがそれぞれ宇宙と星を司る神であり気持ち的には母子の関係なのだ。
「自分に仕えてる天使を大切にしなさい」
ティアラは女神に会うや否やいきなり説教を始めた。
「言われなくても分かってるわよ!十分大切にしてるわよ!」
売り言葉に買い言葉なのはいつもの事だった。
(はぁ……何でこの子はこんなに我がままに育っちゃったんだろう……)
19/28.「『』を探させ続けてるそうね」
「聞いたわよ。貴方、貴方の天使達に貴方が探し求める無理難題な勇者を探させ続けてるそうね」
とうとう女神が嫌いなティアラの詰問が始まってしまった。
「一体誰がママに告げ口したのよ」
女神は天使達を睨み天使達は俯いたりし目線を逸らした。
(このままこの子が犯人捜しを始めてしまったり自分の天使達に対して疑心暗鬼になられても困るから端的に事実を話そうかしら)
「告げ口じゃないわよ。定期的にやってる私の天使と各神の天使とのヒアリングで分かった事よ」
ティアラやプリシラは宇宙全体の情報を把握する為各神とのヒアリングを滞り無く定期的に行っていて近況や抱えている課題、神の趣味の変化に至るまで大体の情報を把握していた。
「何よそれ!告げ口と一緒じゃない!あんた達いつの間にママの天使達とそんな事してたのよ!これは裏切りよ!う・ら・ぎ・り!」
女神は自分に仕えている天使達がティアラの天使達とヒアリングしている事を正確には知らなかったのではなく忘れていた。
(はぁ……わたくしも苦労が絶えないわ……)
「とりあえず理不尽な理由で自分の天使達に怒るのは止めなさい」
ぐぬぬぬ……。
「わ、分かったわよ!で、私に何の用よ!私は今忙しいんだから邪魔しないでよ!
実際女神は食欲を忘れる程勇者探しで苛立っていて忙しかった。
20/28.「どんな勇者を探してるって?」
「貴方、どんな勇者を探してるって?」
(先ずはこの子に自分の理不尽さを自覚してもらわないと……)
「そりゃもちろん優しくって~有能で~頭が良くって~私が言った事は何でもやってくれて~私の話し相手になってくれて~面白い事いっぱい言って私を楽しませてくれて~家事もやってくれて~私が困った時は必ず助けてくれて~努力家で~行動力が有って~絶対に私を裏切らない お・と・こ!」
「い、1号……女神様の要望が増えてないか……?」
2号が顔が引きつる様に狼狽えた。
(何でこの子はこんなにもお馬鹿に育っちゃったの……)
「そんな勇者がいる訳が無いでしょうがあああ!この大馬鹿もの~~~~!」
ティアラは怒鳴り女神は両耳を手で塞いだ。
「ママ!急に何叫んでるのよ!うるさいわよ!叫ぶなら家の外で叫んでちょうだい!」
女神の反応に反省の色が全く見られず――。
「家の外からどう貴方を叱れっていうのよこの大馬鹿もの~~~~!」
――ティアラは再び怒鳴った。
「分かったから!もう叫ばないでよ!もうどうして私がママに叱られないといけないのよ……!」
私は大声で叱られるのが嫌いなのよ!
21/28.「貴方も学校で習(なら)ったわよね?」
「私だって大声で叱るのは大変なのよ……まぁそれは一先ず置いておくわ……――貴方も学校で習ったわよね?その様な勇者はとても希少って事を」
女神には現実が分かっていなかった。
「あー、先生が何かそんな事言ってた様な……」
うっすらと記憶は有った。
あんまり覚えてないけど!
「貴方って子は……まぁ叱ってばかりじゃ貴方の為にもならないでしょうからここは私が大人になるわ。――その様な高ランクの勇者の魂はとても希少で入手するのはとても困難なのよ」
女神だと信じてくれて勇者という使命から「私には荷が重過ぎます……」などと言って逃げずそのうえ女神の要望通りの「優しく有能で頭が良く言った事は何でもやってくれて話し相手になってくれて面白い事をたくさん言って楽しませてくれて家事もやってくれて困った時は必ず助けてくれて努力家で行動力が有って絶対に裏切らない男」など平民の女神にとっては夢を見過ぎだった。
実際そんな勇者は平民の女神には到底手が届く訳も無く緊急事態や短期間にどうにかしてもらうという様にレンタルするのがやっとだった。
「希少がどうとか困難がどうとか私には知ったこっちゃないわよ!私は絵本に出てくる様な勇者が欲しいの!」
女神は「無理」というのが嫌いで一度欲しいと思った物は絶対に手に入れたかった。
「はぁ……まぁここまでくるとこの性格も一種の取り得ね……でもほら自分の天使達を見てみて。貴方の天使達はこんなにも疲労困憊しているのよ?」
1号をはじめ女神の天使達は皆表情からして疲れて切っていて目の下に隈まであり疲労困憊しているのが誰の目にも明らかだった。
そして女神はティアラに言われた通り自分の天使達を見てみると確かに疲労困憊していて「ぐぬぬ……」となりながらも――。
「だから何よ……」
――自分が引くつもりは一切無かった。
22/28.「一肌(ひとはだ)脱ごうかしら」
(はぁ……まぁこの様子じゃこの子は方針を変えないわよね……それにこの子の天使達が潰れてしまうのも時間の問題よね……だったらここは私が一肌脱ごうかしら)
「この星に高ランクの勇者なんてクエストが発生していないどころかろくに魂も取引していない貴方の星にいるとはとても思えないけど……ここは特別に私が水晶で探してあげるわ。優秀な人が見つかると良いんだけど……」
ティアラはこのままでは女神の天使達が過労で潰れてしまうと思い「勇者探しの水晶」で探してあげようと思った。
「ごめんなさい……でもママが代わりに探してくれるなんてやったわ!絶対に見つかるって事じゃない!」
超ラッキーよ!
ティアラがこの女神を手伝うのにも訳が有るのだがティアラはその事に言及するつもりは一切無かった。
「この星のおそらく最善の勇者が表示されるだけよ」
ティアラは期待していなかったし女神にもあまり期待しないでほしかった。
「世界神様、勇者探しの水晶ですわ……」
プリシラがぱちん!と指を鳴らし収納空間から水晶を取り出しティアラに見せ判断を仰いだ。
「そこに置いてくれるかしら?」
ティアラはテーブルの上に置いてほしかったから置いてほしい所を手で指し示した。
「分かりましたわ……」
プリシラはテーブルの上の指示された所にその水晶を置いた。
「あら、ありがとう」
ティアラはプリシラに感謝し女神の天使達もやっとこの過酷な仕事から解放されると思い安堵の表情を浮かべていた。
23/28.(優秀な「」がいたら良いのだけど……)
(贅沢は言わないからこの星に我がままなこの子を任せられるそれなりに優秀な勇者がいたら良いのだけど……)
全く期待していないながらも水晶に手をかざし探し出す勇者の条件を思い浮かべ魔力を注ぎ込み起動するとその水晶は光りしばらくしてから1人の人物が映った。
(え……?)
そしてティアラはその事に驚き思考が停止しかけた。
「ママ、どうしたの?」
女神もティアラの様子に驚き心配する様に尋ねた。
「いえ……大丈夫よ……」
(見間違いかしら……もう一度……)
ティアラは驚きのあまり絶句し目元をこするともう一度確認した。
「いえ……その……まだ実績は無いけれど貴方の星にもいたわよ。高ランクの勇者候補が」
(ありえないわ……!どうして辺鄙なこの子の星に魔王クエスト級……!いえ、楽園級の勇者がいるのよ……!)
魔法が無くヒューマン単一のこの世界では魔力や筋力が発達しないのは仕方の無い事なのだがそれ以外の人格や頭脳といったステータスがほぼカンストしそういう人材にありがちな副作用、要するに高知能の代償である自閉症やADHDといった症状が一切無く行動力や期待値までフルステータスの人物が1人だけいた。
「え!超超ラッキーじゃない!それもこれも私の素晴らしい統治能力のおかげね……!」
女神は自画自賛しているがその自惚れに突っ込みを入れられない程女神以外の皆は驚きのあまり絶句してしまっていた。
ちなみに女神の天使達は全く教わっていないからよく分かっていないが「ティアラ様が驚いておられるのならこれは驚くべき事なのだろう」とは察していた。
「貴方が幸運、それも非常に幸運な事は本当よ。でもこの勇者の誕生は全く貴方の功績とは関係ないわ。だって別に貴方がこの人を育てた訳でも見出した訳でもないんだもの」
ティアラはせっかく上がった女神のテンションが損なわれてしまう事を冷静に言った。
「でもここは私の星なんだから私の功績よ!」
女神はこの手の手柄事にはうるさいのだ。
24/28.「この人が一番の勇者候補よ」
「そ。――で、この人が一番の勇者候補よ」
ティアラは判明した勇者候補を皆が見える様に魔力で作った大きなモニターをいくつも作り映した。
「おー!」
歓声が上がるも――。
「え……!?」
――映し出されたのは1号と2号がお世話になっていた青年で1号は絶句し――。
「おい……!あれって……!」
――2号も1号と同様に狼狽えてしまいながらも1号に耳打ちした。
「間違い無いです……彼は……」
1号は耳打ちし返したが――。
(あら、知ってる天使がいたんじゃない。ならどうして女神に報告しなかったのかしら?――まぁそうね、良い男って事なのかしら。妬いちゃうわ)
――プリシラを除く他の天使達は気付いていなかったが地獄耳で少しの機微も策略も見逃さないティアラには筒抜けだったし女神の勇者にしたくない程の大切な人がいる事に嫉妬してしまった。
「彼は今荒野に1人でいるわね。場所はここよ。いずれにせよ急いだ方が良いわ。だってこの人が命を落とせばこの高ランクの魂をもう一度この星で使えるとは限らないもの」
(希少な高ランクの魂は需要が多いし危険な星へと優先的に投入してるからね……まぁ一度様子見で私の監視下で使ってみる事になると思うけど……!)
「分かったわ!じゃあ皆行ってきてちょう……」
そして女神がいつもの様に1号達に命令を下そうとすると――。
「また天使達に行かせるつもり?」
――ティアラに咎められてしまった。
私はいつも通りに自分の天使に命令しようとしただけなのにママに凄まれちゃったわ……!
「じゃ、どうしたら……わ、分かったわよ!私が行けば良いんでしょ?私が行ってくるわよ!」
女神はティアラの凄みに屈し仕方無く自ら行く事にした。
「よく言えました。その調子よ」
ママが微笑んでくれたけど、嬉しい様なめんどくさい様な……だわ!
「じゃ、私がこの男をちょちょいのちょいで篭絡してくるから貴方達はここで待っててちょうだい!」
女神はそう言うと――。
「あ、あの……女神様……もう少し考えてから……」
――凛穂の静止も聞かずにあっという間に現地へとテレポートしていってしまった。
25/28.「申し上げても宜しいでしょうか?」
「ティアラ様、僭越ながら私が申し上げても宜しいでしょうか?」
1号が女神の事を心配し口を開いた。
「良いわよ、何かしら?」
(あの男の事かしら?)
「女神様は多くの要素をお望みでございますので彼が最も適任とは断言出来かねますし他の候補も検討されてみてはいかがでしょうか?」
(ふふ)
「ねぇ、1号ちゃん。猫を被るのはお互いに止めましょ?私は本音で話し合いたいわ。貴方の普段の口調はそういうのじゃないはずよ?」
ティアラには全て見破られていた。
「分かりました。――彼は知人ですから迷惑を掛けたくないんです」
ティアラには全て見破られていた。
「お……おい!1号……!」
1号の突然の白状と口調の変更に2号も思わず声が出てしまった。
「でも駄目よ。公私混同は良くないわ」
(どの口が言っていますの……!)
プリシラは怒りを覚え後ろからティアラを睨んだ。
「で、ですが……!」
1号はどうしても彼を巻き込みたくなかった。
「私は彼にやってもらいたいの」
(1号ちゃんが庇うなんてよっぽどの男ね。死ぬ様に誘導して魂をゲットしちゃおうかしら♪)
「そうですか……」
1号はティアラに逆らえず諦めた。
そして女神が他の勇者を所望する事に期待した。
(二度と同じ悲劇を繰り返させませんわ……!)
プリシラはティアラの様子から何かを企んでいる事を察知し妨害する事を決意した。
26/28.「他に質問は有るかしら?」
「それじゃあ他に何か質問は有るかしら?」
ティアラと1号のひと悶着の後に質問するのは誰もが気が引けていたのだが――。
「女神様を1人で行かせちまって良かったんですか?」
――度胸が有る2号が1号に倣い女神様に対する普段の口調で質問した。
(あら?あの子の事が心配なのかしら。自分の天使に心配してもらえるなんてあの子は良い天使を持ったわね)
ティアラはその事が自分の事の様に嬉しかった。
「ええ、これで良いのよ。これはあの子にとって良い経験になると思うわ。神々にとって自分の星を平和に導く為に勇者を任命し共に頑張る事は成年儀礼なのだから」
(お手並み拝見ね。まぁ失敗してこの子達ががっかりしないと良いけど……)
「成年儀礼……知らなかったです……」
ティアラの言葉を聞いた女神に仕える天使達は2号と同様に皆驚いた。
「なぁ1号!あたしは初耳だぞ!勇者がどうとかってそんなに大層な事だったのか?」
驚いていた2号が1号に耳打ちした。
「私も初めて聞きました。成年儀礼だったとは驚きです」
1号達が知らなかったのもそのはずで天使には天使専用の「天使学校」が有るのだが女神の「学校なんて行く必要無いわよ!だってほら!女神学校を卒業した私が言ってるんだから!」という「学校不要論」により学校に通わせてもらえなかったのだ。
(はぁ……あの子は天使達に教えていなかったのね……もしかしたら自分でも忘れているんじゃないかしら……)
そしてティアラが抱いた懸念は正しかった。
27/28.「雄姿(ゆうし)を見届けてあげましょ」
「貴方達は知らなかったのね。全くあの子ったら……良いわ。私が教えてあげる。その前に一先ず皆でくつろいでモニターであの子の雄姿を見届けてあげましょ。そろそろ到着よ」
世界神が女神の天使達に勇者について教える事を決意しそう言うと世界神に仕える天使が再びぱちん!と指を鳴らすと人数分のソファやその正面に丸テーブル、そのテーブルの上にお菓子や飲み物、そして壁に魔力のモニターがプライベートシアターの如く現れた。
そして天使達はその凄さに圧倒されていた。
「さぁ、皆で楽しみましょう♪遠慮はしないで。プリシラ、貴方はこっちよ」
ティアラが真ん中に座ると手始めにソファの隣をぽんぽんと叩きながらいつも控え気味な自分に仕えているプリシラを呼んだ。
「分かりましたわ……」
プリシラは含みを持たせた様にそう言うとそこに座った。
「ほら。貴方達も自由に座って」
ティアラは皆にも座る様にと声を掛けた。
「は、はい……!」
――皆畏れ多く感じながらもそう言ってティアラから近い席程高位の天使が座る様にと譲り合いながら座っていった。
もちろんティアラの隣でプリシラの反対側には1号が座った。
(それにしてもあの人にどこか似ている彼は一体……)
ティアラはそう心の中で思いながらモニターに映っている男を見つめた。
かくしてアンは勇者候補の青年に会いに行きティアラ達はその雄姿を見届ける事となった。
ちなみに女神はテレポート魔法の熟練度が低いから到着に少し時間が掛かるのだがティアラとしても女神が到着する前に色々と話したかった事が有ったから到着するタイミングを操作し視聴の準備が出来るまで遅らせていた。
28/28.「わ、わぁっ!て、敵襲!?」
そして女神は青年の正面にテレポートした。
「わ、わぁっ!て、敵襲!?」
突然光に包まれた存在が目の前に現れたから座っていた青年は驚き後ろに倒れてしまった。
その様子に青年が手綱を握っている馬もひひひーん!と驚き前足を上げてしまうが馬は獣の本能で聖なる力を感じ取っていて恐怖心は無く突然現れた事に驚いただけだった。
「誰が敵よ!この姿を見ても分かんないの?」
女神は自分が敵と見間違われて不満だったのだがテレポートの際に必要以上に魔力を込め凄まじく光を放っていてテレポートした場所やそのタイミングを加味するとそれが目くらましを伴った敵襲と思われても仕方が無かった。
そして女神はどや顔で誇らしげに胸を張り胸に手を当て青年に訊いた。
かくして女神と勇者候補の青年は出会った。
後書き
1号、2号呼びはさすがに愛が足りていないのではないかと思ってしまいますが、天使がたくさんいて全員に名前を付けるのが大変(面倒寄り)だったアンの奇策により名前として番号が与えられたという感じです。
ですので決して彼女達を「物」として見ている訳ではないはず……です……(笑)
ちなみに作中で1号が勇者の事を様呼びしていなかったのは勇者に対して嫌な記憶が有るからです。
また1号が足技を使っているのは潔癖症で盗賊達に触れたくないからで2号が拳闘術を使っているのはただ単に殴るのが好きだからです(笑)