[R18] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 6話 地球の女神 始まり(アン視点)
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R18
第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)
第 6 / 12 話
約 13,500 字 – 18 場面 (各平均 約 750 字)
1/18.「わ、わぁっ!て、敵襲!?」
現地にテレポートした女神は勇者候補の青年と出会った。
「わ、わぁっ!て、敵襲!?」
突然光に包まれた存在が目の前に現れたから座っていた青年は驚き後ろに倒れてしまった。
その様子に青年が手綱を握っている馬もひひひーん!と驚き前足を上げてしまうが馬は獣の本能で聖なる力を感じ取っていて恐怖心は無く突然現れた事に驚いただけだった。
「誰が敵よ!この姿を見ても分かんないの?」
女神は自分が敵と見間違われて不満だったのだがテレポートの際に必要以上に魔力を込め凄まじく光を放っていてテレポートした場所やそのタイミングを加味するとそれが目くらましを伴った敵襲と思われても仕方が無かった。
そして女神はどや顔で誇らしげに胸を張り胸に手を当て青年に訊いた。
そして訊かれた青年は体勢を元に戻し――。
(超常的な存在だとは思うのだけど神様か幽霊か精霊様か……でも神が女性とは聞いてないし……僕の前に現れるとも思えないし……この世に未練が有る幽霊なのかなぁ……)
――などと少し考えてから――。
「服装も綺麗でございますし幽霊でございますか?」
未開人が考え得る最善の回答をした。
「誰が幽霊よ!私はこの星の女神よ!ちゃんと覚えときなさい!」
女神は怒りながらも自信満々に自己紹介した。
「め、女神様ぁっ!?お、お初にお目に掛かります女神様……わたくしはこの高原で『東の村』の族長をしておりますシェイクと申しますがどうぞその敷物の上にお座りいただけませんか?」
シェイクは驚いてしまうも自分だけ座っているのは失礼かと思い立つと自己紹介し今さっきまで自分が座っていた敷物を手で指し示し座る事を提案した。
ちなみにシェイクが女神が現れて直後に立たなかったのは「戦う意思は無い」という意思表示だった。
というのも座りながらでは戦い辛いしその為相手に安心感を与えられると思っての配慮だったのだ。
「そう!気が利くわね!よいしょっと!」
女神は敷物の上に胡坐をかいて座った。
「見上げるの大変だからそこ座って良いわよ」
女神は自分の正面の地面を指差しシェイクに自分の正面に座る事を許可した。
「感謝申し上げます」
シェイクは自分だけ立っていると「頭が高い」と思われかねないと思っていたから座らせてもらえて助かった。
2/18.「あんた私の『』になりなさい!」
「いいのよ。私が助かるし。――じゃ、早速だけどあんた私の勇者になりなさい!もちろん拒否権は無いわよ!」
「ママが言うにはステータスが一番良いらしいから」と最初に言い掛けたが言わなかったのは「あんたを勇者として見出したのは私よ!」とする為だった。
「あの、女神様。ゆ、勇者とは一体いかがなものなのでございますか……?」
シェイクはそもそも「勇者」が何なのか分からなかった。
それもそのはずで「勇者」とは天界用語であり魔法が有る世界で「魔王といった強大な存在に立ち向かう勇敢な者」という意味で主に使われている単語で魔法が無ければ魔王もいないこの科学の世界では馴染みが無かったのだ。
「えー、そこから?」
女神は説明するのがめんどくさかった。
「申し訳ございません。お願い申し上げます」
シェイクは理解する為にも教えてほしかった。
「うんとー、そう!勇者っていうのはね!この世界の為に私の言う事を何でも聞いて私に尽くす存在の事よ!当然私の為に死ねるわ!」
女神はシェイクに自分にとって都合の良い情報を教えた。
*(あの子は本当にお馬鹿なんだから……勇者にそんな事までする義務が有る訳が無いわよ……それにそんな事を言ったら勇者になってくれる訳が無いじゃない……)*
ティアラはさすがに呆れてしまった。
「畏まりました。わたくしで宜しければ女神様の勇者にならせてください」
シェイクは即答した。
*「えー!?」*
*「素晴らしい勇者ですわ」*
*「あー……」*
*「よぉおっし!」*
皆ポップコーンを食べたり飲み物をストローで飲みながらまるで映画鑑賞の如く楽しんでいてティアラは驚きプリシラは感激し1号は絶望し2号は喜んでいた。
「あんたよく言ったわ!大分見どころが有るわね!即答だし何より全肯定君っぽいのが気に入ったわ!私の機嫌を損ねないのってすっごく大事な事なんだから!私は 褒・め・ら・れ て 甘・や・か・さ・れ て伸びるタイプなんだから!よく覚えておきなさい!シェイなんとか!」
*(貴方って子は……でもむしろその方が都合が良いかも♪)*
ティアラは相手を騙し自分にとって都合が良い様に勇者の契約を交わした事や諸々の事に呆れつつも死んでくれた方が手間が省けるからその方が都合が良いかもしれないとも思ったのだった。
「女神様、感謝申し上げます」
シェイクは感謝した。
3/18.「じゃあ行くわよ!」
「じゃあ行くわよ!このお馬さんに乗って行けば良いのね!」
女神は馬に乗るべく立ち上がり馬の前に移動しようとした。
「女神様、申し訳がございませんがわたくしはここで見張り役をしていなければならないのでございます」
シェイクは「見張り役」という役目を背負っていた。
というのもこの時代の「見張り役」とは人の往来や襲撃の監視、交渉、時間稼ぎといった縄張りを守るうえで大事な役目だった。
「ちょっと!全肯定君かと思ってたらいきなり私の命令に背く気?」
女神は開始早々の否定に不満だった。
「わたくしは女神様のご要望通りに事を進めてまいりたいのですがわたくしは村の長も務めておりますし代わりがいない限りは見張り役という役目を放棄する事が出来ないのでございます」
シェイクはこの時間帯の見張り役を1人で買って出ていたからその場に他に任せられる人がいなかったのだ。
「な~んだ!その程度の事だったのね!じゃあ他の人に任せてあんたはとっとと私と行くわよ!」
女神はシェイクの腕を掴んで引いたが――。
「交代が来るまでお待ちいただけませんか?」
――シェイクに断られてしまった。
見張り役は交代が来るまでは決して持ち場を離れてはいけないというのが鉄則だった。
「嫌よ!何で女神の私があんたの都合に合わせないといけないの?私の勇者なんだったら私の言う事聞いてよ!」
女神は我慢を知らず何でも思い通りにならないと気が済まなかった。
*「最初の関門ね」*
ティアラからすれば勇者の適性を見る早速のお手並み拝見といったところだった。
(そもそも女神様はどこへ行くつもりなんだ?)
シェイクにはそもそも女神の目的や女神自身の事など分からない事だらけだった。
「左様でございますが女神様、一先ずお座りになってどこへ行きたいのかやわたくしに何をしてほしいのか、また女神様の事などお話ししてくださいませんか?」
シェイクは情報収集や情報整理の為の会話で交代が来るまでの時間を稼げると思ったしそもそもそうする必要が有ると思ったから会話を提案した。
*(あら時間稼ぎかしら。「論点のすり替え」は得意な様だけど、堅実ね)*
ティアラは少し感心した。
4/18.「私の話からでもする?」
「確かに!それもそうね!――よいしょっと!で、何から話そうかしら?私の話からでもする?」
女神は納得し再び座ると会話するのを楽しみそうにしていた。
というのも女神は自分の話をするのが自分が注目の的で世界の中心にいる様な気になれて大好きなのだ。
「それではぜひ女神様のお話を拝聴させてください」
シェイクは女神が話したそうにしている自身の事から聴こうと思った。
「そうこなくっちゃ!さすが私の勇者よ!――えーっと私はね……」
しかし女神は口下手で何から話したら良いか分からなかった。
「先ずはお名前からお話しになるのはいかがでございますか?」
シェイクは女神が口下手なのを察し話しやすい様に話題を振っていく事にした。
「良い質問ね!――私の名前は……無いわ!」
(え!?)
「それは何故でございますか?」
シェイクはその訳を訊いた。
「知らないわよ!物心が付いた時から無かったの!」
(そういうものなのかぁ)
シェイクは女神との関係がまだ親密ではないからそれ以上は訊かないでおこうと思い――。
「そういうものなのでございますね。それでは女神様のご趣味はいかがですか?」
――話題を変えた。
「趣味はそうね~家でごろごろかも!」
(家でごろごろ……まぁ女神様だし暇なのかなぁ)
シェイクは「女神様は長寿だからこそ退屈しているのだろうか」や「激務も女神様からすればもはや退屈なのではないか」などと慮ったのだが実際はただただめんどくさがって1号達に任せっきりにしごろごろしているだけだった。
「左様でございますか。それでは女神様は食べ物や飲み物の好物はいかがでございますか?」
シェイクは今度は飲食の好みを訊いてみた。
「それだったら私は果物が好きよ!」
(女神様は食べ物が好きなんだね)
シェイクは女神の熱気具合から食べ物にとても興味が有るのだと思った。
「果物はとても美味でございますよね。わたくしも好きでございます」
シェイクも果物は好きだった。
「美味しいわよね!甘いしジュースにもなるから!」
甘い果物は女神にとっての貴重な糖分や飲み物だった。
しかしその一方で――。
でも私……思ってたより中身空っぽだった……!?
――話し始めた段階で薄々気付きつつは有ったものの思っていたより自分の中身が薄かった事を今はっきりと認識し落ち込んでしまった。
「左様でございますよね。――め、女神様、いかがなさりましたか?」
シェイクは女神が急に落ち込んでしまったから心配になった。
5/18.「熱(あつ)っ……!」
「いや、別に……暑いしずっと待たされてるしなんか分かっちゃったしもう最悪……この砂みたいにちっぽけで……って熱っ……!」
女神は感傷的になり地面の砂に触れてみるととても熱く痛みを覚えて手を引いた。
「大丈夫でございますか?女神様。水で冷やしましょう」
シェイクは急いで水筒を開け貴重な水を掛ける事で女神の手を冷やそうとした。
「これくらい平気よ」
女神は自身の手の火傷した箇所にヒールを掛け治癒した。
「さすが女神様でございます。それではこちらで手を拭いてまいりますね」
シェイクは綺麗な布で女神の手を拭こうとした。
「必要無いわよ」
女神はお掃除魔法であっという間に手を綺麗にしてしまった。
「素晴らしい奇跡でございます」
シェイクは目の前で起こった奇跡にただただ感動していた。
「これは奇跡じゃないわ。魔法よ魔法」
女神からすればこれは至極当たり前の事だった。
「魔法?が使えないわたくしには奇跡の如くでございます」
未開人のシェイクにはそれは奇跡としか思えなかった。
「そ!てか何でこんなに熱いのよ……あんたはついさっきまで座ってたじゃないのよ……って、あ……」
女神はシェイクが熱さを我慢して自分の正面の地面に座ってくれていた事にやっと気付いた。
「左様でございますがいかがなさりましたか?」
シェイクは女神が何が言いたかったのか分からなかった。
「熱いのを我慢してくれてたの……?」
*「やっと気付いたわね」*
*「勇者ですわ」*
*「シェイクさん……」*
*「おい!まじかよ!漢気が有るじゃねぇか!」*
「いえ、全く問題はございません。それでは次からはお気を付けになるという事で今からお話の続きをしませんか?」
シェイクは再び元座っていた地面に座った。
「ねぇ……!私そんな事までしてって言ってないわよ……!ここ座って良いから……!」
女神は感傷的になっていた分さらに落ち込み「自分は酷い女神じゃない!」という事を証明したいが如く普段見せない優しさが出てきて片側にどき体育座りをして片側の敷物の上を手でぽんぽんした。
*「あら優しいところも有るじゃない」*
*「『報告には座らせてもくれない』と有りましたのに」*
*「座らせてもらえて良かったです……」*
*「耐熱チャレンジあたいも今度やってみよ!」*
「お気遣い感謝申し上げます。それでは失礼いたします」
シェイクは女神に感謝すると女神の隣に同じく体育座りで座った。
「いいのよ!当然の事をしたまでよ!」
女神はこの時感謝される快感を覚え多少は元気が出てきた。
6/18.「続きを始めても宜しいですか?」
「それではでございますがお話の続きを始めても宜しいですか?」
シェイクは早速会話を再開したかった。
「ええ良いわよ!でも私の話聞いてばっかりでずるいから今度はあんたの話をしてちょうだいよ!」
女神は自分の話をしていた時のあまりの自分の中身の無さに恥ずかしさを覚えていたし「今度は私の話術を見せてやるわ!」と意気込んでいたのも有って今度はシェイクの話が聞きたかった。
「畏まりました。それでは話させていただきますがわたくしも女神様と同様に名前がございません」
シェイクにも名前が無かったのだ。
「え、でもさっきシェなんとかって言ってなかった?」
女神が不思議に思うのも無理は無いが――。
「『シェイク』とは村長や族長の事でしてわたくしはただ役職名で呼ばれているだけでわたくしの本名がそれという訳ではないのでございます」
――「シェイク」とは肩書きだったのだ。
「でも名前が無いなんておかしくない?両親いるんじゃないの?」
女神には親がいるはずのシェイクに名前が無いのが不思議だった。
「それはわたくしが両親から名を授かる前に両親が亡くなってしまった為でございます……」
この時代では戦争や飢餓、疫病が身近に有り医療水準も極めて原始的だったから早死にしてしまう事も珍しくはなかった。
「そう……ねぇそれ、おしゃれね。最近よく見掛ける気がするのだけど」
女神はシェイクの元気を出させようとしシンボルを褒めてあげようとした。
「これは奴隷の証です……」
女神が褒めたのは奴隷の証だったのだ。
ま、まずい……!
「ねぇ、あれ見てみて!大きな山が有るわよ!あれなんて名前の山なの?」
女神は話題を変えようとして遥か遠くを指差した。
「あれは……蜃気楼でございますので山ではございません」
女神が山に見えたものはただの蜃気楼だった。
そして女神は何もかも上手くいかなかったから――。
7/18.「私の機嫌を取ってよ!」
「もうあったまきた!何で女神の私があんたの機嫌を取らないといけないのよ!あんたが私の機嫌を取ってよ!」
*(機嫌を取ってって……どこかで聞いた事が有る台詞ですね……)*
――ついにやけになってしまった。
そしてシェイクは――。
「かしこまりました。それでは申させていただきますが、女神様は可愛いと存じます」
――女神を褒めた。
「きゃ~♪そうよ!私は可愛いの!あんた見る目が有るわよ!その調子でもっとちょうだい!」
女神は「あんた見る目が有るわよ!」とユウタの背中をばん!ばん!と叩いた。
(い、痛いんだけど……)
女神はシェイクがご機嫌取りとして使えると思った。
そしてシェイクは続けて――。
「お褒めのお言葉感謝申し上げます。それでは続けて申させていただきますが女神様は容姿端麗で美人でございますね」
乙女が喜ぶキラーワードを繰り出した。
「きゃ~♪やっぱりそう?さらに容姿端麗で美人って♪もう!あんたは褒め上手ね!」
上機嫌になった女神は「もう!あんたは褒め上手ね!」とユウタの背中をさらにばん!ばん!と叩いた。
(い、痛い……)
「はい。左様でございます」
実際女神は可愛いし容姿端麗だし美人だった。
*「な、何だ!?」*
グラスが割れる音がし皆がその方向を見た。
*「あらごめんなさい♡」*
グラスを割ってしまったのはティアラであり女神が勇者と良い雰囲気で褒めちぎられている様子を見続けていたらその勇者の事を良いと思っていたし女神に対して特別に思っていた事も有りとても嫉妬してしまい堪えていたものの我慢出来ずに魔力暴走でグラスを割ってしまったのだ。
そしてプリシラが手際良く片付けると新しいグラスを用意した。
*「あらありがとう♡」*
ティアラはプリシラに感謝したが――。
*「……」*
*(良い気味ですわ。その調子でどんどん醜態を晒したら良いんですわ)*
――プリシラは無表情で頷くのみで無言だった。
「あんた私の事褒めるの上手いから定期的に私の事褒めなさい!良いわね?」
女神は定期的に褒めてもらう事で気持ち良くなりたかった。
8/18.「場所と目的を教えていただけませんか?」
「畏まりました。それでは女神様、ご機嫌のところ畏れ入りますが今後の為にも女神様が目指されたい場所とわたくしを勇者になさった目的を教えていただけませんか?」
シェイクはここでついに本題に入った。
「そうね!一番大事な事だもんね!心して聞きなさい!おっほん!――」
女神はもったいぶって話し始めた。
「はい。お願い申し上げます」
シェイクも息を呑んだ。
「――えーっとね!あんたには海と大きな川が繋がってるとこにおっきな国を造ってほしいのよ!」
女神は地図の記憶を頼りにシェイクに目的を明かした。
「畏まりました。大河の河口付近に大きな国を造ってほしいのでございますね。」
シェイクは何で自分が選ばれたのかは分からないままながらも女神の目的は大体分かった。
「そう!そういう事よ!あんた話が早いわね!」
女神はシェイクから有能という意味で1号みを感じた。
「お褒めのお言葉感謝申し上げますが、ここから最寄りの場所で宜しいのでございますか?」
シェイクは女神に感謝したが遠くの大河かもしれなかったから念の為どこのか訊いた。
9/18.「何であんたはこんな事やってんのよ?」
「そうよ!てかそもそも何であんたはその証を付けてたり族長なのにこんな事やってんのよ?」
女神はシェイクが置かれている現状が気になった。
「山岳の民からの戦争か下るかの問いでわたくしが血を流さない為に下る事を選びまして、その後山岳の民からの申し出により高原の他の部族からの侵略を防ぐ為でございますが、わたくしが責任感から多様な役を買って出ているのでございます」
シェイクの村は高原の諸部族の中でも山岳の民と唯一戦わずに平和的に属領になった村だった。
「それは分かったけど何で戦わなかったのよ?戦いなさいよ勇者なら」
女神はシェイクに戦ってほしかった。
「年貢を一部納めなければいけませんがわたくしの村が高原の部族と山岳の部族の橋渡し役となり、川の部族やその他の縄張りとの交易路を開く事で一滴も血を流す事無く皆が幸せになれるのならそれに越した事は無いと存じたのでございます。でございますからこの証も属領扱いというのも本当は形だけなのでございますよ」
相手方の外交・交易担当とは平和的な条約が結べていたのだが戦士長が「条約など要らん!力付くで奪い取るまでだ!」という様に血気盛んであり高原の部族と山岳の部族の全面戦争を回避するにはシェイク側が折れてシェイクの東の村だけでも形だけでも服従し戦士長を納得させるしか無かったという裏事情も有ったのだった。
そしてシェイクは自身の村を山岳の部族の傘下に入れてしまっていたものの山岳の部族や高原の部族、川の部族、その他その先の部族や都市との間の交易路の仲介役を担っていたのだった。
「なんかお得な事してるわね!」
女神は「金は借りたが借金ではない」という様なお得な事の様に感じていた。
「左様でございますね」
女神もシェイクも笑顔で和気あいあいとしていた。
「な~んだ!奴隷って聞いた時はピンチなのかと思ったけど全然大丈夫そうじゃない!心配して損しちゃった!」
実態はメソポタミア文明域の覇権争いという女神が心配すべき程危険な状態だった。
*「一言が余計よ」*
*「全然大丈夫ではないですわ……」*
*「はい。本当は危険な状態なんです……それがシェイクさんの交渉術でどうにかなっているだけでして……」*
*「戦争すりゃ話ははえーのによ!」*
*「誰かさんにそっくりね」*
*「2号はシェイクさんの血を一滴も流したくないという思いを忘れてないですか……?」*
*「お!そうだったな!」*
「女神様に心配していただけるなんて光栄でございます。感謝申し上げます」
シェイクはとてもへりくだっているが――。
10/18.「あんた使えるわね!」
「あんたほんと礼儀正しいし私の機嫌も取れるし使えるわね!」
――女神は気持ち良くなっていて功を奏していた。
「感謝申し上げます」
シェイクからすれば頭が上がらないし大変ありがたかった。
「あんたを正式に勇者にしてあげるからこの き・よ・く か・わ・い・く よ・う・し・た・ん・れ・い で び・じ・ん の め・が・み・さ・ま の わ・た・し の言う事は何でも聞いて わ・た・し の事は命を懸けて守りなさいよ? わ・た・し の命令が絶対だし わ・た・し の命が誰よりも最優先なんだから!」
女神はシェイクに雑用などとことんやらせるつもりだったし例え家族や友人など大切な命よりも自分を優先させるつもりだった。
「はい。女神様のご命令を承りますし女神様のお命も私の命を懸けてお守りいたします」
シェイクは女神の利益も人々の利益も最大になる様にするつもりだった。
「きゃ~♪なんだか嬉しいわ!これが『男』って感じがするわね!」
女神に仕えている天使は女性しかいないから男性から言われるのは女神にとって新鮮味とわくわく感が有った。
「左様でございますか」
シェイクは何て返事したら良いか分からず相槌だけ打っておいた。
11/18.「名前で呼んであげたいんだけど!」
「で、あんたの事を気に入ったし名前で呼んであげたいんだけど!」
女神はシェイクの事を気に入り今後の事も思い名前で呼びたくなった。
*「いよいよね」*
*「ですわ」*
*「?」*
1号と2号はティアラとプリシラが何を言っているのか分からなかった。
「女神様に名前で呼んでいただけるのは恐縮でございます。シェイクと申します」
シェイクは女神に名前で呼んでもらえるのは嬉しかったが女神からは直前まで「シェイなんとか」と呼ばれていてとても名前を覚えてもらえるとは思えず補足で改めて自分の名前を言っておいた。
「でもそれってあんたの本当の名前じゃないんでしょ?」
女神は本当の名前で呼びたかった。
「左様でございます」
しかしシェイクは自分が『シェイク』と呼ばれる事にもう慣れていて語呂を気に入ってもいた。
「じゃあこの清く可愛く容姿端麗で美人の女神様であるこの わ・た・し が わ・た・し の栄え有る勇者になったあんたに特別に名前を授けてあげるわ!感謝しなさい!」
女神は「わしが育てた!」を地で行く性格の為もちろん自分が名前を付けたかった。
「感謝申し上げます。宜しくお願い申し上げます」
(変な名前にならないと良いけど……)
シェイクは女神から貰った名前は絶対に使わなければいけないし使うなら名乗りやすい方が良いし他者から馬鹿にされてしまう様な変な名前を付けられてしまわないかと心配だった。
12/18.*「あの女神様の事だし『』とかだったりしてな」
*「あの女神様の事だし『勇者1号』とかだったりしてな」*
*「ふふ。そうかもしれないですね」*
1号と2号は冗談を言ったが満更でもなかった。
*「そうなのよねぇ。心配よぉ」*
ティアラからすれば「この女神は神失格よ。だって天使や勇者を番号でしか呼んでないの」などと糾弾しやすいからむしろその方が都合が良いまで有った。
*(白白しいですわ)*
「そうね~」
「勇者1号」はどうかしら?
う~ん、そしたらいちいち「天使」だの「勇者」だの付けないといけなくなっちゃって面倒ね
じゃあ他のを考えないといけないけど、ちゃんとした名前って今まで付けた事が無いのよねぇ
女神はここにきて今まで番号呼びで済ませてきた弊害が出てきていた。
そもそも名前っていうのは使う人と合ってないといけないのよ!
女神はシェイクと合った名前を付ける為シェイクの顔を見て考えた。
そもそも男って不思議な生き物ね~。片方が男性染色体になるだけで男が産まれてくるなんて。
私の事を命懸けで守ってくれるって言ってくれたのは嬉しかったし。
そもそも性染色体の形は私が今考案中のアルファベットで言えばXなのよね。
女性染色体の隣に男性染色体があるのが男性でどちらも形はXだけど、大きいのは女性染色体の方だしまぁXの隣にくるのはYだし、この座り順なんか正にそうだし女性と男性、私と勇者って意味でXとYで良いかしら!
女神は偶然にもここにきて性の授業をちゃんと聞いていた効果を発揮した。
私の中でYは「ユウタ」だから私の勇者の名前は「ユウタ」で決まりね!
13/18.「あんたの名前はたった今から『』よ!」
「私決めたわ!あんたの名前はたった今から『ユウタ』よ!」
女神は自信満々にシェイクに「ユウタ」という名を授けた。
「『ユウタ』――宜しい名前でございますね。誠に感謝申し上げます」
(名乗れそうで良かった)
シェイクはその名を名乗る場面を想像し違和感が無さそうだったし安心した。
*「良いな~!あたいらは番号のままだってのによ!」*
*「とりあえず番号ではなかったわね」*
「完璧でしょ!あたいってネーミングセンス有るわ!」
女神は大層誇らしそうにしていた。
「左様でございますね。女神様は名付けが上手でございます」
ユウタは全肯定君っぷりを発揮し――。
「でしょ!えっへん!」
――女神は褒められると機嫌が良くなるタイプの為相性が良く誰の目からも2人は幸先が良さそうに見えた。
そしてユウタは――。
「女神様、僭越ながら気になったのでございますが――」
――名前の由来が気になり女神に――。
「何かしら?何でも訊きなさい!」
女神は上機嫌の為大抵の質問には答えるつもりだった。
「はい。――その『ユウタ』という名前の由来は何でございますか?」
――名前の由来を訊いた。
「まぁ気になるわよね!いいわ!教えてあげる!」
女神は自分が知り得る情報を未開人に教えてはいけないという事も無いし教えても良いかと思った。
「はい。宜しくお願い申し上げます」
ユウタは女神の口から何が聞けるかとわくわくしていた。
「ユウタは男よね?」
今試しに名前を使ってみたけど良い感じね!
(もちろんそうですが……)
「はい」
(名前の由来が想像も付かないです……)
「そんな男が産まれてくるには性染色体に男性染色体がくっついてないといけないのよ!」
女神は未開人にミクロの世界の生物学の話をしてしまっていた。
14/18.「性染色体とは何(なに)でございますか?」
「性染色体とは一体何でございますか?」
ユウタは女神が何を言っているのか分からないながらも理解しようとしていた。
「もー!これだから未開人は!性染色体っていうのは性別を決める染色体よ!で、染色体っていうのはね、こんな形してて体の中にいっぱい有るの!それもあちこちに!」
女神は両手の指を使って染色体の形「X」を表現し青年の体中を指差して染色体の有りかを教えた。
*「ここだけ聞けばあの子は優秀な女神に思えるのだけど……」*
*「ほんとだぜ!あの女神様がどっかの学者みてぇだ!」*
一同は驚愕していた。
「え!?本当でございますか!?み、見えませんが……!」
ユウタは驚きながらも必死に腕の皮膚に集中し「X」の形をした性染色体を目視で探したが見つけられなかった。
「ユウタね!目で見える訳が無いでしょ!超小っちゃいんだから!ぷーくすくす!なんか未開人のユウタって何にも知らない小動物みたいで可愛いわね!」
*「『未開人』だなんて言っちゃ駄目よ」*
*「私もそう思います」*
「申し訳ございません」
ユウタは女神に謝った。
「別にいいのよ!女神なら知ってて当然の事だけど!ユウタ達はまだ未開なんだから!もう!」
女神はユウタを励ますつもりで「ユウタ達はまだ未開なんだから!もう!」とユウタの背中をまたばん!ばん!と叩いた。
(ほ、本当に痛いのですが……)
女神は加減を知らず励ましやお礼のつもりとすら思っていた。
15/18.「今度は私の『』を考えてちょうだいよ……」
「ところでね……私も名前が無いの……だから今度はユウタが私の名前を考えてちょうだいよ……」
ティアラは神達に自立心を持ってほしいという思いで名前を授けてはいなかった。
というのも神は自分の名前を経験を通して勇者から貰うなり自分で名付けるなりして獲得し成長していくのがこの世界の神々の習慣だった。
「女神様の名前をわたくしが考えるのでございますか……非常に畏れ多いのでございますが……」
ユウタは畏れ多かったが女神に名前を付ける覚悟は出来ていた。
「私はちゃんとあげたんだから……!ユウタだって私にちょうだいよ……!ユウタが付けてくれなきゃ誰が付けてくれるっていうのよ……!」
女神は今が自分の名前が貰えるチャンスだと思っていた。
「畏まりました。それでは女神様のお名前を考えさせていただきますが、わたくしの村ではもしわたくしが女の子でしたら『アン』と名付けるつもりだったのだそうでございますが、――」
ユウタは女神に「アン」という名前について切り出し――。
「へー」
アンは興味深そうに聴いていた。
「――その『アン』とは村に代々伝わる英雄の娘の名前でございまして村では代々勇敢な者の娘や勇敢な女の子に名付けられる名前なのでございますがいかがでございますか?」
――女神の名前にどうか?と提案した。
「『アン』ね~。2文字なのが原始人の名前っぽいけど!考えてみたら意外と悪くないのよね!むしろ着飾ってなくて良いかも!それに英雄の娘の名前だなんて結構栄誉な事じゃない!」
女神は「英雄」などテンションが上がる言葉に弱かった。
「それではいかがでなさりますか?」
ユウタは女神が自分の提案に交換を抱いてくれている様で安心した。
「ねぇ、ユウタは私の名前が『アン』になったらどう思う?似合ってると思う?」
女神はその名前を自分の名前にするか判断する為にも相手から見て似合っているかどうか知りたかった。
「お似合いだと存じますよ。違和感もございませんし可愛いと存じます」
ユウタは本心を言った。
16/18.「私の名前はたった今から『』よ!」
「でしょでしょ~?私決めたわ!私の名前はたった今から『アン』よ!えっへん!」
アンは上機嫌で自信満々に胸を張っていた。
「女神アン様、おめでとうございます」
ユウタはアンを祝福した。
*「良かったわね、アン」*
ティアラは感動し喜んだ。
*「アン様、おめでとうございます」*
天使達も感動し喜ぶと共に拍手を送ったが――。
*「しかし喜ばしい事ですが大丈夫なんでしょうか……」*
*「大丈夫じゃね?アン様は色恋に興味ねぇだろ?」*
*「色恋に興味が無いなら男性の勇者を求めたりしないですよね?」*
*「た、確かに……!こりゃやべぇぞ……!」*
――1号と2号は心配になってしまった。
*「1号ちゃんも2号ちゃんも一体どうしたの?」*
ティアラは1号と2号が何を心配しているのか気になり訊きプリシラもその方向を見た。
*「『アン』は英雄の娘の名前ですが、それとは別で『英雄の妻の名前』が有るんです……」*
*「あらま!――これは修羅場の予感ね♪」*
ティアラは修羅場の予感に胸を躍らせつつも内心ユウタを暗殺する駒に目星が付いたと喜んでいた。
*(どうせ手駒が見つかったと喜んでるに違いないですわ)*
プリシラはティアラと長年の付き合いが有るからティアラの考えを完全に見破っていた。
17/18.「女神『』様が『』になられるので?」
「ところでアン様、国を造りましたら女神アン様が王になられるのでございますか?」
ユウタはアンに誰が王になるのか問題についてを訊いた。
「違うわよ!ユウタが王になるの!で、私を女神として崇めて!」
アンは自分が下界で王になるなど微塵も興味が無く自分はただティアラに合格を貰える様勇者になったユウタに国造りを任せるつもりで、もちろん自分を国教神にしてほしかった。
「畏まりました。女神アン様の為、わたくしが女神アン様の勇者として幾多の民が幸せに暮らせる国をかの地に作ってみせます」
ユウタは宣言した。
「その意気よ!私の為に頑張ってちょうだい!あとちゃっちゃと造るのよ!本当は今日中に作ってほしかったけど!特別に1週間の猶予をあげるわ!1週間も有れば造れるでしょ!」
女神は本当は今日中に、それこそ今の内に国を造ってとっとと家に帰りたかった。
*「無理よ。この宇宙に1日はおろか1週間で国を造れる勇者なんて指で数えられる程もいないのに」*
*「ですわ」*
その点についてはティアラもプリシラも意見は一致していたのだが――。
*「ですがシェイクなら……」*
*「ああ、シェイクならやりかねねぇぞ」*
――1号と2号には今までのユウタの功績を考えると可能に思えていた。
そしてもちろん1号と2号には慣れ親しんだ「シェイク」という名を例え自分が仕えている女神の命名が有ったとしてもそう簡単には上書き出来なかった。
*「それは興味深いわね」*
ティアラは優秀な1号達が信頼している程の勇者の実力がどれ程のものなのか、本当に国を造れるのか楽しみだった。
18/18.「改めて宜しくお願い申し上げます」
「はい。その様に頑張らせていただきますし改めて宜しくお願い申し上げます」
ユウタはもちろんアンの為一生懸命頑張るつもりだった。
*「ユウタさんもアンの無茶な命令をそう易々と引き受けたら駄目よ……」*
ティアラは勇者が女神の命令を何でも聞いてしまうのは良くない事だと思っていて何でも聞いていたらこの手の女神は図に乗ってしまう事を知っていたのだ。
*「そうですわね……」*
プリシラも悲劇の教訓からそう思っていて1号達は静かにティアラとプリシラの会話を同意しながらも聴いていたがティアラ達が懸念している「無理し過ぎないでほしい」という事よりもむしろアンの我がままをどんどん聞いてほしかったしそういう事を聞いてくれる人で良かったという安心感の方が大きかった。
「ええ!そうね!じゃあ!宜しくの握手よ!ほら!」
アンはユウタと握手しようと手を差し出した。
「下賤なわたくしが女神様に触れても宜しいのでございますか?」
ユウタはアンは女王や王女どころか女神でありそんな高貴な存在に自分如きがしかも奴隷の身分でもあり本当に触れてしまって良いのかと本当に悩んでいた。
「私の勇者が何細かい事気にしてんのよ!そんな細かい事気にしてたらね、近い将来禿げるわよ?ほら!」
アンには「仲良しの握手」というものが刻まれていて手を動かし握手の催促をした。
「はい。宜しくお願い申し上げます」
ユウタも素直にアンの握手に応じ手を合わせお互いに握手したのだが――。
え……!?なにこれ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……!
アンは褒められて好い気になっていたし愛着も湧いていたし初めて異性に触れた事でユウタを意識する様になってしまったのだった。
かくしてアンの勇者になったユウタは女神から「ユウタ」という名前を授かりユウタは女神に「アン」という名前を与え2人は仲良くなったのだった。
後書き
いよいよ建国へ向けて、というところですね。
ちなみにアンは国を1日か半日、もっと言えば1時間、出来れば数分で作ろうとしていたので1週間に切り替えたのは本人の成長の表れだったりします。
要するにアンは「遠慮」を初めて使ったんです。
それでも「1週間」というのは鬼スケジュールだと思いますが(汗)
またアンが立場の違いを感じてサポートモードに入ったのは青年を未開人だと認識したあたりからで、遠慮が出来る様になったのは奴隷だと知って可哀想と思ったのと同じく名前が無かった事に共感し名前を贈り合って友情が芽生えたのが一番大きいです。