[R18] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 12話 地球の女神 悲劇(アン視点)
目次
Toggle前書き
ついに今節最終話です!
R18
第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)
第 12 / 12 話
約 24,500 字 – 35 場面 (各平均 約 700 字)
1/35.「『』化おめでとうございます」
ユウタの王国は順調に発展を続けそして――。
「アン様、いえ、天空神アン様、国教神化おめでとうございます」
――国教行事を行う余裕も準備も出来て1号達は拍手してアンの国教神化を祝った。
というのもアンは望みが叶ってついに神殿(笑)と石像(笑)も完成し自分の名が冠されたちゃんとした神として皆から崇拝される様になったのだ。
ちなみに神殿とやらはギルドの建物の4倍のサイズで急ぎで造って雑なアンに似せたが似ていない石像が置いて有る。
もちろん精巧な石像が出来るまでのつなぎで置いている。
「ありがと!これで私も立派な女神よ!」
アンはとっても嬉しかった。
というのもアンはずっと自分が自由に出入り出来て教えを説く「説法」や悩みを聞く「告解」が出来る専用の建物と何と言っても自分専用の石像と、そして何より信奉してくれる信者が欲しかったのだ。
ちなみにアンにとってそもそも自分が女神だと分かっても普通に接してくれているユウタやニンという人がいる事自体が初めての事で今まで信じてもらえなかったばかりか「妖術士」だの「魔物」だの、「悪霊」だの「邪神」だのと忌み嫌われ追い払われたトラウマの様な出来事と比べれば大きな進歩というかもはや奇跡だった。
「やっぱり私が皆から崇め奉られるのって最高ね!」
「そうですね。おめでとうございます」
かくしてアンは自分が神として崇拝される様になりお供え物の果物も自由に食べられる様になり神らしい事も出来る様になって乗りに乗っていた。
2/35.「『』はいつにする?」
そしてアンはユウタとニンと3人でいる時に――。
「で、結婚式はいつにする?」
――結婚式をいつにするか訊いた。
「あたしはいつでも大丈夫だよ。村の皆もまだかまだかってうるさいし」
ニンは村の皆から急かされていたし1週間後でも大丈夫だった。
「んー。でも私やっぱりまだ気恥ずかしいしもうちょっと先にする?」
アンは結婚式を想像したら恥ずかし過ぎて心の準備がまだ出来ていなかった。
「えー」
ニンはそもそもユウタが村長として頭角を現す前には心の準備が出来ていてずっと焦らされている様なものだった。
ユウタはアンから「おっきな国を造ってほしいのよ!」と頼まれたのをまだ達成出来ているとは思えなくてそれゆえ2人と結婚出来る程の実績や資格が有るとも思えなくて申し訳無くて――。
「ならもっと国が大きくなるまで延期にしてみるかい?」
――もっと国が大きくなってからの方が良かった。
「そうよ!そうしましょうよ!」
先延ばしにしたかったアンはユウタも延期案を出してくれて助かった。
「えー。でもいつまで?」
ニンは2人が延期したいのならそれに従っても良かったユウタが言った「もっと国が大きくなるまで」がどこまでなのか知りたかった。
「国内の平定と遠方との外交と交易の条約を結んでからでどうかな?」
ユウタは王国の維持が出来る国土の広さにも限界が有ると思っていてアンによると他の天使のチームがあちこちで国造りの工作をしているそうだからその遠方の勢力と協定を結べたら自分としても自信を持って2人を迎えられるかなと思っていた。
3/35.「条約を結べる様な『』って有るの?」
*「プリシラ、条約を結べる様な勢力って有るの?」*
「条約」とは国家同士が結ぶ協定でありティアラはユウタ以外の王国が有るのか知らなかった。
*「ええ。1号さんの報告書によればこつを掴んだそうで西にエジプト文明、北にアナトリア文明、東にインダス文明といった様に建国着手に入ったそうですわ」*
プリシラは報告書を読んでいてティアラの疑問に答えた。
*「貴方、結構真面目ね」*
ティアラはユウタにうっとりするとプリシラが報告書まで目を通していた事に驚いた。
*「当然ですわ。情報有れば憂い無し。どこかのお馬鹿さんが何をしでかすか分からない今あらゆる事に備える為情報収集しておくのは当然の事でしてよ」*
プリシラとしても出来る限りの準備はしていてティアラを見透かしている様に言った。
*「あらそう。でも誰も大きな流れには逆らえないものよ?」*
ティアラはプリシラがいくら抵抗しても無駄に終わると思っていた。
*「それはやってみなければ分からないですわ」*
ティアラとプリシラはばちばちと睨み合った。
*(助けてくれよ1号~……)*
仲裁の得意さを買われ2人のお世話役を押し付けられていた2号はティアラとプリシラに挟まれながら心の中で泣いた。
「賛成よ!国同士で手を結んでからにしましょ!」
アンにはそれが素晴らしい名案に思えていた。
またある程度の時間が稼げれば何でも良かった。
「うん……それで良いよ……」
ニンはユウタもアンも延期したがっているから自分もそれに仕方無く従った。
かくしてユウタ達の結婚は他文明との国交が開かれるまで延期になった。
4/35.「やったわね!ユウタ!今日は『』よ!」
そしてユウタはアンの勇者としての力を遺憾無く発揮し瞬く間に――。
「親父も長老も説得しました。自治権を認めてくださるのであれば、我が部族を貴方様の王国に編入させてください」
「村の男達全員で盗賊業は廃業する。だからお前の国に入れてくれ」
「色々有って俺が戦士長になった。王国入りの話を復活させてくれるか?」
「会議で編入案が可決されました。しかし私が商人組合を代表してお願いしますが商会の存続はお認めください」
――などと統治の自治権や商会といったクランの商売権も認めながら諸都市や諸部族、諸集落を平定し――。
「我が王も大変喜んでいらっしゃいます」
「それは何よりです。今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします。メソポタミア王」
――などと周辺諸国と外交条約や交易条約も締結し――。
「やったわね!ユウタ!今日はパーティーよ!」
――それを祝う3人だけの祝賀パーティーをユウタとニンとアンが一緒に暮らしている屋敷で開いた。
政府の建物の向かいに私邸の屋敷が有る。
「そうね。やっと結婚出来るね♡」
ニンが黒笑で微笑みながらそう言った。
「あ……!そ、そうだったわね……!」
アンは忘れていたのだがニンの一言で思い出しついに結婚をする日が間近に迫ってきて焦った。
「うん、そうだね」
ユウタは自分がこの素晴らしい2人に相応しいとは全く思えていなかったが覚悟を決めていた。
「で、でもどうしよう……!私もママと天使達に来てもらった方が良いのかしら……!」
アンは初めての事だから何をしたら良いのか分からなかった。
*(呼ばれなくても行くけど♡あ♡そうだ♡練習と言ってユウタさんと歩いてみようかしら♡)*
*「私と~っても楽しみよ♡」*
ティアラは心底楽しみにしていた。
*(やはりティアラが動くのは結婚式ですわ……アベルとの結婚を絶対に許すはずが無いですもの……もう間違い無いですわよ……)*
*「そうですわね」*
プリシラは常に警戒していたがティアラの喜び様を見て改めて確信した。
「うん。私もパパもママも弟も村の皆を呼ぶからね。皆に祝ってほしいし」
ニンも親しい人皆を招待するつもりだった。
5/35.「あ!そうそう!『』が来てるのよ!」
「楽しみね!――あ!そうそう!私達を祝いたいって商人?のおじさんが来てるのよ!なんか持ってきてくれるんだって!ここまで通しても良いかしら?」
アンは祝ってもらうという話で私達を祝いたいとおじさんが来てくれている事を思い出した。
「え……?お、おじさん……?」
ユウタは突然の事で驚いた。
「い、いつの間に知り合ったの……?」
アンも驚いていた。
「だいぶ前に告解で相談されて知り合ったんだけど優しいおじさんなの……!お願い……!絶対大丈夫だから……!」
アンはおじさんとは告解で知り合っていて大丈夫な人だと確信していた。
「アンがそこまで言うのなら……」
ユウタはアンの気持ちを尊重したかった。
「ちょ、ちょっと……!ユウタ……!」
ニンはユウタの決定には賛成出来なかった。
またニンはこの頃にはアンともとても仲良くなっていたしアンが名付けた「ユウタ」という名前も受け入れていた。
「じゃあ呼んでくるね!」
アンはおじさんを連れてくる為部屋を飛び出そうとした。
「う、うん……」
ユウタは気が乗らないがアンの為しぶしぶだった。
「ねぇ、大丈夫かな……?」
ニンも不安だった。
「危険が有ればイリシュ達が対処していただろうしもし商人か工作員で何かしらの策略が有ってアンを使って接触を図ってきたのだとしても何か交渉する為だろうし話だけは聞くつもりだから」
ユウタとしては安全だとも思える判断材料も有ってとりあえず対処療法にはなるが対処可能だという事を伝えた。
「わ、分かったよ……」
ニンはとりあえずのところ少しだけ安心出来た。
6/35.「『』連れてきて!」
「ねぇ、おじさん連れてきて!」
部屋の外で待機しているイリシュ達に命じた。
「直ちに」
イリシュはアンの指示に従い――。
*「ヌナ。通せ」*
――念話でヌナに通す様に言った。
*「本当に通して良いの……?見るからに怪しいよ……?」*
おじさんは衛兵のヌナの前で待っていてヌナがどう見てもそのおじさんは怪しかった。
「何してるの!早く!」
アンは待つのが苦手だし衛兵を急かした。
*「身体検査をしたが何も出なかったんだ。建物の中では私達が対処する。だから良いから通せ」*
イリシュはただ怪しいからという理由で民間人をどうこうする事が出来ず通すしか無かったが建物の中ではユウタ達がパーティーをしている部屋の外でユウタとアンとニンの護衛が待機しているから万が一の事が有ってもその3人で対処が可能だと思っていた。
*「分かったよ……」*
「入って良いよ」
ヌナが苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべながら退くと――。
「それでは失礼いたします」
――胡散臭いにこにこ顔で建物の中へと入っていき――。
(陛下達は大丈夫でしょうか……)
――それを向かいの建物の入り口の前から見ていたエルルは不安がった。
7/35.「『』!こっちこっち!」
そしておじさんを目視したアンは――。
「おじさん!こっちこっち!」
――手招きしておじさんを呼んだ。
「今参ります!」
おじさんは警戒するイリシュ達に見られながらもにこにこ顔のまま近付いていった。
「おじさん連れてきたよ!」
アンはユウタとニンに嬉しそうに報告した。
「どーもどーも!初めまして!国王陛下に未来の王妃の方々!わたくしめは商人のバンダと申します!」
商人のバンダはアンとニンを持ち上げながらいかにも物腰が柔らかく紳士的で人畜無害そうに自己紹介した。
(う、胡散臭い……本当に商人なんだろうか……?)
(このおじさん絶対危ないよ……)
ユウタもニンもバンダの事が全く信じられなかった。
*「ねぇ、あのおじさんはティアラが差し向けた暗殺者ですの?」*
プリシラはティアラに単刀直入に訊いた。
*「そんな訳無いじゃない。もし私だったら暗殺するとしても結婚式の時よ」*
ティアラは自分が関わっていない事を知ってもらう為に際どい事を言った。
*「そうですわよね」*
プリシラは納得した。
「こちらこそ初めまして。じゃあ、アンとニンはこことここ。で、バンダさんはどうぞそちらにお掛けください」
しかしユウタはバンダの事を胡散臭いと思いながらも議長席にユウタ、ユウタから見て右側にアンとニン、左側にバンダという席順でもてなそうとした。
「分かったわ!」
アンはユウタの提案を受け入れて――。
「うん。そうする」
――ニンも受け入れて移動し――。
「いやぁご親切にどうもどうも!」
――バンダも指示通りに着席した。
8/35.「約束の持ってきてくれた?」
「ねぇおじさん!約束の持ってきてくれた?」
アンは早速バンダに訊いた。
「もちろんですとも!こちらがその――高級な果実酒です!」
バンダは果実酒を取り出しテーブルに置いた。
「デーツ?」
アンはバンダに果実が何かを訊いた。
「もちろんですとも!」
バンダは約束通りデーツの果実酒を持ってきていた。
「やったわ!私の大好物なんだから!」
アンはナツメヤシの果実であるデーツが大好物だったし喜んだ。
(うわぁ……それ毒殺の定番のやつだよ……毒が入ってそう……)
ニンはその果実酒に毒が入っているとしか思えなかった。
「それは良かったです。そしてこの度はこちらを国王陛下であらせられるユウタ様ともうじき王妃様になられるアン様とニン様に無償でご提供させていただきます!王室御用達の程、宜しくお願い申し上げます!」
バンダは王室御用達にしてほしいと言って果実酒をテーブルの全員から見て等距離に、つまり真ん中に置く様にして無償で提供した。
「あんた気が利くわ!祝ってくれるしただで高級なお酒もくれるし!」
アンはバンダが大層使える商人だと思っていた。
「無償で提供してくださるのはありがたいです。感謝します。王室御用達については仕事の依頼をする事は出来ます」
ユウタとしては相手の事を知らない内は慎重を期し一気に関係を構築する事は出来なかった。
「陛下直々にお仕事のご依頼をしてくださるのは大変ありがたいです!」
バンダは嬉しそうにしていた。
「もう王室御用達にしちゃっても良いのに!」
アンは既に商人達の中ではバンダを一番気に入っていた。
「ありがたきお言葉です!――」
ユウタ達はバンダは嘘を言っていない様に思えた。
9/35.「ご相談なさりましたか?」
「――そうですそうです。アン様。結婚式の際の宝石類について陛下にはご相談なさりましたか?」
そしてバンダはアンに宝石について話した事を訊いた。
「あ!そうそう!この人が宝石とか作ってくれるし売ってくれる人だよ!」
アンは言われて思い出した。
「アンから話は聞いています。そして宝石についてはアンとニンが気に入れば買う用意は有ります」
ユウタはアンからその話は聞いていたが出来れば国内で造りたいと思っていた。
「陛下。私共の今後の関係の為、宝石も無償でご提供させていただきたいと思っております!」
バンダは宝石も無料で提供しようと思っていた。
「それほんとなの……!?」
アンは食い付いた。
「もちろんですとも!」
バンダからは何の腹黒さも感じられなかった。
「あんたお酒も宝石もただでくれるなんて最高の商人ね!」
アンの中でバンダの評価はうなぎ上りだった。
10/35.「お二方(ふたかた)に贈る為に持参(じさん)した『』です」
「光栄です!そしてこちらが――王妃様になられるお二方に贈る為に持参した宝石です!」
バンダは宝石のネックレスを2つ取り出しテーブルのアンとニンの目の前にそれぞれ置いた。
「わぁ綺麗!これもくれるの?」
アンは宝石も好きだから食い付いた。
「もちろんですとも!どうぞ試着なさってみてください!さぁさぁ!」
バンダはアンとニンに早速装着してみてほしかった。
「どう?ユウタ」
アンは何ら疑う事無くネックレスを装着しユウタに似合うか訊いてみた。
「似合っているよ」
実際似合っていた。
「やったわ!」
アンはとても嬉しかった。
「私はどう……?」
ニンは気乗りしなかったが自分も装着してユウタに訊いてみた。
「ニンも似合っているよ」
ニンも実際似合っていた。
「ありがとう」
気乗りしないネックレスだったがユウタに褒められたのは嬉しかった。
(ただより高い物は無いんだよね……一体何を要求される事になるんだろう……)
ユウタはただより高い物は無い事が分かっていたし相応の見返りを求められるだろうと思っていたからアンもニンもバンダを気に入ったともなれば2人に圧力を掛けられて2人との関係を悪くしたくない自分がバンダからの様々な要求を呑まざるを得なくなるのだろうと嘆いた。
「それでは王国の繁栄と協定締結とお三方の結婚と我々の未来を祝して乾杯いたしましょう!」
バンダは乾杯したかった。
「そうね!じゃんじゃん飲むわよ!」
アンも賛成で早く飲みたかった。
「福も来たるそうですよ」
バンダは念を押した。
(そんな話聞いた事が無いんだけど……)
ユウタは初耳だった。
「運も付くなんて最高ね!」
アンにはもはや飲む以外の選択肢が無かった。
(アンは簡単に丸め込まれ過ぎよ……)
ニンはアンのちょろさに嘆いた。
11/35.「陛下。『』させてください」
「陛下。わたくし共に毒見させてください」
イリシュが毒見を申し出た。
「ちょっと!これに毒が入ってるって言いたいの?」
アンはイリシュが言った事が不快だった。
「いや。だが陛下達が口にするのならルール通りに毒見するべきだと言っているだけだ」
イリシュは絶対に毒見すべきだと思っていた。
「あんた私の事が嫌いだからめんどくさい事言ってきてるんでしょ!」
アンはイリシュが自分にも敬語を使ってくれない事には気付いていて自分の事が嫌いだから当てつけをしてきているのだと勘繰った。
「い、いや、そういう訳では……」
イリシュは普段からアンとは会話しないようにしていたのだが初めて面と向かって図星を突かれて狼狽えた。
というのもイリシュだって自分がアンの天使であるにも関わらずユウタにしか敬語を使っていなくてアンに対して不敬な事をしている事は自覚していたのだ。
(ねぇ、アン。ここはイリシュさんが言ってる様に毒見するべきだよ)
ニンも毒見するべきだと思っていた。
「ニンまでこのおじさんの事疑うの?」
アンはユウタとニンだけは信じて疑わないでほしかった。
「そうじゃなくてこのおじさんは商人だから誰かが毒入りのお酒を紛れ込ませたかもしれないでしょ?」
ニンはアンを必死に説得しようとした。
「誰がそんな事するのよ!考え過ぎよ考え過ぎ!」
アンはそんな事をする人はいないと思っていた。
「アン様がおっしゃる通りでわたくしが知らない内に毒入りの果実酒が紛れ込んだ可能性は有りません」
バンダはきっぱりと言い切った。
「もう皆考え過ぎよ!」
アンは人数分のコップに果実酒を注いでいった。
「アン……」
ユウタもバンダの事は疑っているからアンが勝手に注いでいってしまったからつい声が出てしまった。
「ユウタもほら!皆も飲むわよ!」
アンは毒は入っていないと信じて疑っていなかった。
「いかがなさりますか?陛下」
イリシュはユウタにどうするか訊いた。
「どうしようユウタ……」
ニンもどうしたら良いか分からなかった。
「アン。一旦rt>いったんいつもの様にイリシュ達に毒見してもらおう」
毒見はいつも警護の者がしているし今回もその様にして皆の不安を解消したかった。
12/35.「直々に『』してあげるんだから!」
「ユウタまで……もういいから見てて!この わ・た・し が直々に毒見してあげるんだから!」
アンは自分で飲んで毒が入っていない事を証明しようとした。
「駄目だよアン……!」
「駄目よ……!」
ユウタとニンはアンを制止しようとしたが――。
「ごくごくごく……ぷはー!全然大丈夫じゃないの!」
アンはユウタとニンの制止を聞かずにごくごくと飲み干しよ~く味わったが全然平気だった。
「もちろんですとも!」
バンダは笑顔だった。
「ほらユウタもニンも!美味しいわよ!飲んでみて!」
アンはユウタにもニンにも飲んでほしかった。
「アンが女神だから大丈夫だったんじゃなくて?」
ニンはその可能性を考えた。
「そんな訳無いでしょ!」
アンはそんな訳が無いと思っていた。
「どうしようユウタ……」
ニンはユウタとアンと幸せに暮らしたかったから死にたくなかったしユウタにも死んでほしくなくて悲しい表情でユウタを見つめた。
「お願い。私の事信じて、ユウタ」
アンはユウタに本当に信じてほしかった。
13/35.「もし『』が入ってたらどうするのかい?」
ユウタはアンにそこまで言われたら飲まざるを得なかったが――。
「ねぇ、アン。もし毒が入ってたらどうするのかい?」
――一応説得はしておこうと思った。
「そ、そうよ!もし毒が入っていたらどうするの?」
ニンも加勢した。
「もし毒が入ってたら……毎日ちゃんと朝早起きするわよ……」
アンとしては物凄く譲歩したつもりだった。
「アン!もっと真剣に考えてよ!私達は死んだら終わりなのよ?」
ニンはさすがにアンの発言がふざけていると思って真剣に考えてほしかった。
「私だって死んだら終わりよ……!でも私が飲んでも大丈夫だったじゃない……!」
アンは自分が大丈夫だったのだから毒なんて入っていないと信じている。
「アン、この際だからはっきり言うけれど、食べ物は信用が有る人からしか貰ってはいけないんだよ。僕達はこの王国を預かる身として軽はずみな事をしてはいけないんだ」
ユウタはアンにこの世界の常識を説いた。
「私が世間知らずみたいに言わないでよ……!こんなに優しくて気が利くおじさんが毒を盛る訳無いでしょ……」
アンだって知っているがバンダが毒を盛る様な悪い人とは思えなかったしおじさんを指差してユウタに言った。
「優しくて気が利くからって毒を盛らないとは限らないよ?」
ユウタはアンに対しては今までずっと全肯定君だったのだが今回だけは初めて反論していた。
「ユウタの分からずや……!」
アンはユウタも信じてくれなくて途方に暮れた。
「誰かを信じてあげる事は大事な事だけれど、それと同時に疑いも持たなければいけないんだよ」
ユウタはこの文明レベルで既に「クリティカルシンキング」を獲得していた。
14/35.「お願いよ……!」
「でも私の事は信じてよ……!お願いよユウタ……!私を信じて……!お願いだから……!毒なんて入ってないし美味しいからお願い……!」
アンはユウタが飲んでくれなかったら関係に亀裂が入ってしまいそうな程飲んでほしかったし目をうるうるとさせた。
「分かったよ。飲むよ」
ユウタはアンにそこまで言われたら説得を諦めて飲まざるを得なかった。
というのももはやアンの中では「飲んでくれるイコール信じてくれている」になっていてユウタはアンを傷付けたくなかった。
「やった!そうこなくっちゃ!」
アンはユウタが自分の事を信じてくれて嬉しかった。
「陛下……!」
イリシュはユウタに人情に流されないで判断してほしかった。
「ユウタ……!」
ニンはユウタにはアンに嫌われてでもここは耐えてちゃんと毒見してほしかった。
「イリシュさんもニンも大丈夫だよ。それに僕が最初に飲むから」
「大丈夫だよ」と頷きアイコンタクトを送ったし自分が毒見するつもりだった。
(まぁ僕が死んでもニンが女王になって女商人さん、女傭兵さん、そして衛兵長のイリシュさんが上手く回してくれるはずだから……)
ユウタは果実酒が入っているコップを手に取りその水面を見つめながら悟った。
「ぐいっと飲み干すのよ!ぐいっと!」
アンはユウタが良い飲みっぷりで飲み干してほしかった。
「ぐいっとは難しいけれど……アンもニンもイリシュさん達も後は任せたよ」
ユウタは女神アンの勇者としてアンを悲しませて生きるよりアンを喜ばせて死ぬ方を選んだ。
「ユウタ大げさよ!」
アンは呑気だったが――。
「分かったよユウタ……」
「陛下……」
ニンもイリシュも女神のアンが必死に飲んでほしいと言ってきているしもう毒が入っていない事に、ユウタが無事な事に懸けるしか無かった。
15/35.「よし……!」
そしてユウタは覚悟を決め――。
「よし……!」――その果実酒を舌先で確かめる様にしながら慎重にほんの少しだけ飲んでみたのだが――。
「うっ……!ううっ……」
――ほんの少ししか飲んでいないのにも関わらず喉に激痛が走り全身に血の気が引く様な倦怠感が襲ってきてコップをその場に落とし手で喉を抑えながら必死に呼吸しようとするも血反吐を吐き立っていられなくて床に倒れてしまった。
「陛下……!」
「ユウタ……!」
ニンとイリシュはユウタに駆け寄った。
そしてバンダは目的を達成し急いで気配を消し透明化した。
「あいつはどこへ行った……!」
イリシュはバンダを目視で探した。
「き、消えました!」
他の衛兵も目視で探したが見失っていた。
「さ、探せ……!」
イリシュはバンダ捜索を命じた。
「はい……!」
衛兵達は急いでバンダ捜索に当たった。
「ど、どうしたら良いの……!」
ニンはどうしたら良いのか分からなかった。
「毒なら……『ポイズンヒール!』」
イリシュはユウタに手をかざし解毒魔法を放ったのだが――。
「き、効かない……だと……しかし神の力が有れば……」
――ユウタには効かなくてアンの力ならどうにかなるかもしれないと思った。
16/35.「助けて……!何とかして……!」
「ならアン……!助けて……!何とかして……!」
ニンはアンに助けを求めたのだが――。
「わ、わ、私……!ど、ど、ど、どうしよう……!」
――アンは想定外の出来事に頭が真っ白になっていてただただ震えて突っ立っているだけだった。
「アン……!お願いだからポイズンヒールだかなんだか知らないけどそういう魔法でユウタを助けて……!」
ニンはアンに叫んで必死にアンの魔法を使ってユウタを助ける様に言った。
「でも私……そんな魔法使った事無いし……」
悲しい事にアンはテレポートと念話と透明化しか使えなかった。
「お願いだから早く……!」
ニンは女神のアンにすがるしか無かった。
「わ、分かったから……『ポイズンヒール』」
アンは先程のイリシュの魔法を見様見真似で放ったが――。
「駄目……!全然治らない……!」
――ユウタの状態は一向に良くならずニンは途方に暮れた。
*ちなみに魔法自体は成功していた。*
「アン様……約束も果たせず……すみませんでした……」
ユウタは吐血しながらも結婚の約束を果たせなかったという意味で最後の力を振り絞って謝るとそのまま息を引き取った。
(やっとか)
バンダは肉体から出てきたユウタの魂に向けて小箱の蓋を開けるとそのまま魂はその箱の中に入り蓋を閉じるとそのままテレポートしていった。
「もう約束とかそんなの今はどうでもいいから……!ってユウタ……!死なないで……!ユウタ……!」
ニンはユウタが息をしなくなって鼓動も感じられなくなったから名前を叫び号泣し――。
「お願いだから起きてよ……!ユウタ……!」
――亡骸を必死に揺すり続けそれでも返事が無かったから最後は抱き締め続けた。
「わ、私……こんなつもりじゃなかったのに……」
アンは後悔したが時既に遅かった。
かくしてユウタは毒殺され絶好調だったアンは急転直下で悲劇に直面した。
17/35.「どうしてくれるのよ……!」
そしてアンはニンに問い詰められた。
「アン……!どうしてくれるのよ……!ユウタを返してよ……!」
アンは放心状態になってしまっていて申し訳無さからニンには目も合わせられなかった。
「輪廻転生するはずだから……またすぐに会えるわよ……」
自分の星の魂は自分の所有物だからアンとしてはまたすぐに会わせてあげられるはずだった。
*しかしあまり契約書を読まずにサインしてしまうアンはティアラの甘い口車に乗せられいざという時は魂を融通してもらえる代わりにこちらも融通しなければいけないという個別の契約を結んでいたからティアラが没収出来る様になっていたし実際ティアラは没収するつもりだった。*
*だが自然死するまで待てなかったから暗殺者を仕向けていたのだ。*
「それっていつなのよ……!」
ニンはアンにそれがいつになるのか問いただした。
「分からない……でも近い内になんとかするわ……」
アンはその仕事を天使達に任せっきりにしていたし正確なところは分からなかったが女神の権限で順番待ちや転生先を自由自在に出来るはずだった。
「どうして貴方はいっつもそうやって適当なのよ……!ユウタが死んだのは貴方のせいなのよ……!ユウタを返してよ……!女神だったら何とかしてよ……!」
ニンは号泣しながらアンの胸倉をぐらんぐらんとさせアンの責任を追及した。
「……」
アンはユウタを失ったばかりでその喪失感が有ってまだ頭が真っ白で申し訳無さも有り何したら良いかも分からなくてろくに言葉を返す事も出来なかった。
「何とか言いなさいよ……!馬鹿……!」
ニンはアンの胸倉を掴んでいくら問い掛けてもアンは終始視線を背けたまま無言になってしまっていた。
「またユウタに会わせてあげるから……でもそれがいつになるか分からないし……ニンを天使にしてあげる……『汝よ、我が天使になれ。メタモルフォーシス』」
アンはニンに天使にする魔法を掛けた。
*ニンは全身に魔力回路が構築されて魔法が使える様になった。*
「天使って……今度は私が貴方の為に働けって事……?」
ニンは全身が何か繋がった様な気がして自分が少なくとも上位の存在になった事は分かったが他の天使達の様に自分もユウタを殺したアンの為に働かされるのではないかと思った。
「好きにして良いわよ……ただこれで貴方はもう寿命の心配は要らないから……」
アンは別にニンに自分に仕えてほしい訳ではないしただ寿命の心配が要らない事だけは伝えておきたかった。
「ユウタに会わせてくれるって約束してくれる……?」
ニンはいつも適当なアンにそれだけは約束してほしかった。
「……私、今からママに会うから……それじゃ……」
アンはニンに約束出来る自信が無くてティアラに会う為テレポートしていこうとした。
「ちょっと待って……!約束してよ……!アン……!」
ニンの制止も空しくアンはテレポートしていってしまった。
18/35.「あ、アン!」
そしてアンはティアラがいる場所へとテレポートした。
するとそこは天使達が情報収集など慌てて右往左往していてティアラがその指揮を執っていた。
「あ、アン!」
ティアラはテレポートしてきた放心状態のアンに声を掛けた。
「ママ……」
アンは泣いていて無気力に返事した。
というか涙は泣き過ぎて既に枯れていた。
「とりあえずここは騒がしいから静かに話せる私の部屋に行くわよ」
ティアラは泣いているアンと静かな自分の部屋で話したかった。
「うん……」
アンは「今すぐ教えて!」などと言う気力も無く素直に従った。
「じゃ、ここは任せたわよプリシラ」
ティアラは天使達の指揮を一旦プリシラに任せた。
「ええ、任せてくださいまし」
プリシラとしてはそれは望むところだった。
「じゃあ行くわよ」
ティアラはアンごと――。
「うん……」
――自分の部屋へとテレポートした。
19/35.「じゃあここに座って」
「じゃあアンはここに座って」
ティアラはアンに座ってほしいソファをとんとんした。
「うん……」
アンはそこに素直に座った。
「はい。どうぞ」
アンは紅茶を淹れお菓子を出した。
「うん……」
あのアンが食欲が無くて出された物に目もくれなかった。
「アンったら本当に落ち込んでるわね。気持ちは分かるけど」
ティアラは食べ物が出されるとすぐ飲んだり食べるアンが出された物に見向きもしていないから心底落ち込んでいるのだなと思ったしアベルの事を経験しているティアラはその気持ちが分かるのだった。
「うん……」
アンはもう返事をするのもやっとの状態だった。
「じゃあ要件を聞くわ。言って」
ティアラはアンの要件を聞こうとした。
「私のユウタが死んじゃった……」
アンは簡潔に言った。
(貴方のじゃないけど……でも悔しいわ。私が手に入れたかったのに……!)
「そうね。知ってるわ。念話を傍受したし貴方の天使達もそう言ってたもの」
ティアラはユウタが死んだ事を既に知っていた。
「じゃあ何で助けてくれなかったの……?」
アンはティアラに助けてほしかった。
「それが難しかったのよ。妨害されて何が起こってるのか分からなかったし追跡も出来なかったから」
念話も映像も遮断されもちろん現場へはテレポートも出来なくなっていて追跡も不可能だった。
20/35.*「今何してる?」*
そしてその時ティアラはアンリが動いたのかと思い――。
*「アンリちゃん、今何してる?」*
――アンリに念話した。
*「あ、お客さん。今は挙式業者として準備中です。魔導機械が使えないしで制約が多過ぎるけど楽しめてます。ヴイ」*
アンリはティアラがお望みの悲劇的な結婚式を実現する為ユウタ達のパレードの後結婚相手への誓いを立てる場でユウタへの復讐を誓っている川の民のバジを登壇させ剣でぐさー!鮮血どばー!をする為に色々と準備しているところで文明レベルが低過ぎて魔道機会が全く使えないのだがそれはそれで原始的な暗殺を味わえていて満足していて念話越しだがヴイサインした。
*「あ、じゃあ今回のはアンリちゃんのとは関係無いのね?」*
ティアラは今回の首謀者はやっぱりアンリではないのかな?と思った。
*「え、もしかして先越されちゃった……!?しゅん」*
アンリは一瞬で自分は先を越されたのだと察した。
*「そうみたい。でもとりあえずお金は一部払ってあげるから。オスカルにも伝えといて」*
ティアラはアンリはユウタを暗殺する為動いてくれていたし成功報酬の一部は払ってあげるつもりだった。
*「お客さんありがとう。ヴイ」*
アンリは依頼自体が無くなってしまったが成功報酬の一部でもお金をくれる様だからヴイサインで感謝した。
といのもアンリは今パトリシアの代わりに銀河王国を運営しているのだが全方向の宇宙国家から戦争を仕掛けられていて少しでもお金が必要だったのだ。
*アベルは大人気の勇者だから一部の熱狂的なファンの女神達によりその命を狙っていたパトリシアへの報復として嫌がらせの様に国を滅亡させる為に永遠に戦争を仕掛けられているのだがパトリシアもアンリも暗殺稼業に誇りを持っていて有名税や名声税だと思っているから別に気にしてはいなかった。*
*「お客さんありがとうございます。ヴイ」*
アンリは依頼自体が無くなってしまったが成功報酬の一部でもお金をくれる様だから感謝した。
*「じゃあまたね~」*
ティアラは答えが分かり念話を切った。
かくしてティアラはアベルの行方を追う事になった。
21/35.「何が起こってるの……?」
「ねぇ、ママ……何が起こってるの……?」
アンは何が起こっているのか全く分かっていなくてアンに何が起こっているのか訊いた。
「ユウタさんは何者かに殺されたのよ。そして魂も奪われたから貴方のもとには帰ってこないわ」
ティアラはアンの天使で魂を管理している責任者に訊いたからユウタの魂が帰ってきていない事は事実だしその事から考えても魂の誘拐を目的とした暗殺なのは明らかだった。
「え……何で……何でユウタが殺されたの……?」
アンは何でユウタが殺されたのか分からなかった。
「アンったらまだ分からないの?あんな勇者、めったにいないからよ。普通はあんなにとんとん拍子で国なんて作れないのよ?」
高ランクの勇者は非常に希少だし中身がアベルだと気付いているのはティアラなど極少数なのだがアンは最優秀新人賞を獲得しているし神々の世界では既に有名になっていてアンが最優秀賞を獲得し盛大なパーティーが開かれた時から暗殺が起こる可能性は常に有った。
「ユウタ……」
アンはユウタの事を思い出したが確かにユウタを勇者にしてからとんとん拍子で国が出来たし自分の思い通りに事が進んだからユウタがいなくなってからその偉大さに気付いたのだった。
(まるで昔の私ね……)
ティアラは気落ちし途方に暮れているアンを見て――。
「私が彼を探してあげるから。それまで貴方は自分の星で大人しくしてなさい。良いわね?」
――探す事を約束し見つかるまで自分の星でじっとしてる様にと言った。
というのも昔のティアラは宇宙中を片っ端から強制捜査をした事が有るからアンにも自分の様な行動力が有ると見抜いていたし混乱が大きくならない様にとりあえず落ち着いてじっとしていてほしかった。
「うん……分かった……」
アンは結局食事に手を付ける事無く自分の亜空間へとテレポートした。
22/35.「アン様……」
そして帰還したアンは玄関で1号に迎えられ――。
「アン様……」
――1号は意気消沈しているアンの様子を見て心を痛めた。
「ただいま……」
いつもなら「ただまー!」と言う場面なのだがそんな余裕も無く今までの自分の適当さから卒業する様にちゃんと挨拶した。
「今後の事などどうしますか……?情報統制は上手くいっていて国民はユウタさんが死んだ事はまだ知らないですがそれも時間の問題でしょうから……」
1号はアンの指示が欲しかった。
「もう興味無い……考えられない……任せる……あとニンを天使にしたから……ニンも任せる……」
アンはユウタ亡き今王国の事などどうでも良かったしでもそんな無責任な事を言ってはいけない事は分かっているのだが今は頭が受け付けていなくて何も考えられなくて王国の事もニンの事も1号に任せたかったし返事しながら自室へと直行した。
「分かりました……」
1号は自分も辛いからアンが悲しむ気持ちも分かるししかしアンの天使として任された仕事はちゃんとしようと思っているしニンが天使になった訳も察していた。
かくしてアンはあまりにショックで自室に引き篭もってしまった。
23/35. そうよ……パーティーで知り合った人達なら
そして自室に引き篭もってしまったアンはある事を思い付いた。
そうよ……パーティーで知り合った人達なら私の事を励ましてくれるんじゃないかしら……。
そう思ったアンはパーティーで知り合った人に慰めてほしくて励ましてほしくて人気者の陽キャの家から訪問していったのだが――。
「勇者だったら新しいの買っちゃいなよ。良かったら私の勇者貸してあげよっか?」
「いい……もう帰る……」
*アンはお金を持っていないのだがお金が有っても勇者を買い替えたり借りたりするつもりが無かった。* *また神が普通にお金を得るには働くか魂などの資源を貸すか売るしか無いのだがアンの様に初期状態で星を運営している神々も多くいて貧乏神でも普通の事だった。*――勇者の買い替えとレンタルを勧められたり――。
「勇者に毒入りのお酒を飲ませるなんて貴方馬鹿なの?最優秀賞って聞いたから期待してたのにそんなに無能だったなんて……もう帰って」
「分かった……もう帰る……」
――落胆されて馬鹿にされたり――。
「あんたティアラのお気に入りなんでしょ?だからそうねぇ。超イケメンの有能勇者を貸してあげるわよ。ただしその代わりあのババァの弱みを調べてきてちょうだい」
「要らない……やだ……もう帰る……」
――目当ては自分ではなくてティアラだったり――。
「そんな奴の事はもう忘れて俺と付き合えよ。俺が慰めてやろっか?」
「いい……もう帰る……」
――落ち込んでいる隙を狙ってなんぱされたりと散々で意気消沈ししかし帰りたい気分でもなかったから神々の共有の亜空間を行く当ても無く彷徨っていたのだが誰が告げ口したのかパーティーの時の自分の写真と共に「速報:直近の最優秀賞を受賞した女神アン、勇者を暗殺される。世界神政府の報道官は『捜査状況は公開出来ない』と間接的に肯定」と速報が流れてきて生き恥すら感じてきて――。
「もうやだ……」
――誰にも見られたくなくて公園を見つけると公園に入り噴水を見付けその傍のベンチに座った。
24/35.「」が出来たと思ってたのに……
友達が出来たと思ってたのに……ぐすん……。
アンは自分の辛さを話して知ってもらった事で多少はすっきりしたのだが友達だと思っていた人達が本当の友達ではなかったと思い知らされたり問題の根本は依然として解決していないし誰が告げ口したのか分からないが自分の醜態まで世間に知られてしまって恥ずかし過ぎるのも有ってどうしたら良いのか分からなかった。
何で私だけこんな目に……。
私だってこんなつもりじゃなかったのに……。
アンは1人で両手で涙を拭いながら泣いた。
そしてティアラはベンチで1人泣いているアンを見つけて――。
「アン、そんな所で何をしてるの?」
前に立つとしゃがみアンに話し掛けた。
「ま、ママ……?」
アンは声に聞き覚えが有ってティアラかと思って声の主が誰か知ろうとして見たり訊いた。
「そうよ。ママよ」
ティアラはアンに優しく返事した。
「ママ……私……友達に慰めて励ましてもらおうと思ってたくさん会いに行ったら本当は友達じゃなくてニュースにもなっちゃった……」
アンはティアラに今までの事を伝えようとした。
そしてティアラはアンの事を優しく抱き締めて――。
「アン、いつかアンの事を大事にしてくれて自分も相手の事を大事にしたくなる様な友達に出会えるしユウタさんとも再会出来るわ。だから元気出して♪」
――アンの頭を撫でながら未来に希望を持ってほしくて言った。
(まぁユウタさんを殺してくれそうな神々を集めたから皆優しくないのは当然の事だしユウタさんは私が必ず手に入れるからそんなに会いたいなら少しぐらいなら会わせてあげたって良いわ♡)
ティアラはアンの行動は想定外だったが「友達」が何なのか分かっただろうし良い経験になっただろうと思っていていずれにせよニュースになった事はライバルが増えるという意味で嫌だし凄惨な結婚式が出来なかったのは残念だったが不測の事態というのは付き物だと分かっているし手に入れる方法もちゃんと用意しているからおおむね順調だった。
「うん……ママ……ありがと……」
アンはティアラに抱き締め返して感謝した。
というのもアンはティアラの優しさに触れて未来に希望が持てて心が救われたのだった。
かくしてアンはユウタを失い悲劇に見舞われるもユウタを取り戻す為にも頑張っていく事になるのだった。
25/35.「どこ行ってたの!心配したよ!」
そしてユウタの魂は――。
「リーズ!いないと思ったらどこ行ってたの!心配したよ!」
女神ベアトリスは天使リーズを見つけると心配だったしちょっとだけ怒った。
「暗黒街にゃ!ごめんにゃ!でもなんか凄い魂手に入れたにゃ!」
リーズは暗黒街に買い出しに行ってたのだが謝るとテーブルに置いた。
「もう勝手に行かないでってあれ程……って……!凄く輝いてる……!綺麗……!」
ベアトリスはリーズの行動は自分の為にしてくれているのだと分かってはいるのだがいつも勝手に行動してしまうから心配だしと難儀していて叱ろうと思っていたのだが、それよりもリーズが手に入れてきたと言う魂があまりに輝いていて綺麗だから釘付けになってしまい覗き込んだ。
「そうにゃね!見た事無いぐらい光ってるにゃ!」
リーズも釘付けになっていて覗き込んだ。
というのもベアトリスもリーズもこれ程の魂は初めて見たのだった。
「ねぇ、これってもしかして勇者の魂?」
ベアトリスはこの無垢さからしてもしかしたら勇者の魂なのではないかと思った。
「そうにゃ。しかもアベなんとかっていう凄い勇者の魂かもらしいにゃ」
リーズはうろ覚えながら聞いた事を思い出す様に言った。
「誰それ。聞いた事無い」
ベアトリスは魔王が大好きで勇者は嫌いだから勇者の事は疎かった。
「私も聞いた事無いにゃ。でも凄い値が付いてたにゃ。SSSランク以上って言ってたにゃ」
リーズももちろん聞いた事が無かったし凄い値が付いてたのもSSSランク以上って言われてたのも本当の事だった。
「SSSランク以上って……じゃあ盗んできたって事?」
ベアトリスは「SSSランク以上」と聞いて自分達の予算では到底手が届く代物ではないと思ったし「凄い値が付いてた」と聞いてもしや盗んでしまったのではないか?と思った。
*SSSランクの勇者という事は神クラスの勇者という事でSSランクの魔王が相手でも勝負にならない程余裕で勝てるしSSSランクの魔神が相手でも互角というところなのだが「SSSランク以上」という事はそれ以上のランクかもしれないという事。*
*またSランクの勇者ですら一般的な神には人生で1回ぐらいの買い物で、SSランクの勇者ともなればもう高級レンタルの領域であり、SSSランクの勇者なんていうのは銀河帝国を統治しているレベルの神が数人持っているかどうかというレベルで、さらにSSSランク以上ともなればもうさらに次元が違う事だった。*
「違うにゃ。ちゃんと買ったにゃ」
リーズは確かにちゃんと買っていた。
26/35.「いくらで?」
「いくらで?」
ベアトリスはいくら使ったのか訊いた。
「2500ゴールドにゃ」
リーズは予算のほとんどを使っていた。
*2500ゴールドで原油を買う場合2500億バレルになり、地球の原油埋蔵量は1兆7546億バレルだが、2500億バレルは原油産出国世界1位のアメリカに相当する。つまり大陸レベルの量という事。*
*しかし魔法の世界では石油を使わなくてもどうにかなるし科学の世界での需要が多いから積極的に換金していける資源なのだった。*
「いやいやいや。そんな凄い勇者を2500ゴールドで買える訳が無いよね?偽物を掴まされたんじゃないの?」
暗黒街には偽物も出回っているしベアトリスはリーズが偽物を掴まされたのではないかと思った。
「そんなはず無いにゃ。露店じゃないにゃ。オークションで買ったにゃ」
リーズはちゃんとした所で買っていたし信じてほしかった。
「じゃあ誰のオークション?」
オークションにも色々有るしベアトリスは誰が主催しているオークションなのか知りたかった。
「アーベルにゃ!」
リーズは大手のちゃんとしたオークションで手に入れていた。
「え……でもアーベルのオークションって会員権が必要なんじゃないの?」
アーベルのオークションは高級品だけを扱っているから会員権が無ければ入れないしベアトリスは自分達とは無縁だと思っていた。
*高級なオークションではハイランクのあまり世には出回らない代物が欲しい宇宙国家の神々が落札している。*
「会員権じゃないにゃ!招待状にゃ!」
リーズが手に入れたのは招待状だった。
27/35.「ど、どうやって……!?」
「え……しょ、招待状……!?ど、どうやって……!?」
招待状とはオークション業者が特別な物を手に入れた時にその特別な物を手に入れるのに相応しい神々に会員権の有無を問わず贈られるものでしかも暗黒街のオークションだからトップシークレットで行われるものでリーズが普通のやり方で入手出来たとはとても思えなかった。
「それが先ず近くで潮風が効いた魚の良い匂いがしたにゃ」
リーズは嗅覚が鋭く魚の匂いに惹かれたのだった。
「そ、それで……?」
ベアトリスは話が見えなかったがとりあえず続きを聞く事にした。
「それでにゃ。アーベルの建物の前に人がいっぱいいたんにゃけど、その中にカトラス様がいたにゃ」
リーズは持ち前の嗅覚で海賊料理が好きなカトラスを見つけていた。
「え、カトラス様が暗黒街にいる訳が無いよ」
カトラスは魔法の世界の世界神でありベアトリス達がいる世界の世界神で武神や勝利の女神、正義の戦士として知られていて高い人気が有りベアトリスはそんなカトラスがそのイメージ的に悪党が集う暗黒街にカトラスがいたなんて信じられなかった。
「でもいたにゃ。本当にゃ。で、話し掛けてお願いしたら黙ってる代わりにってスタッフに掛け合って作ってくれたにゃ」
リーズはカトラスのおかげで招待状をゲットしていたのだった。
28/35.「あ!『』様にゃ!」
そしてこれはその時の事。
「あ!カトラス様にゃ!」
リーズはカトラスを見つけて声を掛けた。
「ちっ!ここでは名前を出すんじゃねぇよ!ルールってもんが有んだろ!あたしのここでの名前は『楽園最強の女戦士』だ!」
カトラスはお忍びで来ているというのに名前を呼ばれて不機嫌でリーズにルールを守れとと小声で言った。
「あ!ごめんにゃ!以後気を付けるにゃ!」
リーズは反省した。
「てかてめぇ誰だよ!」
カトラスはそもそもだが相手が誰なのか分からなかった。
「ベアトリス様の天使のリーズにゃ!」
リーズは名を名乗った。
(ベアトリス?リーズ?そんな名前の奴いっぱいいっかんなぁ……)
「てかお前も二つ名を名乗れよ!名前出すなよ!」
暗黒街は神々が羽目を外せる場所だから本名を出す事はルール違反だしカトラスは怒った。
「ごめんにゃ……」
リーズは素直だし落ち込んで謝罪した。
「まぁこれからは気を付けりゃ良いんだからよ……で、ここには何しに来たんだ?」
ティアラはリーズの事を慰めそして見た目的にもベアトリスという名前の女神とリーズという名前の天使の組み合わせの聞き覚え感的にも貴族とは思えずオークションに来ている訳では無いと思って理由を聞いた。
*神々の世界では世界神が王や皇帝といった君主で、宇宙国家の神々が貴族で、星神が平民や庶民という扱いだった。*
「勇者の魂を買いに来たにゃ!」
リーズはベアトリスが勇者の魂を欲しそうにしてたから買いに来たのだった。
「お!あたしもだぜ!ま、あたしの場合は買いに来たというよりは落札しに来たって感じだがな!」
カトラスはアベルの魂を落札しに来ていたのだった。
29/35.「私も入れてほしいにゃ!」
「オークションかにゃ?私も入れてほしいにゃ!」
リーズも良い勇者が欲しくて入れさせてほしかった。
「このオークションには招待状がねぇと入れねぇはずだが」
トップシークレットのオークションだしアーベルの性格からして招待客以外は絶対に入れないはずのオークションだからカトラスは招待状を持っていないリーズには入場は無理だと思っていた。
「お願いにゃ……!」
リーズにはカトラスが頼みの綱で目をうるうるとさせていた。
(おいおい、まじかよ……てかちっ、ティアラの気配まで近付いてきやがる。こんなけも耳泣かせてるとこ見られたくねぇしあたしがここに来てたってばらされるかもしれねぇ……!)
「しょうがねぇなぁ……1回だけだしその代わりあたしの事はお前の女神以外には黙ってろよ……?」
カトラスはけも耳を泣かせているところを誰にも見られたくなかったしまぁ上司の女神に報告されるのは仕方が無いとしても自分がここに来ている事をばらされたくなかったから1回だけは聞いてやろうと思った。
「分かってるにゃ!助かるにゃ!」
リーズは喜んだ。
「じゃ、早速――おい、あたしは『楽園最強の女戦士』。こいつにも招待状書け」
カトラスは招待状を確認しているスタッフに話し掛けた。
「『楽園最強の女戦士』様ですか……あ!はい!お客様を確認いたしました……!」
スタッフは名前で招待客の名簿を確認したが備考に「魔法の世界神」と書かれていて驚いた。
「じゃあ話ははえーよな?こいつにも招待状をやれ」
カトラスはスタッフにリーズ用の招待状を作らせようとした。
「それが私はあくまで接客係でして招待状は招待係が作成し送付していますので……」
接客の責任者だが招待状の仕事は所管外だった。
30/35.「さもねぇとぶっ飛ばす」
「じゃあその責任者に掛け合え。それかあたしが言ってるってアーベルにでも言え。さもねぇとぶっ飛ばすしがさ入れするぞ?」
カトラスは手間が掛かるのは苦手だからちゃっちゃとやってほしいしぶっ飛ばすぞ?とがさ入れするぞ?と脅したのだがカトラスの流儀として実力行使でぶっ飛ばす選択肢が有るしそれはもちろん殺さないだけましだと思っているのだがアーベル達は違法な事をしているのだから世界神のカトラスはいつでもがさ入れをする事が出来るしその事も念押しで言った。
「た、ただいま……!」
スタッフは恐怖し念話を始めた。
「大丈夫かにゃ……?」
リーズは心配でカトラスに訊いた。
「大丈夫だ。アーベルの野郎もあたしに殴られたくねぇだろうしな!わっはっは!」
カトラスには物理的にも権力的にも力が有るし上手くいく自信が有った。
「さすがカ、最強の女戦士様にゃ!」
リーズはカトラスを頼れるお姉さんだと思いつつカトラスと言いそうになったが耐えた。
「楽園最強な!」
カトラスは名前は間違えられたくなかった。
「楽園最強の女戦士様にゃ!」
リーズはカトラスのここでの二つ名を言い直した。
「そうだ!わっはっは!」
カトラスはよいしょが上手なリーズを気に入った。
31/35.「『』をお教えください」
「あ、お客様。直ちに招待状を作成するとの事ですが招待状にはお客様の二つ名と役職を記載する必要が有りまして貴方様の二つ名と役職、あるいは代理として出席する場合は貴方様の上司の神の二つ名と貴方の名前と貴方の役職をお教えください」
スタッフは招待状を作ると告げ名前と役職を訊いた。
「私の女神様の二つ名は『デーモンプリンセス』で、私の名前は『リーズ』。天使長にゃ」
リーズはスタッフからの質問に答えた。
「承知しました。――――お客様お待たせいたしました。こちらが紹介状になります」
スタッフはテレポートで贈られてきた紹介状を手に取りリーズに渡そうとした。
「これが招待状かにゃ!嬉しいにゃ!カ、楽園最強の女戦士様もありがとにゃ!」
リーズはスタッフから招待状を受け取り喜びうっかりカトラスの本名を言ってしまいそうになったが耐えて感謝した。
「おうよ!じゃあ早速それ持って行ってこい!」
カトラスは早速リーズに入場してほしかった。
「楽園最強の女戦士様は行かないのかにゃ?」
リーズはカトラスは来ないのかと気になった。
「あたしはダチを待ってっからな!」
カトラスは友達のティアラと待ち合わせをしていたのだ。
「分かったにゃ!恩に着るにゃ!」
リーズはカトラスがここに残る訳が分かり早速招待状を使って入場していったのだった。
32/35.「何(なに)か良い事でもしたの?」
「あら、貴方いつになく清々しい顔してるわね。何か良い事でもしたの?」
ティアラはカトラスに話し掛けた。
「うっせぇやい!てかおせぇよ!」
カトラスは照れたがティアラが遅かった事に怒りが込み上げてきた。
「なんか貴方誰かと喋ってるっぽかったし邪魔しちゃ悪いかなと思って」
ティアラはカトラスがついに社交界デビューしたのかなと思い遠慮していたのだった。
「んな訳ねーだろ!てかお前こそ何してたんだよ……お前暗殺ギルドにいたんだろ……?」
カトラスもティアラの気配には気付いていて暗殺ギルドにいる事は分かっていた。
「ちょっと手間賃の支払いをね」
ティアラは暗殺ギルドのマスター オスカルの仲介のもとアンリに報酬100万ゴールドの1割、10万ゴールドを支払っていたのだった。
*「確かに受け取りました。ヴイ」*
*失敗や先を越された場合は料金を支払う必要は無いのだが例え未達成だったとしても手間賃を贈るのは良客の証だった。*
「は~ん。暗殺失敗でこんなオークションなんかに来る羽目になったのに手間賃を払ってたんだな。随分と奇特なこった」
カトラスはティアラのお気に入りのアンの勇者が暗殺された事を知っているしそれがティアラが意図していない事も分かっていてティアラはずいぶんと奇特だなと思った。
「まぁ行くわよ」
ティアラはカトラスに言い当てられて不機嫌だったし気を取り直して早速入場していこうと思った。
「へいへい」
カトラスはティアラの図星を突けて良い気分になりつつティアラに付いていった。
33/35.「でも勇者の魂かぁ……」
「そう……でも勇者の魂かぁ……」
ベアトリスはリーズの言い分を信じ今度はリーズが落札してきた勇者の魂に目を向けた。
「そうにゃ。ベアトリス様は今度は勇者の魂が欲しいと言ってたにゃよ」
確かにベアトリスは勇者の魂が欲しいと言っていた。
「そうね。勇者の魂を使って魔王にするアイデアは話したけど」
ベアトリスは魔王が好きなのだが魔王の魂を買ってきて魔王を育成してもだいたい邪悪な存在になってしまって恋愛をするどころではなかったのだ。
そしてそんな時に勇者の魂を使って魔王に育成したら理想の魔王になるのではないかと思ったのだった。
「だから勇者の魂を買ってきたにゃ!今度こそ上手くいくにゃ!」
リーズはこの魂の輝きを見たら今度こそベアトリスが満足する魔王になると思っていた。
「そうだと良いけど……」
ベアトリスはそうなると良いなと思いつつも勇者にまつわる苦い記憶を思い出してしまった。
34/35.「我(わ)が名はディートハルト・アイゼンシュタット」
*「我が名はディートハルト・アイゼンシュタット。ヒューマン聖教会の勇者だ。ラウントリー教皇とヒューマン諸王の名のもとに、お前達を滅ぼしに来た」*
勇者ディートハルトは魔王城の魔王の間で宣言し剣を抜いた。
*「どうして!どうしてその様な事をなさるのですか!」*
魔王の娘ベアトリスはディートハルトに大義を問うた。
*「お前達魔族は邪悪な存在で有害。もっと言えば我々の世界には必要無いからだ。全員死ねべきなのだ」*
勇者ディートハルトは魔族に対しては聞く耳を持たず説得が通じなくて戦ったが空しく敗れついに魔族は奴隷を残し絶滅してしまった。
そして魔族が滅ぶと今度はヒューマンの怒りは亜人達に向かい、亜人の国々は瞬く間に滅ぼされ集落は焼かれ抵抗する者は皆殺され生き残った者達は奴隷になってしまったのだった。
そしてベアトリスは戦場になり焼け落ち荒廃した都市にやってきて――。
*(あまりに惨い……)*
――その都市の中を歩いていると――。
*「おきゃー!おぎゃー!」*
赤子の泣き声が聞こえてきてそこに近付くと――。*「あ……」*
――そこには倒れている成人の獣人の側に獣人の赤子が無地に包まれて泣いていて――。
*「私のせいです……ごめんなさい……」*
――ヒューマン陣営を制御出来ずそのうえ魔族が負けてしまったなどという女神としての至らなさからくる罪悪感も有り自分が引き取り育てる事を決意すると抱き抱え――。
*「おきゃー!おぎゃー!」*
そして泣く赤子の生地をよく見てみると――。
*「貴方の名前は『リーズ』なのね」*
――リーズと書かかれているのを見付けた。
*ベアトリスは最初はヒューマンの王女やエルフの王女、獣人の王女プレイも好きだったのだがヒューマンの教皇や諸王達から「なぜ女神は魔族の心配をするのか?」とヒューマン至上主義を後押しする様言われたのだがそれに異を唱えると邪神認定され聞く耳を持ってくれなくなりヒューマン陣営に対抗する為魔王の魂を買ってきたのだがその魔王はヒューマンから向けられる憎しみに立ち向かい応酬がエスカレートしてしまい、ただヒューマン陣営があまりに酷くてヒューマンが嫌いになり、魔族への哀れみの気持ちから魔族を愛しいつしか自分を愛してくれる理想の魔王に出会うべく魔王コレクターになっていたのだった。*
*ちなみにベアトリスは直接主義者ではないから神が勇者に任せる様な感じの統治方法で出来る限り中立であるべきだと思っていてどの陣営にも肩入れしてはいけないと思っていて神自ら戦ってはいけないと思っているし実際戦わないからその罪悪感も有った。*
35/35.「どうしたにゃ……?」
「ベアトリス様……!どうしたにゃ……?まだ信じてくれてないにゃ……?」
リーズはベアトリスが上の空になっている様だったから心配して訊いた。
「ううん。ちょっと昔の事を思い出してただけ」
ベアトリスにとっては自分の原点にしてショックな事で忘れたくても忘れられない出来事だった。
「失敗は忘れるにゃ。挑戦あるのみにゃ」
リーズは前向きだった。
「うん。そうだね。挑戦していこう」
ベアトリスはリーズに励まされ目元の涙を指で拭った。
「で、次は何するにゃ?」
リーズはベアトリスに次何をしたいのか訊いた。
「そうね~私はもちろん魔王の娘だけど、私の護衛の騎士にしちゃおうかな」
ベアトリスは自分が魔王の娘になる事は絶対としてそれを軸に自分がときめく関わり方を考えた。
「了解にゃ!じゃあ準備してくるにゃ!」
リーズはまた勝手に飛び出していってしまった。
「もうリーズったら……でもまぁ……よろしくね、ア、なんとか君」
ベアトリスはいつもの様にリーズに呆れつつもリーズが落札してきた光り輝く魂を見つめて希望を持ち微笑み容器を撫でながら挨拶したのだった。
後書き
主人公の魂は魔王の世界の女神の手に渡ってしまいました。
まぁ勇者の魂が欲しい神がいれば魔王の魂が欲しい神もいるんです。
もちろん勇者の魂でも魔族の肉体を与えて適切に導けば魔王にもなれます。
つまり導き方次第でSSランクの勇者でもSSランクの魔王になれるんです。
それにしても「文明を発展させたくない」という思考は理解し難いと思いますが例えば「中世が好き」とか「古代が好き」とか神々にも文明レベルの好みが有るものなのです。
まぁ地上に住む人からすればそういう神の個人的な趣味に付き合わされるのは大変な事だとは思いますが(汗)
ちなみにアンが一番好きな文明レベルは贅沢の限りを尽くしたい性格を鑑みれば「未来」に思えますが機械音痴で電子機器に疎く人口や活動域といったスケールが大きくなり過ぎると「人がたくさんい過ぎて訳が分かんないわよ!」や「『銀河連邦』って何なのよ!スケールが大き過ぎよ!」と4000億の星系を持ち直径が約10万光年も有るこの天の川銀河1つでさえそのスケールの大きさに頭がこんがらがってしまうので「星系以内」、つまり「太陽系以内」が好きだったりします。
それにもちろん「太陽系以内」の文明レベルであっても贅沢が出来なければアンからすれば全く話にならないのでアンの理想の文明レベルは「スマホ」以上「太陽系以内」という訳です。
まぁスケールが壮大過ぎてついていけない宇宙が苦手なアンですが一度でも宇宙の贅沢を味わわせてやれば「考えが変わったわ!宇宙最高ね!」ところっと寝返ってしまうのがアンという奴なのです。
それにしても第1節をお読みいただきありがとうございました。
今節では第1話を基準にその前後の主人公以外の視点や何故そうなったのかといった解説を入れましたがそういうストーリーの土台や根拠まできちんと描写するのが私のスタイルです。
当初は第1話(第1節第1話)第2話(第2節第1話)第3話(第3節第1話)という様にてきぱきと書いていたのですがそれでは何だか薄い様な気がしてきちんと何故そうなったのかを描写しようと思い現在のスタイルに切り替えました。
つまり従来の1話が1節になるという12話や25話という節レベルのスケールに膨らんだという感じです。
そして私から言える事は……とりあえず聖女が登場する第5節の第1話まで頑張ってくださいという事です!(笑)