[R18] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 11話 科学の世界神 アベル(ティアラ視点)
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R18
第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)
第 11 / 12 話
約 26,500 字 – 33 場面 (各平均 約 800 字)
1/33.*「落ち着いたら『』しようね」*
これはユウタとアンがデートしていた時の事。
*「僕もアンの事が大好きだよ。うん、そうだね。落ち着いたら結婚しようね」*
*「愛してるわ!ユウタ!」*
昔の私とアベルを思い出してしまうわ……。
かくしてティアナはアンがユウタとデートしている様子を見ていてふと過去の似た様な光景を思い出した。
そしてこれはティアラがまだ星神で勇者のアベルと見つめ合って愛を語り合っていた時の事。
「愛しているよ、ティアラ」
アベルはティアラを見つめながら愛を伝えた。
「私も愛してるわ!アベル!」
かくしてティアラもアベルを見つめながら愛を伝えた。
そして時は戻りティアラは――。
そんな頃が有ったわね……。
懐かしみ――。
――かくしてティアラは重ねた唇を思い出す様に自分の親指寄りの手の甲にキスした。
2/33.「『』級クエストが有るんだって!」
そしてこれはティアラが世界神になる為にアベルにクエストを紹介した時の事。
「ねぇアベル!SSSSS邪神級クエストが有るんだって!」
……。
ティアラはつい先程知ったばかりのクエストの事をユウタに話した。
あの時の私の考えは本当に甘かったわ……。
私はアベルの為を思って提案しただけだったのよ……。
いや、私は欲に目が眩んでしまってたのね……。
*「邪神」とは聖教会などが認定する「邪悪な神」の事なのだがこの場合は神々の世界の話だから「神の道を外れた神」で「逮捕し収監するか討伐するべき神」の事。*
*またSランクがヒューマン種族の一般的な最高到達点で勇者級や普通の魔王級で、SSランクが神の領域に片足を突っ込んでいる領域で1000年に1人現れるかどうかの勇者や魔王のランクで、SSSランクが神の領域であり魔王が魔神に達したランクで、SSSSランクが銀河クラスに強力な神、SSSSSランクが宇宙クラスに強力な神の事。つまりSSSSS邪神級クエストとはSSSSSランクの邪神認定された世界神を討伐するクーデタークエストの事だった。*
「今度はそれを僕にこなしてほしいのかい?」
……。
アベルはティアラが次々に持ってくる魔王や魔神討伐クエスト、救世クエストなどをこなし続けていて、今回ティアラが持ってきた世界神ヴェルトフリード討伐のクエストを断るつもりは無いがティアラに覚悟を訊いた。
「ええ!そうなの!してくれるかしら?」
……。
ティアラはユウタなら出来ると思っていたし引き受けてほしかった。
「もちろんだよ、ティアラ」
……。
アベルは何ら躊躇も無く引き受けた。
「じゃあ任せたわよ!」
……。
ティアラはもう報酬を手に入れる間近の様な気でいた。
3/33.「『』に何かメリットが有るのかい?」
「でもそんな大変そうなクエストをこなしてティアラに何かメリットが有るのかい?」
……。
アベルは世界神ヴェルトフリードと戦う事が世界神派と革新派に分かれて世界を二分する本当の意味での「世界大戦」になる事が分かっていてそれをするだけのメリットがティアラに有るのか訊いた。
「ええ!それがクリア出来たら色々願いが叶うし私が世界神になれるんだって!」
……。
ティアラはアベルのおかげで自分の星が平定し世界政府すら出来て最優秀新人賞を受賞した事に始まり銀河中を掌握し銀河帝国まで造り子飼いや客、知り合い、友達の神に勇者アベルをレンタルする事で大金を稼いでいて野心が留まるところを知らずその矢先にSSSSS邪神級クエスト、つまり世界神討伐クエストが有る事を知りその報酬に目が眩んでしまっていた。
*この時の新人賞は「最優秀賞」と「優秀賞」しか無くそれも「国際連合」の様な組織が出来てやっと賞の審査が始まるという長さで戦争や犯罪による死者の数や虐殺の回数などは考慮されず「素早さ」や「華麗さ」、「プロフェッショナル性」が重視されているしそれが世界神ヴェルトフリードの考えだった。*
*また死者の数が考慮されないのは普通は人々は死を恐れものだが神々からすれば魂はずっと再利用され続けると知っているからで世界神ヴェルトフリードからすれば死や生などどうでも良かったからだった。*
「それは良い事だね。ならティアラのために頑張るよ」
……。
アベルは世界神が世界中でスタンピード(ダンジョンの魔獣暴走)や大飢饉、邪神達への支援、地上でも宇宙でも戦争が起こる様に裏から糸を引いている事に勘付いていたしそれでティアラが喜ぶのならと頑張るつもりだった。
「ええ♡頑張ってね♡ちゅっ♡」
……。
ティアラはアベルの頬にキスした。
かくしてティアラはアベルにSSSSS邪神級クエストという世界で最高難易度の「世界神殺し」のクエストを与えてしまったのだった。
そして現在のティアラは再びいつもの様に回想した。
S5ランクの邪神級クエストなんて……今考えても普通におかしいわ……何で気付けなかったのよ……。
その頃のティアラはランクの事がよく分かっていなかったし「どこぞの強化邪神を倒す」ぐらいにしか考えていなかった。
まさかその邪神が世界神の事だったなんて……あの頃の私は知らなかったのよ……。
でもアベルは見事に世界神を倒してくれたわ……でもアベルは……身も心も壊れてしまったのよ……。
かくしてティアラは激しく後悔しながらアベルの最期を回想していった。
4/33.「このまま『』せてほしい……」
そしてこれはアベルが世界神を倒した直後の事。
「このまま死なせてほしい……」
……。
アベルは瀕死の重傷を負っているし罪の意識から死にたかった。
というのもアベルは本性を現した世界神ヴェルトフリードとの戦いで「降参しなかったから人質を殺す」などと言って人々を残虐に殺されたり、それを見せられ続け、「お前のせいでこうなった」などと責められ続けた事で生きる気力を失ってしまっていた。
またそれが人の心を持つ勇者の弱点で、世界神ヴェルトフリードは人の心を持たなかったがそれ以外はむしろ神としては複数の宇宙を統べる多元宇宙神やその上位の存在を除いて実務能力、戦闘力共に「完璧な存在」だった。
「駄目よ……!絶対死なせないわ……!」
……。
アベルは横たわって血反吐を吐いていてティアラは必死にヒールを掛けていたが――。
5/33.「どんな『』を造りたいのかい?」
「それより結局ティアラは世界神になったらどんな世界を造りたいのかい?」
……。
――アベルはそのティアラの手に自分の手を重ねる様にしてヒールを妨害しティアラと会話しようとした。
「私が絶対助けてあげるから……!」
……。
ティアラは何としてでもアベルを助けようとするが――。
「もういいから。教えてくれるかい?」
……。
――アベルはもう助けてほしくなかった。
「私なら……魔法もスキルも無くて……種族もヒューマンだけで……ステータスも上限が有って……命が尊ばれる平等で幸せな世界を造るわ……!」
……。
ティアラは号泣しながら必死に声を出しアベルに自分が造る世界の事を話した。
私は昔アベルに約束した「命が尊ばれる平等で幸せな世界」を作る事が出来たかしら……。
ティアラは世界神ヴェルトフリードの思想とは真逆の世界を造ったが自分がアベルとの約束を果たせているかは自信が無かった。
「それは夢の様で幸せな世界だね……」
アベルにとってそれは夢の様に幸せな世界に思えた。
「それ以上無理に喋らないで……今ヒールしてあげるから手をどかして……」
ティアラは一刻も早くアベルを治癒したかったのだがアベルは手をどけてくれなかった。
「もういいんだティアラ……僕はもう疲れたんだ……」
アベルの決意は変わらなかった。
「そんな事言わないでよ……どうしよプリシラ……このままじゃ……」
ティアラはプリシラに助けを求めた。
6/33.「わたくしが『』しますわ」
「貴方は世界神になられるのでございますので、わたくしが止めを刺しますわ。だから貴方は外に出ていてくださいまし。ただしこの事はご内密に。そして皆様に相討ちのご報告をお願い申し上げますわ」
プリシラはティアラに勇者殺しの汚名を着せる訳にはいかないしアベルの名誉の為にも自殺ではなく相討ちという事にして自分が止めを刺す役を買って出た。
*神族の寿命はほぼ無限だから共に歩むパートナーである勇者には自死を選ばないメンタルの強さが求められていて女神からの救いを断るのは評価が下がる行為だった。*
*またアベルは人々を楽園に導くという最高ランクの「楽園級の勇者」でありアベルの活躍が描かれた絵本や小説である「勇者アベル物語」が神々の間で大流行しているからプリシラは尚更最愛のアベルの最期に泥を塗りたくはなかった。*
「分かったわ……ごめんなさいアベル……」
アベルを見殺しにする事も止めを刺す事も出来なかったティアラは汚れ仕事をプリシラに託して最後にアベルにキスし――。
「こちらこそごめんね、ティアラ……今までありがとう……」
――アベルはティアラに謝罪し感謝し――。
「こちらこそありがとうよ……!またすぐに会えるわ……!」
――ティアラも感謝して最後に一言残し――。
「そうだね……またね……」
――そしてアベルはティアラに別れの挨拶をし――。
「ええ……!」
ティアラはこれは別れではなく新しい門出なのだという気持ちで最後にアベルに微笑み掛けるとその場を後にした。
というのも通常人の魂は死後肉体を離れその魂を所有している神のストレージに自動的に帰っていくからティアラもプリシラもまたすぐに会えると思っていたのだが――。
――アベルの魂はティアラのストレージに帰ってこなかったのだった。
プリシラに汚れ仕事を任せてしまうなんて本当に私は最低な女神ね……。
でもあの時の私はどうしたら良かったの……。
そもそも私は何で世界神になろうだなんて思っちゃったの……。
何でアベルを止められなかったの……。
何で収納にアベルの魂が無かったの……。
アベルはどこへ行っちゃったの……。
かくしてティアラは再び心の傷に触れアベルの事が無性に恋しくなった。
7/33.(これで良し♪)
そしてティアラはアベルの生き写しの様なユウタに会うべくるんるん気分でユウタの国に降り立っても違和感が無い衣服に着替え冠であるティアラを被りその上からフードを被って顔も変えて――。
(これで良し♪)
――鏡を見て自分の姿を把握し満足しユウタがいる国の側にテレポートし来客として入国しユウタがいる建物の戸の横に立っている衛兵に――。
「ちょっとここにいる人に会いたいの。良いかしら?」
――話し掛けた。
「会いたい人の名前は何ですか?」
エルルはこの建物には王のユウタだけでなく秘書のニンや顧問のアン、またその護衛も出入りしているから具体的に誰に会いたいのか把握したかった。
「ユウタさんよ」
今この建物にはユウタしかいないはずだった。
「要件は何ですか?」
要件を訊いた。
「人探しをしているの。それで彼に会って訊きたい事が有るの」
ティアラは素直に要件を話した。
「誰を探しているんですか?」
エルルは誰を探しているのか訊いた。
というのも大人か子供かによって雇用斡旋所や学校、孤児院など行き先が変わるからだ。
「夫よ」
ティアラは夫を探していた。
「なら向こうに有る雇用斡旋所に行くと良いですよ。そこで訊けば何か分かるかもしれません」
エルルは雇用斡旋所が有る方を指差し助言した。
8/33.「お願い。彼に訊かせて」
「お願い。彼に訊かせて。でも2人だけで」
ティアラ視点雇用斡旋所に行けばアベルが見つかるとは思っていないしユウタに探りを入れたいからおいそれと引く訳にはいかなかった。
「面識は有りますか?」
エルルはユウタと会った事が有るのか知りたかった。
「有るかどうかは分からないわ」
ティアラ視点どちらとも言えなかった。
何故ならユウタ自体とは会った事が無いのだがもしユウタがアベルだったら面識が有ると言えるからだった。
「そうですか。それでは身分証を確認させてほしいです」
エルルは1号のもとで仕事力を磨き2号のもとで訓練を積んだ彼女達に次ぐ最強格の天使達の1人でその2人の推薦でユウタの衛兵になった程だから身分証の確認も逃げられても良い様にある程度情報を聞き出してからにしていたのだった。
「これで良いかしら?」
ティアラは来客者に渡される木の札を見せた。
「身分証は確認しました。ちなみに名前と職業は何ですか?」
エルルは名前と職業も訊いた。
「私の仕事はとある領域の統率者よ。でも名前は秘密のままで良いかしら?」
ティアラは嘘は吐かないし言いたくない事は秘密にする質だった。
「……隊長に伺います」
エルルは次に許可を取る為――。
「どうぞ♪」
ティアラは微笑んだ。
「隊長。客人です」
――隊長のイリシュを呼んだ。
ちなみに念話出来るのだが声が届く距離だし万が一の事を考えアナログでしている。
(お、客人か。誰だろう)
ユウタは事務作業をしていたが顔を上げた。
「行ってまいります」
イリシュはユウタに一言言っておこうと思った。
「行ってらっしゃい」
ユウタはイリシュを送り出した。
9/33.「何用だ?」
そしてイリシュは戸を開け――。
「客人が何用だ?」
――状況を把握しようとした。
「隊長。とある領域の統率者を名乗る客人のこの女性は夫を探していて陛下に直接訊きたい事が有るそうです。それも2人きりで。名前は秘密。面識が有るかは分からないそうです」*
エルルはイリシュに報告した。
「そうか……陛下に確認する。それまで待て」*
イリシュはユウタに判断してもらおうとした。
「はいどうぞ♪いくらでも待つわ♪」*
ティアラは本当にいくらでも待つつもりだった。
「陛下、匿名で面識が有るかは分からない夫を探しているとある領域の統率者を名乗る客人の女性が2人だけで貴方様に直接会って訊きたい事が有るそうですがいかがなさりますか?」*
イリシュはユウタにどうするか訊いた。
「良いですよ。ぜひ会わせてほしいです」
ユウタはイリシュの正体が天使な事を知っているし人助けになるのならと応じるつもりだった。
「しかし2人だけというのはさすがに……護衛は付けるべきかと存じます」
客人の女性が暗殺者の可能性が有るしイリシュとしてはユウタの護衛なのだから護衛対象からは一瞬たりとも目を離したくなかった。
「それじゃあ客人の身体検査をして武器などの危険物を取り除いたらノックしてほしいです。そしたら私が出向きますから。そしてイリシュさんとエルルさんはドアの前で待機していてほしいです。そして私が客人と会っている最中に万が一の事が有れば大きな声で呼ぶか大きな音を出しますから。そして第三の安全策としてイリシュさんもエルルさんも定期的に中を確認する、という事でどうですか??」
武器になりそうな物などを取り除いておけば万が一相手が襲ってきたとしても叫んでイリシュとエルルを呼ぶぐらいの事は出来るだろうと思っていた。
「畏まりました」
イリシュはユウタが言った事に逆らえないしユウタが死ぬ様な事が有れば暗殺者を殺した後自決して責任を取るつもりだったしエルルのもとに向かった。
10/33.「『』がお会いになるそうだ」
「陛下がお会いになるそうだ。しかし身体検査をする」
イリシュは会える事を告げ身体検査しようとした。
「やった。嬉しいわぁ。どうぞ身体検査してちょうだい」
ティアラは喜びながら両腕を左右に伸ばした。
「武器は持っているか?持っているなら預かる」
イリシュはティアラの身体を衣服の上から調べながら武器の有無を確認しもし持っているなら預かろうとした。
「手には持ってないし服にも隠し持ってないわ」
(まぁ魔力で作れるし空間収納からも出せるけど)
ティアラはこれまた嘘は吐いてはいなかった。
「そうか。まぁいい。陛下の命令で私達はここで待機しているし時々中を覗くからな。何か有れば呼べ」
とある領域の統率者を名乗る女性に無礼を働けば外交問題に発展してしまう可能性が有ったがイリシュはユウタにしか敬語を使うつもりが無かった。
まぁそもそもイリシュは女神アンの天使なのだがアンは酷い事に2号以降は番号すら覚えていないから「あんた」呼ばわりでありイリシュ達も例外ではなく毎日18時間しかも無給で働かされていて労いの言葉を1つも貰えた事が無かったのだがユウタは名前で呼んでくれるし敬語で接してくれるし労いや感謝の言葉もくれるしでユウタの事を心底主として認めていた。
「そう。で、身体検査は終わったかしら?」
ティアラはイリシュに身体検査が終わったか訊いた。
「終わったが最後にいくつか質問だ。そもそもここまでどうやって来た?いつ来た?」
イリシュは質問を続けた。
「さっき来たのよ。普通に。案内所の人が覚えてるはずよ」
神々にとってはテレポートは普通だしこれまた嘘は吐いてはいなかった。
「じゃあとある領域の統率者だそうだが1人で来たのか?連れはいるのか?」
高位の人物なら同行者がいるはずだった。
「いないわ。だってお忍びで来たんだもの。秘密なの」
これまた嘘ではなかった。
「そうか。しかしくれぐれもうちの王に無礼な真似はするなよ?」
疑惑は晴れてはいなかったがユウタを待たせ続ける訳にはいかなかったし通そうと思っていたが最後に大事な事を伝えておきたかった。
というのもイリシュは王であるユウタが無礼を働かれたりするのが嫌だったのだ。
「もちろんそのつもりよ♪」
まぁティアラはそう言いつつもユウタがアベルではないと確信したら即帰るつもりだった。
「そうか。――陛下、身体検査が終わりました」
疑惑は晴れてはいなかったがユウタを待たせ続ける訳にはいかなかったし通さざるを得なくてノックをしてユウタに報告した。
11/33.「それではお入(はい)りください」
「お待たせしました。それではどうぞ中へお入りください」
ユウタは戸を開けると招き入れようとした。
「ふふ♡それじゃあ遠慮無く入るとするわ♪」
かくしてティアラは戸が開く前に顔を元に戻していて戸が開きユウタに導かれればお言葉に甘えて中へと入っていった。
*イリシュはユウタの警護には秘書もメイドも出来る警護として1号と2号による指名で抜擢されたのだがユウタの秘書と家事はニンがしているしニンがいる時は時にはサポートしニンがいない時はその代わりを担ったりしつつも護衛に徹している。*
*また1号は商人ギルドのマスター、2号は戦士ギルドのマスター、そしてイリシュは衛兵ギルドのマスターをしていてユウタの警護と兼務している。*
*またイリシュはユウタからずっと暇だろうし立たせていて申し訳が無いと机と椅子を貰いユウタの側で衛兵ギルドのマスターとしての仕事を全うしながらユウタの護衛を兼ねられる様にしてもらっていた。*
*またこの国でのアンの天使達の内訳としてはユウタとアンとニンが同居している家の警備で偶数日と奇数日、午前と午後のローテーションで衛兵4人、そのローテーションで同様に仕事場の建物の警備で衛兵4人、またユウタに護衛の衛兵が4人、アンとニンにも4人ずつ、また衛兵ギルドの本部に4人と巡回担当の4人がいて衛兵が総勢28人はいた。*
*また戦士ギルドや商人ギルドなど各ギルドにも紛れ込んでいてローテーションと衛兵についてはユウタの案によるものだった。*
12/33.*「あいつ『』だと思うか?」*
そしてイリシュは戸の横でエルルとは反対に立ち――。
*「あいつ暗殺者だと思うか?」*
イリシュは戸の横でエルルとは反対に立ち暇潰しにと念話で話し掛けてみた。
(ユウタさんに集中したいから雑音は消去よ)
ティアラは念話を盗聴出来るのだが邪魔だと思い遮断した。
*「分からないです。最初は夫を探す未亡人かと思いましたが、職業を訊いたら統率者と言っていましたから女族長か族長夫人の線も有るかと」*
エルルは自分の推理を話した。
*「そうだな。しかし今日も匿名が来たな」*
匿名の客人がユウタに会いに来たのはこれが初めての事ではなかった。
*「そうですね。でも前回の人は見つかったんですか?」*
それはエルルが非番の時の出来事でその客人を見失った事は聞いていた。
*「接触はしたがその後の足取りは掴めていないし何者かも分からないままだ。この科学の世界で我々の追跡を撒けるなど只者ではない」*
イリシュにとっては初めての出来事でユウタの護衛や衛兵の責任者としては屈辱的だった。
*「じゃあやっぱり1号様か2号様の隠し部隊か何かでしょうか。我々にも秘密の暗号を伝えに来たとか、先程の女性の場合は大事な情報を届けに来た特使だったり」*
エルルはスパイものが好きで前回の客人を1号か2号直属の特別エージェント、今回の客人はそれとは関係無いが外交関連でどちらの陣営に付いているかは分からないがこれまた特使かスパイなのではないかと思ったのだった。
*「陛下は前回の女とは他愛も無い話をしていくつか質問をされただけだと言っていたが、何かを探られている様な気がするとも言っていた。まぁいずれにせよ我々は陛下をお守りするだけだ」*
イリシュはエルルに自分が知っている限りの情報を話しそして自分の仕事に集中してもらおうとした。
*「そうでしたか。そうですね。陛下をお守りしましょう」*
エルルも自分の仕事に集中しようと思った。
13/33.*「初めまして。『』と申します」*
「初めまして。私はこの国の王のユウタと申します。どうぞお見知り置きください」
ユウタは早速自己紹介した。
「こちらこそ初めましてね。私は遠くから来た者よ。ところで貴方の事は「ユウタさん」って呼んでも良いかしら?」
ティアラは名を名乗らなかったが嘘は吐かない様にしつつユウタの事はモニターを通して大体の事は知っているのだが初対面の体で呼び方を提案した。
「はい。どうぞその様に呼んでください。しかし王だと言っておきながら屋内も質素ですみません」
ユウタはこの建物の大きさも内装も外装も何もかもが名前負けしている事を自覚していて謝った。
「大丈夫。今建国中なんでしょ?それに逆に好感が持てるわ」
ティアラはユウタの事情を知っているしそれに質素なのはこの時代的に仕方が無いと理解しているし贅沢な程特別扱いをしていてそれが搾取の証だという事も理解しているし質素な方がむしろ印象が良かった。
「お気遣い痛み入ります。それではあの執務机の後ろの私の椅子とあの装飾がされている椅子とその向かいの椅子以外ならどれでもお掛けください」
ユウタとしては自分とアンとニンの椅子以外ならどこに座られても良かった。
「なら私は――この椅子にするわ」
(衛兵に背を向けられるし何よりアベルが好きだったもの。執務机の前の椅子は)
ティアラはユウタの執務机の前の椅子に手を掛けた。
(それは助かる)
「承知しました。どうぞお掛けください」
ユウタとしては1対1だし初対面だし国民照会という公務が絡んでいるし自分自身が執務椅子に座りながら対応するのが気に入っているから客人が机の前の応接椅子に座ってくれるのが何よりだった。
「分かったわ♪」
ティアラは嬉しそうに座った。
14/33.「もし宜しければどうぞ」
「こちらは水と果物です。もし宜しければどうぞ」
ユウタは出し物として水と果物を出した。
もちろんこれには相手が空腹かもしれないから食べ物を振る舞いたいという思いも有った。
「あら、ありがとう♪でも私一人じゃ食べ切れないわ……だから一緒に食べてくれる?」
ティアラとしては一緒に食べて仲良くなりたかった。
ちなみにティアラはアンには亜空間で部下に対応させていてニンにはまた別の部下が外へ連れ出しているからユウタと会って話す時間はある程度作れている。
「1人では食べきれないのでしたら手伝わせてください」
ユウタとしてはそれくらいの事なら余裕で手伝えるしもちろん引き受けた。
「嬉しいわ♡――ん!美味しい!」
ティアラは果物を1口食べてみたら思っていたよりも美味しくて驚いた。
「美味しいですよね。私は好きです」
貴重な甘味だし貴重な食料でもあるから体に何らかの反応が出ない限りは嫌いな者の方が少なかった。
「私も好きよ。じゃ、ユウタさんもあーん」
ティアラはユウタにあーんしようとした。
「ありがとうございます。――美味しいです」
ユウタは照れながらもあーんされてもぐもぐと食した。
「ふふ♡じゃあこれも――どうぞ♡」
ティアラはコップの水を1口飲むとユウタにも飲ませてあげようとした。
(んー)
ユウタはさすがに同じ容器の飲み物を共有するのは申し訳無くて抵抗が有った。
それにそもそも飲み物なら1人で飲める量だと思うし手伝う必要は無いと思っていたのだ。
「あらごめんなさい。でも別に深い意味は無いのよ」
(やっぱりアベルに似てるわ……)
アベルはラッキーすけべにも勇者の精神で抵抗していたしもしユウタがティアラのコップの水を飲んでいたらティアラは即帰宅していた。
というかティアラは常にユウタの言動を試していて少しでも「アベルじゃない」と思う様な事が有れば即帰宅するつもりでいた。
15/33.「ぜひ『』させてください」
「お気遣いありがとうございます。それでは本題ですが護衛から貴方様が夫をお探ししていると伺いました。私で宜しければぜひ人探しに協力させてください」
ユウタは本題に入り協力を申し出た。
「あら、丁寧にありがとう♪手伝ってくれるなんて嬉しいわ♪」
ティアラは相手が自ら協力を申し出てくれて嬉しかった。
「困っている人を助けるのは当然の事ですので。それでは貴方様がお探しの夫について名前や背丈、特徴、その他の情報などをお教えください」
ユウタは探す為に必要な情報を収集したかった。
「困っている人を助けるのは当然の事ですので。それでは貴方様がお探しの夫について名前や背丈、特徴、その他の情報などをお教えください」
ユウタは探す為に必要な情報を収集したかった。
「『アベル』という名なのだけど、心当たりは有るかしら?」
ティアラは『アベル』の名を出した。
(「アベル」かぁ……んー。んー。んー……!)
ユウタは何となく心当たりがある様な気がして思い出そうと頑張り出てきそうかと思ったが結局出てこなくて――。
「すみません。その方の名前は存じ上げませんが特徴など他にも情報が有りましたら教えてください」
――謝り追加の情報を求めた。
(やっぱりそうよね……)
ティアラはアベルを探偵ギルドに科学の世界のみならず宇宙中を隅々まで探し回らせているのだがそれでも見つからない程で類似の人物が見つかる度にアベルかどうかを確認する為会いに行っていて今回もやっぱり駄目か……と落ち込んでしまったのだが、ティアラは今回だけは妙に当たりの気がしていた。
「ユウタさんは謝らなくていいの。ユウタさんのせいじゃないもの。でもそうね。特徴を言えば、彼とっても優しいの。頭も良くて、強敵も難無く倒しちゃったりしてね」
ティアラはユウタに懐かしむ様にアベルの事を話した。
「それは素晴らしいですね。だから貴方の様な美人の女性を射止める事が出来たのですね」
ユウタはその人の様になりたいなぁと思った。
16/33.「私ってそんなに『』かしら?」
「ふふ♡私ってそんなに美人かしら?よく見てみて」
ティアラはユウタに自分の顔をよく見てもらおうとして被り物を脱いだ。
「美人ですよ。とても。その被り物も素敵ですね」
(名前は分からないけれど世の中にはこれ程の美人がいるものなんだなぁ。それにす、凄まじい冠……!)
女神と言われても信じてしまう程にとても美人でユウタは感慨深く感じたがそれに何より被っている凄まじい冠を見てどこかの王族なのではないかと思った。
「あら♡嬉しいわ♡これはその彼に貰った物なの♡それにそうね、私の名前は何だと思う?」
ティアラはいつも類似の人材にしている様にユウタに自分の名前を訊いてみた。
(えー!ノーヒントでいきなり名前を当てるクイズかぁ)
「駄目で元々ですが頑張ってみますね」
ユウタはもちろんクイズに乗った。
「ええ、私の顔や体をよーく見て考えてね♪」
ティアラはユウタに名前を当ててほしかったしユウタがアベルの生まれ変わりなら良いと思っていた。
「はい。そうですねー、貴方様のお名前は……」
ユウタは必死に考えたがノーヒントでは中々思い付かなくて――。
「ゆっくりで大丈夫よ」
ティアラは時間が掛かっても良いから「ティアラ」と答えてほしかった。
「はい。でもなるべく早くで頑張ります」
――もはや本当の名前を言い当てる事は諦め相手の機嫌を損ねずかつ機嫌が良くなり相手が貰えて喜べる素敵な名前を考えようと思っていた。
「ふふ♡」
ティアラは自分の名前を頑張ってなるべく早く言い当ててくれようとしているから嬉しくてユウタに微笑んだ。
「それでは言わせていただきます」
しばらくしてユウタは覚悟を決めた。
「はい、どうぞ」
ティアラは楽しみにしていたが一方で言い間違えられる事も恐れていた。
「その前に質問なのですがその冠は何て言うんですか?」
ユウタはティアラが被っている冠の名称が何なのか気になった。
「これは『ティアラ』って言います」
ティアラは突然「ティアラ」について触れられて驚きつつ教えた。
17/33.「それでは『』でいかがですか?」
「それでは貴方様のお名前は『ティアラ』でいかがですか?」
もはや言い当てではなく提案だったのだが――。
(……!)
――ティアラは思いがけず目がばっきばきになって思考が停止しその様子を見て不機嫌にさせてしまったと思ったユウタは――。
「あ、気を悪くなさってしまったのでしたらすみませんでした……」
――とても申し訳無さそうに謝罪した。
(で、で、でもまだき、き、決まった訳じゃ、じゃ、じゃ無いわよね……!)
「だ、だ、大丈夫よ……!で、で、でもな、な、何で『ティアラ』だとお、お、お、思ったの……?」
ティアラは慌てて吃りながら訊いた。
「本当にすみませんでした……私は名前を考えるのが下手ですので……」
どう見ても不機嫌というか気にしている様でユウタは傷付けてしまったのではないかと心底申し訳無いと思っていて謝罪した。
正直ユウタは泣きそうだった。
「大丈夫。世界一上手よ。でも何で『ティアラ』だと思ったの……?」
ティアラはユウタを励ましつつ核心を訊いた。
(せ、世界一……!?)
「お褒めの言葉ありがとうございます……で、そう思った理由についてですが貴方様は貴方様が今お被りになっている『ティアラ』よりも美しく貴方様が『ティアラ』の『ティアラ』という意味で言わせていただきました……」
ユウタはティアラの言葉をお世辞と受け取りそして申し訳無く思いつつ恐る恐る理由を話した。
18/33.(ま、間違い無いわ……)
(ま、間違い無いわ……彼はアベルよ……一刻も早く魂を取り戻さなくちゃ……)
ティアラは急いで行きたい所が有り暗い顔をしながら飲み物を残りを飲み干し食べ切りその間ユウタは見守っていて――。
「それじゃ失礼するわ……」
――ティアラは再び被り物をし立ち上がると玄関の方へと向かおうとした。
「私が戸を開けます」
ユウタはそれくらいの事はしたかくて自分も立ち上がった。
「お願いするわ♡」
ティアラはユウタの申し出を快く受けた。
「あ、あの、本当にすみませんでした……仕事がしたい場合や国民になりたい場合などぜひ歓迎しておりますので……」
ユウタは戸を開け謝罪し受け入れ可能だという事を伝えた。
「美味しかったわ。ありがとう。名前の件は本当に良かったから気にしないで。入国の件は考えておくわ。また来るかも。それじゃ」
ティアラはユウタに返事をすると再び顔を変えその場を後にした。
(はぁ……本当に申し訳無い事をしてしまったなぁ……てか傷付けられたのに何でまた来るかもしれないんだろう……しかしここ最近で交渉でもない見知らぬ来客もこれで2人目かぁ……)
ユウタは心底申し訳無いと思ったのだった。
今は退散よ♡でも必ずアベルを取り戻すわ♡
かつてアンの様に我がままで短気だったティアラもこの世界を造ってから約46億年も経っていて目的の為なら手段も長期的な計画も厭わない世界神として不足が無い戦略家になっていた。
創造神様か多元宇宙神様ありがとう!私は生きる気力が湧いてきたわ!
*(別に貴方の為ではないけど)*
かくしてティアラはユウタがアベルだと確信し世界神になって初めて心が救われ洗われた。
19/33.「大丈夫でございますか?」
「大丈夫でございますか?」
イリシュは心配してユウタに声を掛けた。
「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
ユウタは心配してくれたイリシュに感謝し仕事に戻った。
「それなら宜しかったです。では直ちに先程の者を追跡させます」
イリシュはユウタの為彼女の情報を集めたかった。
「お願いします。でもくれぐれも安全にですよ」
ユウタとしてはイリシュが部下を使って調べてくれるのならそれに越した事は無かったが危険は冒してほしくなかった。
「承知しておりますとも」
イリシュはもちろんそのつもりだったのだが一方でユウタが部下に気を遣ってくれて嬉しかった。
20/33.*「『』、聴こえるか?」*
*「メラ、聴こえるか?」*
イリシュは部下のメラに念話を送った。
*「はい!聴こえるであります隊長!」*
メラは元気良く返事した。
*「今手は空いてるか?」*
イリシュはメラの仕事の邪魔をしたくなかった。
*「空いてないであります!」*
メラは特に抱えている事案は無かった。
*「なら特別な任務だ。陛下の建物から出てきた女を追え」*
イリシュはメラに指令を与えた。
*「今向かいます!特徴は?」*
メラは早速その女を追跡しようとした。
*「紫色の生地。被り物をしている。そして陛下から『くれぐれも安全に』との要望だ」*
イリシュはメラに特徴を伝えた。
*「了解!安全に追跡するであります!そして隊長!リベンジの機会を与えてくださり感謝するであります!」*
メラは直ちに目標を補足するべくユウタの仕事場へと向かおうとしイリシュに感謝した。
*「頼んだぞ」*
イリシュは手が離せないし追跡となればメラ以外の適任が思い当たらなかった。
*「目視完了!直ちに追跡を始めるであります!」*
メラは目標を捕捉し追跡を始めた。
というのも前回の追跡任務で目標を見失ってしまったのはメラでリベンジの機会を伺っていたのだ。
*ちなみにメラは元犬人族で衛兵団で一番の追跡のプロだった。*
*また「メラ」はここでの名前であり元の名前ではない。*
*「陛下の為に結果を出せ。以上だ」*
イリシュは指示を伝え終え――。
*「了解!」*
――メラも意気込みお互いに念話を終えた。
21/33.*「『』が出てきました」*
*「プリシラ様。目標が出てきました」*
プリシラの部下サブリナもティアラを追跡していて遠くから双眼鏡で覗いていた。
*「あれの様子はどうですの?」*
プリシラはティアラの表情から推察したかった。
そしてサブリナはティアラの表情を確認しプリシラに――。
*「とても笑顔で嬉しそうです」*
――そう報告した。
*「まずいですわ。きっと彼殺されてしまいますわよ」*
プリシラはユウタがアベルだと確信していてティアラがユウタを殺そうとするのが分かっていた。
*「はい。きっとそうなると思います。あ、――また追加で情報です。アンの天使の部下が念話で標的に対し追跡の指示を出しています」*
プリシラはユウタがアベルだと確信していてティアラがその様子だとユウタを殺そうとするのが分かっていた。
*「彼女達にはティアラを追えないですわ。敢えて追跡を許せば別ですけど。きっとすぐにテレポートするでしょうし。――サブリナは引き続き気付かれない様に追跡してくださいまし」*
プリシラとしてはサブリナには引き続きティアラの追跡をしてほしかった。
*「了解」*
サブリナはプリシラとの念話を追えると引き続きティアラの追跡に当たった。
*サブリナは元銀河帝国軍の特殊部隊員で彼女もまた追跡のプロだったのだがこの文明レベルでの原始的でしかも種族特性が使えない状況での追跡しか出来ないメラに対しサブリナは元の種族のまま銀河帝国軍における最新装備の魔導機器も使えるから追跡能力は圧倒的な差が有った。*
22/33.*「隊長、『』であります……」*
*「イリシュ隊長、目標を見失ってしまったであります……」*
メラは目標を見失ってしまった。
*「やはり只者ではなかったな。気を落とすな。お前の働きは無駄ではない。陛下には付き合いを考える様にと警告する。お前は直ちに帰還せよ」*
イリシュはメラでも追えない相手だったらもう仕方が無いと割り切っていた。
またイリシュはその様な相手は他の神やあるいはその天使かもしれないと思っていて有害無害問わず秘密裏に調査しに来ている可能性ももちろん考慮していた。
*「了解であります……」*
メラは申し訳無さそうに帰路に就いた。
23/33.*「『』を確認しました」*
*「プリシラ様。目標のテレポートを確認しました」*
サブリナはティアラのテレポートを確認した。
*「テレポート先はどこですの?」*
プリシラはティアラが次にどこへテレポートしたのか知りたかった。
*「テレポート先は……プリシラ様の部屋の前です……!」*
サブリナがティアラのテレポート先を調べたらそこはプリシラの執務室の前だった。
*「え……!?」*
プリシラは久しぶりにぞっとした。
今のプリシラは成長に成長を重ね怖い者知らずなのだが久しぶりに屋敷が襲われた時の様な絶対的な恐怖を感じたのだった。
*「切りますわ。引き続き追跡してくださいまし」*
プリシラは慌てて念話を切ろうとした。
*「りょ、了解……」*
プリシラは慌てて念話を切った。
24/33.「だ、誰ですの……?」
するとプリシラの執務室の扉がノックされ――。
「だ、誰ですの……?」
――プリシラは少し焦りながらというか少し恐怖しながらノックの主が誰か訊いた。
「私よ。今入っても良いかしら?」
ティアラは目的地へ行く前にプリシラと話したい気分だった。
「良いですわよ」
プリシラとしては別に構わなかった。
「じゃあお邪魔するわ♪ふんふふ~ん♪」
ティアラは鼻歌を歌いながら部屋に入った。
「ずいぶんとご機嫌ですわね」
プリシラはティアラがこれ程上機嫌なのを見るのは久しぶりだった。
「あら、分かる~?よいしょっと」
ティアラはソファに座った。
「分かりますわ。もろですわよ」
プリシラは紅茶を淹れお菓子も出した。
「そ♡」
ティアラは出された紅茶とお菓子を頂いた。
25/33.「何しにいらしたの?」
「で、ここには何しにいらしたの?」
プリシラはティアラにここに来た訳を訊いた。
「あら、単刀直入が良いの?」
ティアラは単刀直入でもワンクッション置くでもどちらでも良かった。
「その方が助かりますわ」
プリシラは早く本題を言ってほしかった。
「じゃあ単刀直入に言うわ。――私は彼を手に入れるわ。その邪魔をしないでくれるかしら?」
ティアラはプリシラの部下の尾行には正確な位置には気付いていないがプリシラなら護衛も兼ねて尾行はさせているだろうし自分の策略にも気付いているだろうとも思っていてプリシラの焦り具合を見て自信を付けていた。
「それは呑めない相談ですわよ」
プリシラはティアラの要求は呑めなかった。
「何で?代わりに欲しい物が有るなら何でも言って」
ティアラはもちろんただで要求が通るとは思っていなかった。
「まだ分からないんですの?彼はすぐには戻ってこなかったんですの。という事は彼は私達とはもう一緒にいたくなかったという事ですのよ?」
プリシラはアベルが死ぬという取り返しの付かない事になってしまったのは欲張ったティアラのせいだと思っていたしアベルに第2の人生が与えられたのだとしたらもう十分助けてもらったしその邪魔をしたくなかった。
というのもプリシラはティアラの勇者レンタルでプリシラの忠告を無視しアベルに休む間も与えず他所の神が手に負えなくなった魔王や魔神、堕落した勇者や英雄、魔導士達と戦わされていたのを側で見てきたのだ。
「違うわ……!」
温厚なティアラが切れて魔力暴走で手に持っていたティーセットを割ってしまった。
「何が違うんですの?」
プリシラは何が違うのか分からなかった。
「アベルの魂が帰ってこなかったのは攫われたからよ」
ティアラはアベルの魂が帰ってこなかったのはアベルに嫌われたからではないと信じていた。
「またそれ……もういい加減聞き飽きましたわ」
プリシラは確かにアベルの魂が還っていくのを見届けていたし少なくともその場で盗まれたとはとても思えなかった。
26/33.「『』が何かしたんじゃないの?」
「貴方が何かしたんじゃないの?」
ティアラはプリシラが何か知っているのではないかと今でも疑い続けている。
「わたくしは……もう本当の事を言いますわ。今まで貴方の為に黙ってましたけど」
プリシラはアベルの第2の人生の為に真実を明かそうと思った。
「な、何を黙ってたの……?」
ティアラは予想外の展開に狼狽えた。
*(言う必要は無いのに)*
「貴方はわたくしが何かしたとかアベルの魂が攫われたとか言ってらっしゃるけどね、あの時わたくしは彼に止めを刺せなかったのでしてよ」
プリシラは真実を明かし始めた。
「え……?どういう事……?」
ティアラは訳が分からなかった。
「わたくしが彼を殺せる訳が無いですわ。でも最初は貴方から引き継いで止めを刺そうと思っていましたの。でも出来なかったんですわ。でもそんな時に現れた方にアベルの第2の人生を願って身を託したんですのよ」
プリシラは真実を明かした。
「貴方なんて事してくれたのよ……!」
ティアラは久しぶりに相手の胸倉を掴んだ。
「もちろん言いましたわ。アベルの気持ちを尊重してほしいと。わたくしも貴方もアベルの事を待つと。でも彼の魂は帰ってはきませんでしたわ。だからもうそういう事でしてよ」
プリシラはティアラには秘密にしていたが自分の中ではアベルの気持ちの答えが出ていたのだ。
「そいつは一体誰よ……サーティーン……?」
ティアラには自分の上司しか思い浮かばなかった。
「『イヴ』と名乗ってましたわ。『貴方が無理して止めを刺す必要は無い』。『私が責任を持ってアベルの気持ちを尊重して第二の人生を与える』と」
プリシラはティアラにイヴに言われた事を話した。
「誰よその女……私は認めないわ……邪魔したら次こそ殺すわよ……」
ティアラは狼狽えながらも胸倉を掴んでいた手を離し行動に移すべく壊してしまったティーセットの代わりにと新品のティーセットを空間収納からテーブルに置きテレポートしていった。
27/33.「はぁ……」
「はぁ……」
プリシラは溜息を吐き念話で――。
*「レティ、ちょっと私の部屋で壊れたティーセットを片付けてくれるかしら?」*
――部下に片付けを依頼した。
*「畏まりました。只今参ります」*
プリシラの部下の「レティ」こと「レティシア」はプリシラに応じ片付けるべく向かった。
(ティアラは昔の気迫が蘇っていましたわ……まるで猪突猛進でしてよ……でもわたくしだって自分の信念を曲げられませんのよ)
プリシラは必死のティアラに恐怖し共感を感じつつもかつて幾度も命を救ってくれたアベルの第2の人生を守る為身命を賭してティアラの妨害をする事を決意した。
28/33. 私のせいじゃないわ……
そしてティアラは寝室で――。
私のせいじゃないわ……私が嫌われた訳でもないはずよ……。
――ティアラを抱き抱えながらしばらく1人で泣き――。
そうよ……「イヴ」とかいう女のせいよ……誰だか知らないけど問いただしてやるわ……!
――新たな手掛かりを得たからそのイヴとやらを問いただそうと決意し涙を指で拭うと自分がすべき事をもう一度強く認識し仮面を被り着替えると目的地へと繰り出した。
29/33.「『』よ。マスターいる?」
そしてティアラは暗黒街の暗殺者ギルドのエントランスにテレポートし――。
「『楽園の王妃』よ。マスターいる?」
――偽名を言う様にして受付に声を掛けマスターがいるか訊いた。
*二つ名は勇者アベルの王妃という暗喩*
*また暗黒街とは大人の神々の為の繁華街の事で身分を隠す為に仮面を被りお客を識別する為に偽名の二つ名を名乗る必要が有る。*
*また暗殺者ギルドとは暗黒街に有る暗殺者の為の公的なギルドであり暗殺者の育成や個人の暗殺者や暗殺クランとの仲介などを担っている。*
「『楽園の王妃』様でございますね。マスターはいらっしゃいますが。……!ど、どうぞこちらへ……!」
受付はいつもなら「ご依頼でございましたらマスターではなく担当の者が当たらせていただきます」と言う場面なのだが二つ名で検索を掛けるとスーパーVIPだと分かり慌ててスーパーVIPルームへと案内しようとした。
「あらそう♪」
ティアラは受付に案内されていった。
「マスターを呼んでまいります。お客様はこちらでお待ちください」
受付は紅茶とお菓子を出した。
「分かったわ♪」
ティアラはるんるん気分だった。
そしてマスターのオスカルは入室して――。
「お待たせいたしました。楽園の王妃様」
――ティアラに挨拶した。
「あら。久しぶりねオスカル。調子はどうかしら?」
ティアラはオスカルの調子を訊いた。
「こちらこそ久しぶりですね。私の調子もこのギルドもいつも通りで良好ですが、楽園の王妃様のお調子はいかがですか?」
オスカルは自分自身とこのギルドの調子を話し続いてティアラの調子を訊いた。
30/33.「私は今と~っても『』よ♪」
「私は今と~っても調子が良いわよ♪」
ティアラはここにきて諦め掛けていた事態が動いてすべき事が明らかで気分も晴れやかだった。
「おや。それでは見つかったのですか?」
オスカルはティアラがアベルを探している事は知っていたし見つかったら暗殺ギルドに依頼がくる事も分かっていた。
「そうなの。で、パトリシアに依頼しても良いかしら?」
ティアラはユウタの暗殺を万全を期してパトリシアに依頼したかった。
*パトリシアは最高クラスの暗殺者で世界神の天使長であるプリシラよりもやや上の実力の持ち主。*
「宜しいのですか?他にも当ギルドに登録している暗殺者で優秀な者は多くいますが」
オスカルは確執を懸念していた。
*パトリシアは生前のアベルの命を常に狙い続けていた。*
「私はパトリシアが良いの。ほら、リベンジの機会でしょ?」
ティアラはパトリシアにリベンジの機会を与えたかった。
というのもティアラはパトリシアの実力を認めていたのだ。
*アベル暗殺の夢は最後までいよいよ叶う事が無かった。*
「しかし目標は今どの世界にいるのですか?」
オスカルは暗殺目標がどの世界にいるのか知りたかった。
というのも暗殺目標がどの世界にいるかで魔法の有無などで暗殺のやり方やその難易度が段違いだったからだ。
「私の世界よ」
ティアラはアベルが魔法が無く自分のテリトリーである自分の世界に転生していて心底ラッキーだと思っていた。
「文明レベルと役職は?」
オスカルは続けて暗殺目標がいる星の文明レベルと役職が知りたかった。
というのも魔法が無い科学の世界とはいえ暗殺の難易度は文明レベルと役職によって左右されるのだ。
「大河文明の初期。建国途中の王。で伝わったかしら?」
ティアラとしてはそれで伝わったと思っていた。
*ちなみに科学の世界でも高難易度になるのは暗殺目標が警備が厳重な銀河帝国の皇帝や神を敵に回す事になる神やその天使といったケースだった。*
31/33.「なら『』必要は無いのでは?」
「ならわざわざパトリシアを駆り出す必要は無いのではありませんか?」
オスカルはパトリシアを使う程の難易度だとは全く思えなかった。
「それが有るのよ。邪魔が入りそうでね」
ティアラは必ずプリシラが妨害してくると思っていた。
「どれほどの『邪魔』ですか?」
オスカルは敵対勢力の規模が知りたかった。
「天使長とその一派、あとは脅威にはならないと思うけどその星の女神と天使達というところね」
ティアラは敵の正体を明かしてしまった様なものだった。
「それなら確かにパトリシアが必要ですね……」
オスカルは顎に手を当てて考えた。
そしてオスカルがそこまで真剣に考えたのもティアラが言った「天使長とその一派」が世界神の天使長プリシラとその精鋭の部下達だと分かっていたからだ。
「だからお願い出来るかしら?」
ティアラとしてはぜひパトリシアに引き受けてほしかった。
「そ、それが……パトリシアは今任務を遂行出来ない状況でして……他の者にしていただけませんか?」
オスカルは今パトリシアに仕事の依頼をする事が出来なくて他の者にしてほしかった。
「あら、何が有ったの?」
ティアラはパトリシアは今もどこかで暗躍していると思っていた。
「それはいくら楽園の王妃様といえでもギルドマスターとして私からはなかなか申せません……」
オスカルは例え自分達の手が多くの血で汚れていても相手が世界神でもギルドマスターとして所属している暗殺者の情報を明かす事は出来なかった。
32/33.「じゃあ『』を紹介してくれるかしら」
「そう。じゃあ代わりの者を紹介してくれるかしら」
ティアラとしては目標を暗殺してくれるのならパトリシアでなくても良かった。
「もちろんです。それでパトリシアの代わりになりそうな者の事ですが、パトリシアにはアンリという名の弟子がいまして、宇宙海賊王、銀河連邦の独裁者、魔王といった暗殺実績も有り実力は申し分無いと思うのですがいかがですか?」
オスカルはパトリシアの弟子にパトリシアの代わりにこの仕事を受けさせたかった。
「弟子がいたのね。会いたいわぁ」
ティアラはパトリシアの弟子に会ってみたかった。
「アンリは今――任務中でして呼べそうにはありませんでした」
オスカルはアンリの任務状況を魔力モニターをぽちぽちと押して確認したが急には呼べそうにはなかった。
「それなら仕方無いわね。とりあえず報酬の話がしたいんだけど良いかしら?」
ティアラはオスカルの紹介なら人選に問題は無いと思っているしとにかく交渉に移りたかった。
「はい。もちろんです。それでは見積もりをさせていただきますが、目標は科学の世界で大河文明の初期の王ですからそれだけなら料金はそれ程掛かりません。ただし世界神の天使長とその部下からの妨害の可能性有り、ですからね」
オスカルは料金の見積もりを始めたがプリシラ達の脅威度が高過ぎて高く付きそうだった。
「そうね。きっと精鋭を出してくるわ。それに私がここに来た事も向こうは既に把握してるはずよ」
ティアラはプリシラの動きを話した。
「それでは金100トンを1ゴールドとして成功報酬100万ゴールドでいかがでしょうか?」
オスカルは見積もりを出した。
*金1グラム=1万円、金1キログラム=1000万円、金1トン=100億円、金100トン=1兆円、この場合の100万ゴールド=金1億トン=100京円*
*この場合の100万ゴールドで原油100兆バレル(地球の原油埋蔵量が1兆7546億バレル)もしくは致命傷も治る1本1000万円のエリクサー1000億人分が買えるのだが2000億から4000億の星系が有る銀河の中の宇宙王国(10億星系規模)で考えると各星系で原油1万バレルもしくはエリクサー100個を配れる程度の事だったが戦場に限定して配れば助かるしその規模の文明を持つ神を動かすにはそれ程の報酬を出す必要が有った。*
33/33.「『』には応(こた)えてくれるのかしら?」
「いいわ。で、要望には応えてくれるのかしら?」
ティアラは暗殺方法に要望が有った。
「もちろんですがどの様なご要望ですか?」
オスカルはもちろん出来る限り要望に応えるつもりだが要望次第で暗殺の難易度が変わるから大事な事だった。
「彼を結婚式で悲劇的に暗殺してほしいの。でも彼以外を傷付けては駄目よ。もちろん彼の魂は回収ね」
ティアラはユウタを結婚式で暗殺したかったがティアラが欲しい魂はユウタだけで妨害してくるだろうプリシラ達やそれ以外のアン達を傷付けたくはなかった。
「畏まりました。また目標や場所の事など具体的な情報を出来る限りお教えください」
オスカルはメモを取りながら情報収集に当たった。
「ええ、いいわよ。星は私の世界の太陽系の第3惑星。そこの女神は新成年のアン。場所はアンがテレポートの時だけじゃなく日頃から魔力を隠しもせずに馬鹿みたいに放ってるから分かりやすいわ。そして暗殺目標はそこで王国を建国中の王よ。そして彼は24時間のローテーションを組ませたアンの天使達に建物の警備と付きっ切りの警護で守られてるわ。――まぁ情報はこんなもので良いかしら?」
ティアラは簡潔に暗殺に必要そうな情報を話した。
「はい。ありがとうございます。直ちにアンリに連絡いたしますが、その前にこちらの契約書にご同意ください」
オスカルは魔力モニターで契約書を作成しティアラに同意してもらう為ティアラのモニターに送った。
「分かったわ。――契約成立っと」
ティアラは文章に目を通し同意のボタンを押した。
「ありがとうございます。それでは進展が有れば連絡いたしますので今日のところは以上になります」
オスカルはティアラとの契約を完了した。
「分かったわ♪じゃあまた♪」
(待っててね♡アベル♡)
ティアラは大層満足そうにそのまま自室へとテレポートしていった。
かくしてティアラはユウタ暗殺の依頼を終えた。
後書き
神と人の違いはやはり肉体です。
神は寿命がほぼ永遠(自分が生きたいだけ生きられる)なのに対し人は必ず衰えます。
この違いは体内の魔力量と肉体の魔力効率(魔力回路の密度と連絡具合)によるもので、要するに神クラスの魔力量とその魔力量に耐えられる肉体を獲得しているかいないかの違いです。
では1号や2号、プリシラといった天使はどうなのか?というと寿命は神と同じですが身体能力に制限が加えられています。
というのもプリシラは魔法の世界の天使なので魔法が使えますが1号や2号は科学の世界の天使であり魔法が使えない人々がいる地上での活動を想定されているから科学の世界神のティアラにより自動的に魔法が封印されています。
ちなみにティアラが作った科学の世界では本人が言っていた通り魔法が存在しない世界なのですが正確には「人が魔法を使えない世界」であって神は余裕で使えるのですが地上の人は魔法が使えないから魔力を増やす事も出来ず必然的に普通の方法では神になる事は出来ません。
そしてもちろん神にも天使にも魂が有り輪廻転生する事が可能です。