[R18] 優しく俺様系で女が好きな天才新社会人、異世界を救う (JP) – 1章 2節 26話 女魔神 – 決戦 (スカーレットの視点)
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青年男性向け – ソフト – R18
第2節 異世界の女神 (第1章 勇者の村)
第 26 / 28 話
約 22,400 字 – 29 場面 (各平均 約 770 字)
1/29.「ここに『』がいるのね
ティアラはついにアベルのいる星にやってきた。
「ここにアベルがいるのね」
ティアラはやっと心が落ち着いた様な気がした。
「ああ、そうだぜ。元気に魔王やってる」
カトラスの髪も風に靡(なび)かれた。
「で、アンリちゃんも準備は出来てる?」
ティアラは暗殺者であるアンリに準備が出来ているか訊いた。
「もちろん。任せて。グッ。報酬の為に頑張る」
アンリは科学の魔法の世界の銀河と師匠であるパトリシアへのアベルによるキスの報酬を取り付けておりその為にも全力で頑張るつもりでいてグッジョブサインで応じた。
「あらそう。期待してるわよ」
「お前ならやれるぜ!」
ティアラとカトラスはアンリならジェイド暗殺を成し遂げられると期待しているがジェイドの中身はアベルであり現時点で最強の暗殺者であるアンリでさえ難しいかもしれない為その時はアンリに助け舟を出すぐらいの事は考えている。
かくしてティアラ達は各自ベアトリス星での活動を始めた。
2/29. 私は『』。
私は魔将スカーレット。
ベルナール魔王国の竜(りゅう)公の娘。
*「竜公」とは魔王国における竜人(りゅうじん)族の族長で竜人の支配地域の領主の事。*
私は――。
「貴様が魔王の息子だな!私と決闘しろ!貴様が私の夫になるに相応しい男か見定(みさだ)めてやる!」
――学園で早々に魔王子ジェイドに決闘を申し込んでしまった……。
それは仕方の無い事だ。
婚約が決定していたしな……私は栄え有る竜人族の族長の娘として例え相手が魔王子だとしても弱い男とは結婚したくなかった。
*ベルナール魔王国では時(とき)の魔王子に各種族から側室として娘を出すのが習(なら)わしだった。*
「良いよ。決闘しよう。でもその代わり僕が勝ったら仲良くしてね」
ジェイドはスカーレットの申し出を快(こころよ)く受けた。
「放課後に校内の修練場に来い。余裕でいられるのも今の内だ。覚悟していろ」
スカーレットはジェイドに決闘の時間と場所を指示し挑発した。
*スカーレットは王都から聞こえてくるジェイドの活躍や聖人君子な人物評からどんな屈強な男かと思っていたが学園で初めてジェイドが視界に入った時のまるで強者(つわもの)とは思えない様な爽(さわ)やかな好青年っぷりに心底腹が立っていた。*
私はその時で既にヒューマン達との戦いや諸貴族軍との戦いで戦功を挙げていたしアウリス大迷宮も父と一緒だったとはいえ踏破(とうは)していた。
ジェイドはそんな私からの決闘の誘いに恐れをなさぬは良しだが己と相手の力量も推し量れぬ程の弱者だとも思っていた。
しかし私は――。
「これで僕の勝ちだね。でもまた強くなって戦いたくなったら声を掛けてね」
「さっすがジェイド!最強!」
――素手のジェイドに負けた。
3/29.「お前!あれからなぜ私に何も言ってこない!」
そして何らの従属も求めず再戦には応じるという姿勢や「僕が勝ったら仲良くしてね」という要求すら履行を求めてなかった事に私は心底屈辱を覚えた。
「お前!あれからなぜ私に何も言ってこない!」
スカーレットはあれから敗者である自分に何も言ってこないジェイドに詰め寄った。
「まぁ僕は別にスカーレットさんに何か無茶な事をさせたい訳でもないし気にしないでよ」
ジェイドはベアトリスから側室を取らないと言われているしこちらから特に何かするつもりも無くスカーレットにはスカーレットの人生を歩(あゆ)んでほしいと思っていた。
くそっ……!私には女としての魅力も無いと言いたいのか……!
スカーレットはその際酷く落ち込んだがそれ以降ジェイドは仲良くしてくれて訓練にも付き合ってくれたし――。
「ジェイド殿下、私竜人族の竜公の娘スカーレットは魔将として殿下に永遠の忠誠を誓(ちか)います」
「ありがとう。スカーレットも口調はいつも通りで良いよ。これからもよろしくね」
「ああ、よろしく頼む」
――無事に魔王軍入りも果たし――。
「ジェイド殿下!わたくしスカーレットはジェイド様をお慕(した)いしています!ですからどうかベアトリス様とご結婚されましたら私とも……!」
――ある時ジェイドに告白したが――。
「嬉しいけれどそれはベアトリスの意向で難しいんだ」
――ベアトリスが側室を取らないという方針の為スカーレットの願いは無残(むざん)に散(ち)った。
*「こちら、オペレーション・デーモン。対象リジェクト」*
ベ、ベアトリス……!あの女ぁ……!
かくしてスカーレットもベアトリスの意向を理由にジェイドに断られジェイドを独り占めしようとするベアトリスに怒りを募(つの)らせた。
4/29.「今こそ『』に攻め込む時だ!」
そしてスカーレットは魔王ジェイド共に魔王対戦を戦い抜き魔王ジェイドが魔界を統一すると今度はヒューマン達との睨(にら)み合いになりヒューマンとの前線で魔王軍の作戦会議を開く事になった。
*「魔界」とは魔族領の事。*
私が魔王ジェイド様と結ばれるにはベアトリス様にも認めてもらえるだけの功績が必要なのだ……まだ足りぬのだ……。
スカーレットは功(こう)を急いでおり――。
「ジェイド!今こそヒューマン領に攻め込む時だ!」
――ヒューマンとの全面戦争を提案した。
もちろん魔族とヒューマンの因縁に終止符を打ちたかったのも有った。
「どうするの?ジェイド」
魔王妃のベアトリスもいつもの様に会議に参加しており不安そうにジェイドに今後の方針を訊いた。
「俺は魔族とヒューマンが無理に交(まじ)わる必要は無いと思っている。よってヒューマンが攻めてこない限りはこちらから攻め入るつもりも無い。そして俺は既にその旨(むね)を書き留めた書簡(しょかん)を大使を通じて各方面に送り届けてある」
ジェイドは世界を統一しようなどとは思っておらず魔族とヒューマンはお互いに干渉(かんしょう)せず平和的にやっていく方向を模索(もさく)していた。
そ、そんな……。
スカーレットはジェイドやベアトリスに認めてもらう為にも功を挙げなければいけないのに次の戦いが起こらなければ功を挙げる事すら出来ない為絶望してしまった。
「だがあいつらを見逃しても良いのかよ?あいつらは史上最強の魔王が誕生したって派兵を急いでんだぞ?それにお前の命だって何回狙われたやら」
カトラスは兵法的にヒューマン達と戦うならヒューマン達の戦力が揃いきっていない今だと思っているしヒューマン達の状況を見ているとヒューマン達は魔王討伐を諦めないだろうとも思っているし実際何度も刺客(しかく)が送り込まれてきていてその報復すらしないのもどうかと思っていた。
まぁカトラスはそれは建前(たてまえ)でジェイドが戦ってくれないとアンリがジェイドを戦場で殺す機会が生まれない為困るから煽(あお)っているのだった。
というかアンリがなかなか魔王ジェイドを討伐出来ていない為魔王ジェイドは魔界統一まで果たしてしまっていた。
「そうですよ。情報によれば各国が勇者を擁立し聖剣も13本揃えたとの事。またSランク冒険者達も冒険者ギルド本部に緊急招集されているそうです」
アーベルはカトラスの協力者である為危機を煽(あお)った。
もちろんアーベルはもっとジェイドの活躍が見たかった為ここで終戦されるのは困るのだった。
5/29.「それが俺の方針だ」
「今は侵略も報復も行わない。ただし引き続き国内外の動向に注視しいつでも動ける態勢を維持する事。それが俺の方針だ」
ジェイドは誰に何と言われようと現状から悪化させるつもりは無かった。
「御意(ぎょい)……!」
魔王軍の幹部達は全員魔王ジェイドの指示に従った。
「ヒューマン達が怖いわぁジェイド……私達は無事でいられるのかしら……?」
ベアトリスは思う存分楽しんでおり人目を憚(はばか)らずジェイドに腕を組んで甘えた。
ベアトリス……!
(このクソアマが……)
(ベアトリスさんカトラス様から恨みを買わないと良いのですが……)
ベアトリスはカトラスもスカーレットもジェイドに気が有るのは分かっているはずなのだが見せ付ける様にジェイドに甘えている為スカーレットもカトラスも心の中で密(ひそ)かに怒(いか)りの炎を燃やした。
「お前の事は俺様が絶対に守ってやる。だから心配するな」
ジェイドはあらゆる脅威からベアトリスを本気で守っている。
「ええ、信じてるわジェイド……」
(キャハハ~!ジェイド最高~!)
ベアトリスはお姫様プレイを思う存分満喫し――。
この悪女が……!
(マジでうぜぇ……まぁティアラに独占(どくせん)されるよりはマシだが……)
(私も男装を解いて加わりたいんですがね……)
――スカーレット達は地獄を味わっているのだった。
かくして魔王軍はヒューマン達に対し侵略も報復も行わない事が決定した。
*魔界が魔王対戦で大変な時にヒューマン達はこれ好機と大軍勢で攻め込んできたのだが押し返す事に成功しているもののヒューマン達によって多くの村や町が焼かれておりヒューマンと魔族の確執(かくしつ)はますます深まっている。*
6/29.「全然上手くいかないわね……」
その一方でティアラは――。
「アンリちゃんの作戦、全然上手くいかないわね……どれも素晴らしいのに……」
――アンリの素晴らしい作戦が悉(ことごと)くジェイドに潰されている為途方(とほう)に暮れていた。
「私も想定外。アベル、やっぱり強い」
アンリは師匠のパトリシアがアベルを終始(しゅうし)暗殺出来なかった訳を実感させられていた。
「でもどうすんだ?今更あたしにも殺せねぇぞ?」
ジェイドの実力は既にSSSSランクの魔神に到達しており世界神でありながら戦神でもあるカトラスさえをも上回っていた。
「大丈夫。まだ手は有る。今友達に新しい魔道具を作ってもらってる。もうじき出来上がるはず」
アンリにはまだジェイドを葬(ほうむ)り得(う)る秘策が残っていた。
「何をするのか訊いても良いかしら?」
ティアラはアベルの魂を持つジェイドと何も知らずにお姫様プレイを満喫しているベアトリスのラブラブな毎日を見せ続けられ続けていて気の長いティアラでもさすがに焦(あせ)りが見え始めておりアンリに次の作戦を訊いた。
「お、あたしも気になるぜ」
カトラスにはジェイドを殺す方法が全く思い付かない為この様な状況でも秘策が有りそうな口ぶりのアンリの口から次なる一手を訊きたかった。
「良いよ。教えてあげる。次はいよいよ増強装置を使う」
アンリはティアラ達に使う魔道具を明かした。
「増強装置ねぇ……私達が戦うの……?」
ティアラはアンリが私達に戦ってもらおうとしているのかなと気になった。
「もちろん違う。私はお客さんに戦ってもらうなんて事はしない」
アンリにも暗殺者としてのプライドが有る為お客に戦ってもらう様な事は絶対にしない。
「そう。でもそもそもSSSSランクの勇者なりをぶつけるんじゃ駄目なの?SSSSランクの魂なら勇者ローズを貸せるわよ?」
ティアラは高ランクの魂には高ランクの魂をぶつけたら良いのではないかと思っていてちょうどSSSSランクなら勇者ローズを所有している為いよいよ出番かなと思いレンタルを申し出てみた。
「お、そういう事ならあたしもSSSSの勇者エルミラを貸すぞ?」
カトラスもSSSSランクの勇者を所有している為こういう状況だし貸しても良いと思っている。
「多分勇者じゃ勝てない。魔王でも魔神でも勝てない。もちろん私にも世界神様達にも無理。でも増強装置を使えば絶対に殺せる」
アンリはもう最強のジェイドを殺すには増強装置を使うしか無いとすら思っていた。
「そう……」
ティアラはジェイドの死に方としては純粋な戦いで死なせてあげたかった。
「ま、魔道具で殺(や)れるっつーんなら見せてもらおうじゃねぇか!」
カトラスは自信有り気(げ)なアンリを信じた。
かくしてアンリの魔王ジェイド殺害計画は次のフェーズに移ったのだった。
7/29.「『』が残ったら良いと思うんだがどうだ?」
そしてアンリの計画が始動しカトラスは――。
「なぁジェイド、前線にはあたしとスカーレットが残ったら良いと思うんだがどうだ?」
――ジェイドに自分とスカーレットが前線に残りたいと申し出た。
「わ、私もか……!?」
スカーレットは急な事で驚いた。
「ああ。あたしとスカーレットが残ったら前線の心配は無いだろ?」
カトラスは何としてでもスカーレットと前線に残りたかった。
「ねぇ、貴方達がヒューマン達に何もしないって誓(ちか)えるの?」
ベアトリスはカトラスもスカーレットも好戦的な事が分かっておりジェイドの命令を無視して何かを仕出(しで)かしてしまうのを懸念(けねん)していた。
「あたしは誓(ちか)えるぜ?」
カトラスはもちろん侵略も報復もするつもりは無かった。
「わ、私も誓える!」
スカーレットもジェイドの命令に逆らうつもりは無かった。
「――なら私も彼女達をここに残しても良いと思うわ」
ベアトリスはカトラス達がジェイドに気が有る事は分かっているしここらでミスを仕出(しで)かしてくれれば糾弾(きゅうだん)する材料にもなるし前線に残るのが結果的に成功でも失敗でもどちらでも良かった。
「スカーレット、カトラスは残りたいそうだがお前はどうなんだ?」
相手の気持ちを無視出来ないジェイドはスカーレットが残りたいかどうかを本人の口から聞くまでは判断出来ない為残りたいか訊いた。
「誰かが残らなければいけないと思うしカトラス殿が私を指名してくれたのも嬉しい。もちろん私も残っても良い」
スカーレットは功を急(せ)いているしヒューマン達が攻めてくるなどのハプニングに期待するなら前線に残るのが良いと思っている。
「分かった。ならスカーレットもカトラスも残って良いぞ。ただし無理はするなよ」
ジェイドはカトラスとスカーレットがそう言うのならと前線に残るのを許可した。
「御意」
スカーレット達は肝(きも)に銘(めい)じた。
かくしてアンリの希望通り前線にスカーレットが残る事になった。
8/29.「本日お集まり頂いたのは他でもない」
そしてアンリはヒューマン陣営がある特殊な首飾り型の魔道具「GRAD-S4」を難民の女の子に持たせ敵側の前線にいる赤髪の魔将スカーレットに助けてくれたお礼にと強くなれる首飾りと謳(うた)って贈り装着させ暴走させその隙を突いて攻め込む。この魔道具は魔将スカーレットに持たせる事が出来れば必ず作動する。もちろん情報統制は成功しておりこの事は魔族側には知られていないし必ず成功するという作戦が有るという噂話を流し実際に魔道具「GRAD-S4」を見付けさせた。
*「GRAD-S4」はガイダンス(誘導)・ラナウェイ(暴走)・アウグメンテイション・デバイス(増強装置)-S4(=SSSSランク)からきている。*
「本日お集まり頂いたのは他でもない。この魔道具『GRAD-S4』についてだ」
「それはまさか……我々のヒューマン最終兵器と噂の……?」
「実在していたというのか……」
「胡散臭(うさんくさ)いわね……」
「噂ではそれを魔将スカーレットに持たせるそうだが……」
「これはとりあえず連合軍の司令官に渡してみるのはどうだろうか……」
ヒューマン達の支配者は誰が考えたのかも分からない噂話をヒューマン側のどこかの勢力が動いているのだろうと疑心暗鬼になりながらもしかし自分の口からは言えないのだろうと納得し実行に移していった。
そしてついに魔道具「GRAD-S4」がスカーレットの目の前にやってきた。
「お姉ちゃん。助けてくれてありがとう」
何も知らずに魔道具「GRAD-S4」を持たされている難民の女の子がスカーレットに感謝を述べた。
「良いんだ。気にするな。困っている時はヒューマンだろうと魔族だろうと関係無い」
スカーレットは竜人族であるが相手がヒューマンでも困って入れば助ける優しい性格だった。
*「本当に上手くいくのか?」*
*「上手くいくと信じるしか無いだろう」*
難民に紛(まぎ)れ込んでいたヒューマンの工作員達は固唾(かたず)を呑(の)んで見守った。
「ねぇ、赤髪のお姉ちゃんにこれあげる。強くなれる首飾りなんだって。付けてみて」
無垢な子供はスカーレットに魔道具を贈り付けてみてほしかった。
「ありがとう。でもこんな高価な物私は受け取れないぞ」
スカーレットは子供から高価な物を受け取る事が出来なかった。
9/29.「お願い『』……」
「お願いお姉ちゃん……」
子供はスカーレットにウルウルとした上目遣いでお願いした。
「分かった。――こうか?私はどうもこういうアクセサリーというものには疎(うと)くてな。――どうだ?似合ってるか?」
スカーレットは子供にお願いまでされてしまった為贈り物を受け取ると実際に付けてみた。
「うん。似合ってる」
無垢な子供は素直な感想を述べた。
*「おい!ついに付けたぞ!」*
*「あの魔道具はちゃんと作動するのか?」*
工作員達は魔道具がちゃんと作動するのか不安だったが――。
「あ……あ……」
スカーレットには自分の手には負えない程の魔力がみなぎってきて――。
「お、お姉ちゃん……!?」
――子供は様子がおかしくなったスカーレットを心配そうに見つめて――。
「おい!どうしたスカーレット!大丈夫か?なんだか様子がおかしい。スカーレットの魔力が暴走している気がする。ガキも周りの奴らもとにかく離れてろ!」
――スタンバイしていたスカーレットは大根にならない様に何度も練習していた台詞(セリフ)を繰り出した。
「うあああああああああ!」
――ついに自我を失ったスカーレットは暴走を始めた。
*「成功したぞ……!」*
*「やはりあの噂は本当だったのか……!」*
工作員達は作戦が成功した事で歓喜したのだが――。
*「お、おい……!あっちはヒューマン領じゃねぇか……!」*
*「何てこった……!急いで知らせなければ……!」*
――想定外の事に暴走したスカーレットはヒューマン領へと暴走していってしまったのだった。
10/29.「『』が物凄い早さでこちらに向かってきます……!」
そしてヒューマン側の城塞では前線部隊が出撃の合図を待っており――。
「隊長……!魔族領側から赤髪の女が物凄い早さでこちらに向かってきます……!」
――監視兵が魔将スカーレットを目視し――。
「何だと……!?――た、大変だ……!」
――監視隊長が急いで確認すると暴走したスカーレットがヒューマンを襲いに来たのだと察した。
*アンリがソニアに作らせた魔道具は送信機と受信機の2種類が有りスカーレットの手に渡ったのは受信機で装着した者は送信機のもとまで自我を失いSSSSランクまで力が増強された状態で暴れながら誘導される様になっている。*
そして自我を失ったスカーレットはヒューマンの兵士達を薙(な)ぎ倒し暴れ回りながら送信機へと向かっていった。
一方その頃ジェイドの近くにいたアーベルが――。
「陛下!大変です!スカーレット殿がおそらく魔道具により自我を失って暴走しヒューマン領へ!そして各地の前線でヒューマンからの侵攻が確認されました!」
――ジェイドに緊急事態を告げた。
「ジェイド……どうするの……?」
ベアトリスはジェイドの考えが聞きたかった。
「俺はスカーレットを止めに行く。アーベル達は魔王軍を指揮してヒューマン達を食い止めて元の位置まで押し返してくれ。もちろんこちらから侵攻はするな。良いな?」
ジェイドはヒューマンの侵攻は部下に任せて自分はスカーレットを止めに行きたかった。
「ジェイド……私も行くわ……」
ベアトリスは何(なに)か嫌な予感がして自分もジェイドと共に行きたかった。
「駄目だ。アーベル、ベアトリスの事は任せたぞ?」
ジェイドはベアトリスの護衛をアーベルに任せた。
「分かりました。御武運を」
アーベルは本当はジェイドの有志を見届ける為に自分も行きたかったがさすがに指示通りにベアトリスの護衛を優先した。
「ジェイド……!」
ベアトリスがジェイドを呼び止めようとしたがジェイドは行ってしまった。
そしてベアトリスは――。
「アーベル、貴方は彼の活躍を見守りたいんでしょ?」
――女神として神アーベルに話し掛けた。
「はい。そのつもりでこの星に来ました」
アーベルも神として本音で答えた。
「ならジェイドのもとに行きましょう。魔王軍の指揮は部下に任せれば良いわ。もとよりジェイドの組織編成は完璧で総司令官がいなくても各自で対応出来るのよ。それにこれは私の頼みでもあるの。ジェイドのもとまで行きましょう。そして護衛して」
ベアトリスはアーベルに頼んだ。
「仕方が有りませんね。行きましょうか」
アーベルはベアトリスにかつてお願いをした身でありベアトリスから移動と護衛を頼まれたら断る訳にはいかなかった。
かくしてジェイドは自我を失いヒューマン領へと向かってしまったスカーレットを止める為に自分もヒューマン領へと向かい、ベアトリスも何(なに)かジェイドの助けになればという思いで女神として神アーベルに移動と護衛をお願いしたのだった。
11/29.「『』は成功です!」
そしてヒューマン側でも――。
「魔道具は成功です!当初の計画通り魔将スカーレットが暴走しているとの事!」
――スカーレット暴走の一報が入った。
「それは誠(まこと)か!それでは侵攻も始まっているのか?」
――諸王からの推薦で選ばれた連合軍の総司令官クライド・ブラッドリー公爵は魔道具の成功に興奮し侵攻の状況も訊いた。
*クライドはアンリ側がもたらしたSランクの英雄でありアンリの目論見(もくろみ)通り平民から立身(りっしん)出世を果たし連合軍の総司令官になっている。*
「はい。始まっているとの事。我が連合軍は各地で戦線を突破しています」
連合軍の参謀(さんぼう)が侵攻が始まっている事もクライドに報告した。
かくして総司令部は歓喜に包まれたのだが――。
――しばらくすると悲報が入ってきた。
「総司令官!大変です!暴走した魔将スカーレットがヒューマン領に進行中との事!」
参謀がクライドに悲報も伝えた。
「な、何だと……被害状況は?」
クライドは冷静に被害状況を訊いた。
「魔将スカーレット方面の部隊や都市は次々に壊滅。脅威度は魔王級との事」
スカーレットは抵抗してくる者達や邪魔な城壁や建物を次々に破壊していた。
「魔王級だと……どうしてこうなった……」
クライドは暴走した魔将スカーレットが必ずしも魔王領側で暴走するとは限らなかったし当然ヒューマン側に暴走してくる可能性も有ったし失敗した場合や暴走後の解除方法などについても全く考えずにその時間を全(まった)く与えてくれずにゴーサインを出した上の連中の杜撰(ずさん)さも含めてこの現状に頭を抱え総司令部は焦(あせ)りに包まれた。
そしてクライドは――。
「差し向けられる全軍をもって魔将スカーレットを止めろ。そして私も向かう」
「ブラッドリー司令官!」
――魔将スカーレットへの兵力の差し向けと自らの出撃も決断した。
かくして暴走した魔将スカーレットによりヒューマン領は大変な事になってしまった。
12/29.「この『』が……!」
そしてジェイドが建物が破壊されていて兵士達も倒れていて凄(すさ)まじい魔力が放(はな)たれてくる方へと赴(おもむ)くとそこには瓦礫(がれき)と化(か)した街並みの中にヒューマンの勇者達や英雄達が束(たば)になって挑んでいるという状況でほとんどは力尽き倒れているのだが凄まじいオーラを放つスカーレットが無傷の状態で彼らと相対(あいたい)していて――。
「この化け物が……!」
「私達が束(たば)になっても歯が立たないなんて……!」
「狼狽(うろた)えるな……!あの首飾りさえ取れれば……」
Sランクの勇者達と英雄達は必死に戦っていたのだがスカーレットには傷一つ付ける事が出来ずにいて――。
「もう駄目だ……!」
「魔王が来たぞ……!」
「魔王ジェイドだ……!」
――ジェイドが現れた為全員が絶望し死を覚悟した。
「ジェ……イド……」
かすかに自我が残っていたスカーレットはヒューマン達が首を向けたジェイドが現れたという方を見た。
「ヒューマン共。ここは俺が引き受ける。お前達は負傷者と市民を連れてさっさとここを離れろ」
ジェイドはヒューマン達に避難する様に言ったのだが――。
「だ、誰が魔王の言う事を信じる……!」
「きっと私達を油断させる為に言ってるのよ……!」
――魔王に対して強い猜疑心(さいぎしん)を持っているヒューマン達はジェイドの言った事を信じられなかったのだが――。
「分かった。ここは魔王に任せて俺達は引くぞ」
――連合軍の総司令官クライドは魔王ジェイドは他の魔王とは違って人格者な事を知っているしどうせ自分達がいくら戦ったところでスカーレットには全く歯が立たない事は分かっているしジェイドの言う事に従う事にした。
13/29.「お前本気か……?」
「クライド!お前本気か……?」
Sランク冒険者のグレンはクライドの正気を疑(うたが)った。
「本気だ」
クライドはもうヒューマン達の存亡(そんぼう)を魔王ジェイドに託(たく)すしか無かった。
「分かったよクライド。僕らは負傷者を連れて戦場を離脱する」
勇者パーティー「聖具の集(つど)い」リーダーのリアスは聖剣を鞘(さや)に納(おさ)めてクライドの判断に従う事にした。
*勇者パーティー「聖具の集(つど)い」はメンバー全員が聖具と呼ばれるSランクで聖属性の武具や防具を装備しているヒューマン領最強の勇者パーティーでSランクダンジョンをいくつも踏破(とうは)している程の実力を持つパーティーなのだが他のSランク達と束になってもSSSSランクの手加減をしているスカーレットにまるで歯が立たなかったが決して弱い訳ではなかった。*
*またスカーレットが現在出力(しゅつりょく)している力のランクはSSSランクであり魔神クラス。*
「おい!リアス!本気かよ!」
「私達じゃどっちみち殺されるだけよ……」
「ちっ……しゃぁねぇな……」
勇者パーティー「聖具の集(つど)い」は離脱を決意した。
「我らも離脱する」
「クライド殿が言うのなら我が騎士団も撤退する」
「こうなれば下賤(げせん)な魔族共に任せるしか無いか……」
「我らも負傷者の手当てに当たる……」
ベアトリス聖教会修道騎士団もレイサム王国宮廷騎士団もテラストの森・エルフ王国のエルフ精霊魔導士隊もウル獣人王国の獣人戦士団も魔将スカーレットの事を魔王ジェイドに任せて戦場を離脱し負傷者の救護や市民の避難誘導に当たる事にした。
かくしてクライド達は引き魔将スカーレットの事は魔王ジェイドに任せた。
*総司令官クライドは魔王ジェイドの言う事に素直に従いましたがスカーレットに魔道具を持たせたのはヒューマン達である為これ以上魔王ジェイドの怒(いか)りを買いたくないという打算も有りました。*
14/29.「一体どうしたんだ?」
「スカーレット、一体どうしたんだ?」
ジェイドはスカーレットに相対(あいたい)し一体どうしてしまったのかと訊いた。
「ジェイド……見れば分かるだろう……?私はヒューマン共と戦っているのだ。で、この活躍で私はジェイドの側室になれるのか……?」
スカーレットはアンリによって誘導されているのだが最小限の自我は残っており活躍する事で認められて側室になりたいという感情が根源になっていた。
「それでもベアトリスは認めないだろうな」
ジェイドはベアトリスのこれまでの言動や性格を鑑(かんが)みても絶対に認めないだろうという事を察していた。
「ならあの女を殺す……今の私なら殺せる……」
スカーレットは魔道具により興奮状態になっておりジェイドと結ばれる為にベアトリスが邪魔になるのならベアトリスを殺せば良いと考えてしまった。
「それも駄目だ」
ジェイドはそれも受け入れる事は出来なかった。
「何故(なぜ)だ……!」
スカーレットは激昂(げっこう)した。
「先(ま)ずお前はその首飾りの魔道具により冷静さを失ってしまっている。それにどういう訳かお前自身の強化までされている様だ」
ジェイドは先(ま)ずスカーレットに自分が首飾りの魔道具の影響を受けている事を自覚させようとした。
「そんな事はもう分かっている。凄(すさ)まじい力だ……。今の私ならお前をも上回っているかもしれない」
スカーレットは自分が魔道具により冷静さを失っている事は分かっているし自分が望んでいない事をしてしまっている事も分かっているのだがもはや自分でコントロール出来る状態ではなかった。
その一方でティアラ達はアンリも近くにいる状態で皆(みな)透明化し気配(けはい)もゼロにしている状態でジェイド達を見守っているのだが――。
「おい、ティアラ。あたしはもう見てられねぇよ……」
――カトラスは少しの間だったとはいえ同僚で指導もしたもはや弟子(でし)でもあるスカーレットが魔道具によりほとんど自我を失いそのスカーレットと相対(あいたい)している愛してやまないジェイドがお互いに辛そうにしている光景を見ていられなかった。
「大丈夫よ。彼はアベルよ?必ずや何とかしてくれるはずよ」
ティアラはアベルならどうにかしてくれると絶対的な信頼を寄せている。
「そ、そうだよな……」
カトラスはティアラに言われて希望を見出(みいだ)した。
「でもジェイド君が死なない形で解決されちゃ困るけど」
ティアラ達にとっての成功とはアベルの魂を手に入れる事でありティアラとしては救われるエンディングでありながらもジェイドには絶対に死んでほしかった。
「そうなんだよな……」
カトラスはあまりの難しさに頭を抱えたが――。
「ジェイドは必ず死ぬから任せて」
――アンリは自信満々なのだった。
15/29.「とりあえずその『』を外せ」
そして場面はジェイド達に戻りジェイドは――。
「とりあえずその首飾りの魔道具を外せ」
――スカーレットに魔道具を外す様に言った。
「それは出来ない……したくても出来ない……」
魔道具に操(あやつ)られているスカーレットには自らの意思でその魔道具を取り外す事が出来なかった。
「なら俺が外してやる」
ジェイドはそう言ってスカーレットに近付こうとしたのだが――。
「く、来るな……!」
――ジェイドに剣を向け拒否反応を示した。
「ならその剣を下ろして魔王城に帰るぞ」
ジェイドはスカーレットに近付けないのならと戦闘をやめさせ共に魔王城へと帰還しようとしたのだが――。
「それは出来ない。まだ終わっていない」
――スカーレットはまたもやジェイドの言った事を拒否した。
(まだ終わってないから帰せない)
ジェイド達の近くにいるアンリはスカーレットが装着している首飾りの魔道具の送信機であるリモコンを握りながらスカーレットの精神すらも誘導していた。
*この魔道具は正確には精神操作の魔道具でありそれに魔力増強などのオプションが機能として追加されているに過ぎない。*
*またこの魔道具を装着した者がSSSSランクの力を手にする様にするなどはそう簡単な事ではなく科学と魔法の世界のティアラとカトラスという軍資金最強のパトロンと報酬として1兆銀河の10分の1が手に入るからこその、アンリの引退試合だからこその連日の寝る間(ま)も惜しんでの努力で作り上げた最高傑作だった。*
*またもちろんそれだけの魔力を封じられる程の最高クラスの魔晶石と魔力の購入にティアラとカトラスの費用持ち(原資はもちろんアン達の商会からの上納金(じょうのうきん))で大金が投じられている。*
「ならいつになったら終わる?何を成(な)し遂(と)げれば終わる?」
ジェイドはならどうすればスカーレットは満足するのかを訊いた。
「それはもちろんヒューマン共が再起不能になるまでの壊滅的な打撃を与えるまでだ」
スカーレットにはもう破壊衝動を抑えられなかった。
「そうはさせないぞ」
ジェイドはこれ以上ヒューマンもスカーレット自身も傷付いてほしくなかった。
「なら私を止めてみろ。私を殺せ」
スカーレットにはもう自分を止める方法は死以外に無いと思っていた。
16/29.「続けたいなら俺様を『』してからにしろ」
「それは俺様のセリフだ。続けたいなら俺様を殺してからにしろ」
ジェイドはスカーレットと戦う覚悟を決めると剣を抜いた。
「良いだろう。後悔するなよ」
スカーレットは強くなった自分がどれだけジェイドに通用するかを気になっていたし興奮状態の為ベアトリスに取られてしまうぐらいなら自分でジェイドを殺し相討ちになりたいと思っていたし自分も戦闘準備態勢に入った。
「お前こそ後悔するなよ?」
ジェイドはスカーレットの方こそ後悔してほしくなかった。
「後悔なんてするものか。いざ参る!うおおおおおおおおお!」
スカーレットは全身に魔力をたぎらせるとジェイドに高速で斬り掛かった。
するとカキン!カキン!という音と共に双方の剣が交じり合った。
「強くなったな」
スカーレットは魔道具の効果によりジェイドと斬り合える程になっておりジェイドはスカーレットを褒めた。
「これは私の実力ではないからな。褒められても嬉しくはない」
スカーレットはこれを自分の実力とは思っていなかった。
「そうか。――加速」
ジェイドは加速し魔道具を一瞬にしてスカーレットの首から外そうとした。
「遅いな」
しかしスカーレットはその動きを目で追えておりそのスピードに対応し首飾りを外そうとしたジェイドの腕を掴んだ。
「ふん」
(駄目だな。これはもう壊すしか有るまいか)
スカーレットに腕を掴まれてしまったジェイドは貴重な首飾りを壊すしか無いかと思いつつ振り払って後ろへ距離を取るようにして飛んで離れたがその際スカーレットは素直に掴んでいた手を放してくれた。
そしてジェイドは出来れば魔道具を無傷で回収したかった。
そもそもジェイドは自分が神の域に達している事は自覚していてその自分と互角という事は相手も神の域に達しているという事でそれを可能にした魔道具はまさしく神級でありそれを破壊してしまうのはこの世界にとっての損失だと考えなるべく無傷で手に入れたかったのだ。
「仕方有るまい。グラビティプレス」
ジェイドは手の平(ひら)をスカーレットの首の魔道具へと向け重力魔法により重力で対象を押し潰すグラビティプレスを発動した。
「グラビティキャンセル」
しかしスカーレットは魔神の域に達している為容易(たやす)くジェイドのグラビティプレスをキャンセルしてしまった。
17/29.「『』などいつの間に覚えた?」
「スカーレット、重力魔法などいつの間に覚えた?」
スカーレットは剣士であり魔法は邪道だと考え一切使っていない程だったのだが魔王相手に重力魔法のキャンセルまで出来る様になっていてジェイドは驚いた。
「この首飾りを身に着けてからだろうな。今の私ならどの様な魔法でも使えるし逆に防(ふせ)げるだろう」
スカーレットが装着している魔道具にはあらゆる武術や魔術を自動的に教育するプログラムも仕込まれていた。
*ここまで多機能かつ強力な魔道具を作れるのはこの魔法の世界ではソニアの師匠ハンナを除いてソニアしかいない。*
ただ装着者は強くなれるもののリモコンを持っているアンリに操(あやつ)られてしまう為意地悪な魔道具だった。
「ジェイド!」
そしてジェイド達が戦っている時にベアトリスも到着しジェイドの名を呼んだ。
(よし!間に合いました!)
もちろんベアトリスと共に魔将アーベルも来ているのだが今のスカーレットは本来の神モードの自分と互角ぐらいだしというかもしかしたら自分よりも強いかもしれないのだがそもそも自分はジェイドの有志が見たいのであって自分が戦ったら本末転倒(ほんまつてんとう)である為ベアトリスにお前も加勢(かせい)しろ!と言われてしまわない様に黙っているのだった。
なぜなら自分もこの目でアベルの雄姿を見届けたかったからだ。
そしてアーベルは有ろう事か長年勇者としてやってきたアベルが魔王に、しかも既に魔神の領域に達しておりそして相対するは部下の魔将なのだが魔道具により同じく魔神の領域に達しており両者が死闘を繰り広げているという状況にアベルがどうやって打開(だかい)策を見出(みいだ)すのかという展開に物凄く興奮していた。
なぜならアーベルはアベルの大ファンだし楽しみにしていた勇者アベル物語がエンディングもうやむやのまま途切(とぎ)れているうえにアベルにも出会えずずっとお預けを食らっている状況なので仕方が無いのだ。
「ベアトリス、来るなと言っただろう」
ジェイドはベアトリスがどうしてこんな危険な場所まで来てしまったのかと憂(うれ)いた。
なぜならスカーレットが暴走中であるし何よりヒューマン領である為ヒューマン達から攻撃されかねないからだ。
「だってジェイドの事が心配だったからよ!それとジェイド!そいつと戦っちゃ駄目よ!」
ベアトリスはジェイドが戦っているスカーレットが自分が持つ魔力よりも強力な魔力を放っている魔道具を身に着けている為ジェイドにスカーレットと戦わないでと叫んだ。
そしてもちろんベアトリスの到着が早かった為ジェイドの中でベアトリスは只者(ただもの)ではないのではないか?という疑念が生まれてしまったしベアトリスもそうなってしまう事が分かっていてもジェイドの助けになりたかった為この早さで駆け付けてしまった。
「ベアトリス、俺がなぜスカーレットと戦ってはいけないのだ?」
ジェイドはあのあまり魔法や武術や強くなる事に感心の無いベアトリスがまるで強敵を見分けられる強者(つわもの)の様にスカーレットが危険な領域に達していると分かっていた為さらなる疑念を生んだ。
「そいつはもう神の域に達しているのよ!魔神なの!」
ベアトリスはジェイドに死んでほしくなかった為魔神の領域に達しているスカーレットと戦ってほしくなかった。
「分かっている。だが俺様が引けば誰があのスカーレットを止められるというのだ?」
ジェイドはこの強化され魔神の領域に達してしまっているスカーレットを止められるのは自分だけだと思っているしその為引く訳にはいかなかった。
「で、でも……!」
ベアトリスはわざわざジェイドが戦わなくてもヒューマン達のハイランクの者や魔将達に戦わせれば良いと思っていた。
18/29.「私と戦っている最中に『』と会話するとは」
「ジェイドよ、私と戦っている最中にベアトリスと会話するとは。妬(や)くぞ」
ジェイドとスカーレットは常に剣を交(まじ)えているのだがその最中にジェイドが憎きベアトリスと会話していた為嫉妬(しっと)し剣に紅蓮(ぐれん)の炎を纏(まと)わせ全力の一撃を食らわせた。
「それはすまなかったな。だが想定外の観客だ。対応せざるを得まい」
ジェイドはベアトリスが来てしまったのは望んでいない事だし声を掛けられた以上は対応せざるを得ないと思っているしスカーレットの一撃を振り払った。
「そうだ、な!」
スカーレットは再び重たい一撃をお見舞いしてきた。
「スカーレット!もうそんな事はやめて!」
ベアトリスはスカーレットにやめる様に言った。
「私はやめない……。やめられない……。この首飾りの魔道具が私を駆り立てるのだ……!」
スカーレットはジェイドにSランクやSSランクの勇者では太刀打(たちう)ち出来ない様な一撃や連撃、魔法攻撃まで繰り出した。
「そ、そんな……」
ベアトリスはスカーレットが魔道具によっておかしくなっている事もそれを外す事が出来るのならジェイドがもうやっているだろう事もスカーレットが功を急(せ)いていた事も分かっていてスカーレットを止めるにはジェイドがスカーレットを殺すしか無いのだと思い知らされた。
「ドラゴンブレス……!」
竜人族であるスカーレットが持つ種族能力であるドラゴンブレスを奥義として溜め込んでおり聖盾すら貫かれてしまう程の威力でジェイドに放った。
「ジェイド……!」
ベアトリスはジェイドには耐えられないと思って叫んだ。
「この程度俺様には効かん」
しかしジェイドには傷1つ付いていなかった。
「良かった……」
ベアトリスはジェイドが無事でほっとした。
その一方でティアラ達は――。
「すげぇ。今のは最終奥義クラスのだろ。さっきのヒューマン共だったら間違い無く丸焦げになってたぞ」
カトラスは魔神になったスカーレットが放ったドラゴンブレスの威力に感心した。
「そうねぇ……でもジェイド君には傷一つ付いてないから……」
ティアラにはスカーレットの戦闘力はSSSでありSSSSのジェイドにはまだ遠く及(およ)ばないと思っていた。
「大丈夫。任せて。あの魔道具の真価はあんなものじゃない。ポチっとな」
アンリは現状のスカーレットでもジェイドに歯が立たないと分かり秘策であるスカーレットの肉体の限界を超えて魔力を供給し続けるプログラムのボタンを押した。
19/29.「もはや『』を開放するしか有るまい」
そしてジェイド達は――。
「私のドラゴンブレスですら傷一つ付かぬとは……これでは埒(らち)が明かぬな。もはや私の真の力を開放するしか有るまい。うおおおおおおお!」
埒が明かないと思ったスカーレットが魔道具の力を全開放し凄(すさ)まじいオーラを身にまとった。
(いやぁ、非常に面白いね。落札出来なかったけどこれはこれで面白い)
生粋(きっすい)の勇者コレクターで闇オークションの際にティアラとカトラスのせいで落札出来ず悶々(もんもん)としていた時空神クロノスもポップコーンをボリボリと食べながら鑑賞していて文字通りの死闘が見られそうだと興奮してきた。
その一方でティアラ達は――。
「ねぇ、アンリちゃん。本当にそれで良いの?」
ティアラはアンリに話し掛けた。
「良い。ジェイドを殺すにはもうこうするしか無い。師匠には怒られるけど私は師匠を助けたいから」
アンリだって道徳や倫理に反(はん)している事は百(ひゃく)も承知(しょうち)なのだがジェイドには全ての作戦を阻止されてきた為もうこうするしか無かった。
「スカーレット……」
カトラスはスカーレットをただただ見つめている事しか出来なかった。
そしてジェイド達は――。
「スカーレット、その力を使う意味が分かっているのか?」
ジェイドはスカーレットの覚悟を訊いた。
「ああ、分かっている。お前を殺すにはここまでしなければいけぬのだ……!」
SSSSランクの力を手に入れたスカーレットはこれまでとは比べ物にならない程の早さと重さで連撃を繰り出した。
「ジェイド……!」
ベアトリスはパワーアップしたスカーレットに今度こそジェイドが殺されてしまうのではないかと心配になった。
そしてベアトリスはジェイドを助ける為に参戦したかったのだがそうすればジェイドに自身が只者ではなく最悪の場合女神な事がバレ自分が今まで築(きず)き上げてきた可憐(かれん)なお姫様や王妃様像が崩(くず)れ去りジェイドに嫌われてしまう事が怖くて行動に出られずにいたのだが――。
(何をやっているの私……ジェイドが死んでしまったら元も子も無いのよ……)
――魔法を行使しようかと思っていると――。
「大丈夫ですよベアトリス様。彼はジェイド様なのですから。必ずや難局を乗り越えてくださります。むしろ邪魔をしない方が宜しいかと」
アーベルはベアトリスがアーベルに加勢しようとしている事に気付いたがアーベルもまたジェイドが数多くの危機を乗り越えてきたのを見てきている為ジェイドなら必ずや大団円(だいだんえん)を迎えさせてくれるだろうと絶大的な信頼を置いておりそれにジェイドとスカーレットの対決を邪魔するべきではないとも思っていたから邪魔をしない方が良いと忠告した。
「そ、そうよね……」
ベアトリスは自分のジェイドがアーベルにこれ程まで信頼を寄せられていたのだなと嬉しかったし加勢というジェイドの邪魔になる様な事を踏み留(とど)まれて良かったと思った。
20/29.「縮地(しゅくち)、からの『』!」
そしてSSSSランクの魔神同士の死闘が始まった。
「縮地(しゅくち)、からの紅蓮斬舞(こくせんざんぶ)!」
スカーレットは火属性の爆発も付与した10連撃を繰り出した。
「光覇十字裂斬(こうはじゅうじれつざん)」
ジェイドもスカーレットに剣術で応じ十字に斬り裂き光の衝撃波を放った。
「お前は昔から魔族の癖に光属性の技をよく使っていたな。紅蓮連閃(ぐれんれんせん)!」
スカーレットはジェイドの攻撃を受け止めると炎を纏(まと)った連撃を放った。
「確かにそうだったな。まぁ俺はどの属性も使うが。しかしお前こそ炎が好きだな。凍月斬(とうげつざん)」
ジェイドは昔を懐(なつ)かしみながらスカーレットに氷属性で冷気を纏(まと)った月の形の斬撃を繰り出した。
「私は火属性の竜人だしお前が私の炎を美しいと褒めてくれたからな。しかし今では私もお前と同様に、氷華乱舞(ひょうからんぶ)!他(た)の属性の技も使えるぞ」
スカーレットはジェイドが剣に纏(まと)わせた炎を美しいと褒めてくれた事を覚えていてジェイドが氷の剣技を繰り出してきた為自分も氷属性の氷の花弁(はなびら)が舞う様な剣技を繰り出した。
「俺もお前の得意な炎の剣術で答えてやるとするか。灼閃一刀(しゃくせんいっとう)!」
ジェイドは火属性の強烈な一撃を繰り出した。
「ふっ……重いな……」
スカーレットは受け止め切ったが後方へ吹っ飛ばされた。
「ならそろそろ降参してくれないか?」
ジェイドはスカーレットに降参を迫(せま)った。
「それは出来ない!お前は分かっているだろう!天から降(ふ)り注(そそ)げ無数の剣(つるぎ)!エレメント・ソード!」
ジェイドに対し火や氷、電気、鋭利(えいり)なアダマンタイト、光、闇属性の剣(つるぎ)を無数に放った。
「そう言うと思ったぞ」
ジェイドはスカーレットの魔法をなんとか防ぎ切った。
「縮地(しゅくち)、からの紅蓮薙斬(ぐれんなぎざん)!」
スカーレットはジェイドに休息を与えない様に煙(けむり)で視界が悪くなっている状況で魔法攻撃の直後に紅蓮の炎を纏(まと)った剣で薙(な)ぎ払った。
「危ないな……」
ジェイドは地面に剣を突き刺す事でカキン!とスカーレットの薙ぎ払いを受け止めた。
*ジェイドが恐怖を感じたのは正しい判断でありもし直撃していたら鎧(よろい)ごと斬り裂かれていた。*
21/29.「こんなものではないぞ!」
「こんなものではないぞ!」
スカーレットは続けてハイキックを繰り出してきた。
「そうだったな。お前は武芸にも秀(ひい)でていた」
ジェイドはスカーレットのハイキックを腕で受け止めた。
「そうだ」
スカーレットは続けて反対側の足でハイキックを繰り出しそれも腕で受け止められてしまうと反対側の手で腹パンを繰り出した。
「おっと、これも危ないな」
ジェイドはスカーレットの腹パンも何重(なんじゅう)にも強化した手の平(ひら)で受け止めた。
*ジェイドはスカーレットに向き合う為スカーレットの攻撃は全て避(よ)けずに受け止めている。
そしてお互いに自分が持ち得る剣技、魔法、格闘術などを繰り出した。
「楽しいなジェイド!」
スカーレットは戦いを楽しんでいた。
「そうだな」
ジェイドも互角の相手と戦うのは楽しかった。
かくしてジェイドとスカーレットは街を破壊しながらお互いに剣は折れ、鎧(よろい)は砕け、全身傷と痣(あざ)だらけになり、流れる血が片方の目も覆(おお)い、それでも剣を出し続けストックが無くなれば魔法で剣を生成し自分の体に回復魔法を掛けるのを惜(お)しむ程に激しい死闘を繰り広げた。
そしてもちろん――。
(これが本物のアベルか~。トーナメントの決勝戦とは比べ物にならないぐらい凄いね~)
「ジェイドもスカーレットも全然避(よ)けねぇなぁ……。これが正々堂々(せいせいどうどう)の死闘ってやつか?」
「そうね。避(よ)けたらある意味負けよ。それにしてもへたしたら世界神フリード戦の次ぐらいに凄いかも」
「神々の戦いを見てるみたいだ……」
「早過ぎると見えなくなるって本当だね。勇者の僕でも目で追えてないもん」
――アンマナレイ商会の勇者最強決定トーナメントの決勝戦など比較にならない程の死闘にティアラ達観衆は見入っていた。
22/29.「楽しかったぞ……」
そしてその時が来た。
「楽しかったぞ……ジェイド……ブフッ……」
スカーレットの肉体は崩壊が進み吐血(とけつ)するとその場に剣を落とし倒れてしまった。
「おいティアラ……!あたしは見てらんねぇぞ……!」
意外にもティアラよりもカトラスの方がこういう場面が苦手だった。
一方でアンリは研究者の様に淡々と様子を観察している。
「私だってカトラスの気持ちは分かるけど私はジェイド君達から目は逸(そ)らさないわ。魔王になったアベルの選択をこの目に焼き付けたいの」
ティアラはアベルを失った経験からこういう場面には慣れているのも有ったがスカーレットというライバルが一人消えるというメリットを意識したりアベルが自分が思い描(えが)いている「魔王らしからぬ」事をしてくれるのではないかと興奮していた。
「スカーレット」
ジェイドはそう言ってスカーレットの隣に片膝を突き片手でスカーレットの背中を支え上体を起こした。
つい先程まで宝石が光り機能していた首飾りは連結していた肉体の魔力回路が崩壊した為リンクが解かれ魔力もほとんど使い切っていた為機能は停止していた。
「ジェイド……グフッ……」
スカーレットはまだ吐血しながらも意識は有った。
「こんな物……」
ジェイドはついにスカーレットからスカーレットをこの様な目にあわせた憎(にく)たらしい首飾りの魔道具を外し収納に入れた。
*ジェイドは解析魔法のアナライズにより魔道具を身に付けさえしなければ安全だと分かっている。*
「すまない……私はただお前に認められたくて……振り向いてもらいたくて……ブフッ……」
スカーレットはジェイドに本心を明かした。
23/29.「早く『』を刺して!」
「ジェイド!何やってるの!早く止(とど)めを刺して!」
ベアトリスはもうジェイドにスカーレットの事で悩んでほしくなくてジェイドに伝わる程の声量で早く止めを刺す様にと叫(さけ)んだ。
「ほらジェイド、お前の正妻ベアトリス王妃もそう言っておられるぞ……グフッ……」
スカーレットは血反吐(ちへど)を吐(は)きながら自分も止(とど)めを催促(さいそく)した。
しかしジェイドは頭の中ですべき事の優先順位を付け冷静に対処していこうとした。
「この首飾りはどこで手に入れた?」
ジェイドは首飾りを持ちスカーレットに見せ問いただした。
「それは……難民の子供から貰ったものだ……強くなれると言っていたが本当だった様だな……ブフッ……だがあの子はおそらく騙されていただけだ……責めないであげてくれ……ヒューマン共の口ぶりからして私に魔道具を渡すという計画的な作戦だった様だ……ブフッ……」
スカーレットはあの子供に対して何も怒っていない為ジェイドにその子を責めないでほしかったしヒューマン達が口々(くちぐち)に「魔道具で暴走している……!」や「噂は本当だったんだ……!」などと言っていた記憶が有る為おそらく誰か大人に騙されて私に渡す様にと言われたのだろうと思っていてそして自分が死んでしまう前になるべく多くの情報をジェイドに残そうと要点を簡潔に答えた。
「そうか……だが一般の物品(ぶっぴん)に扮(ふん)した有害な魔道具も有るから例え相手が子供だとしても貰い物には注意しろと教わっているはずだろう」
ジェイドはその首飾りを空間収納にしまいスカーレットの判断ミスを指摘(してき)した。
「すまない……油断していたのだ……グフッ……」
スカーレットは血反吐(ちへど)を吐(は)き辛そうにしていながらも自分はなんて大馬鹿者なんだという様に笑みを見せていた。
「何してるのジェイド!早く止めを刺して!」
ベアトリスはジェイドとスカーレットに特別な絆が有る様な気がして焼き餅(もち)を焼いていたしこの事態の責任を誰かが取らなければいけない為スカーレットにはちゃんとその責任を死をもって取ってほしかった。
「ほらジェイド……早く私を殺してくれ……。武人(ぶじん)としてお前の手で殺してほしいのだ……グフッ……」
スカーレットは殺されるならジェイドの手で殺されたかった。
「全く、この俺を安く見やがって」
ジェイドはスカーレットを手に掛けられると思っているベアトリスもジェイドなら殺してくれると思っているスカーレットもジェイドの事をそんな酷い事が出来る程の男だと安く見ているのだと思った。
「別にお前の事を安く見てなどいない……頼む……グフッ……」
スカーレットは自分がしてしまった事を恥(は)じているし自分の責任の取り方や死に方を選べる資格は無いのかもしれないし我がままな事は重々(じゅうじゅう)分かっているがどうしても愛しているジェイドの手で殺されたかった。
24/29.「俺様と約束しろ」
「スカーレット、俺様と約束しろ」
ジェイドはスカーレットに約束を取り付けようとした。
「きゅ、急に何を言うのだ……?ブフッ……」
スカーレットはジェイドの発言の意図(いと)が全く分からなかった。
「いいから俺様と約束しろ」
ジェイドは何が何でもスカーレットと約束をしたかった。
「この間もなく朽(く)ちる私に守れる約束が有るというのなら……ブフッ……約束してやろう……」
スカーレットはもう意識も朦朧(もうろう)としてきていたが最後ぐらいジェイドがこんな私と結びたい約束が有るのなら朽(く)ちゆく自分には全く守れる気がしなかったが結んであげたいと思った。
「部下の不始末は上司の、ひいては魔王である俺の責任だ――」
ジェイドは自分が責任を取ろうと思っていて――。
「お前の……責任ではない……ブフッ……」
――スカーレットはジェイドの言った事を否定したが――。
「いや、俺の責任だ。そしてお前が仕出(しで)かした事は俺が直々(じきじき)に回復してやるから――」
――ジェイドは誰に何と言われようと自分の責任だと思っているし全てを元通りにしようと思っていて――。
「かい……ふく……だと……?ブフッ……」
――スカーレットはジェイドが何を言っているのか分からなくて――。
「今後は二度と同じ過(あやま)を繰り返すなよ。そして俺の分まで生きてみんなも頼んだぞ」
――でもジェイドは自分がしたい事はもう決めていた。
「ジェ、ジェイド……ま、まさか……ブフッ……」
スカーレットはそんなジェイドの決意に気付いた。
25/29.「足りると良いが……」
「俺の全ての魔力と足りない分は肉体で補(おぎな)うとして足りると良いが……」
――ジェイドは自分の全てを犠牲にするつもりでいて手を上空にかざすと上空に円形の魔法陣を構築し始めた。
「だ、駄目だ……やめろジェイド……ブフッ……」
スカーレットは力の入らない朽ちゆく手を激痛に堪(こら)えながら必死に動かしジェイドの詠唱(えいしょう)を邪魔しようとした。
そしてベアトリスは――。
「ジェ、ジェイド……何してるの……?」
――ジェイドが魔法陣を構築し始めて何かをし始めようとした為様子を見に来たのだがしようとしている事を訊いた。
「ベアトリスは離れていろ。アーベル!ベアトリスをちゃんと見ていろ!」
ジェイドはアーベルにベアトリスをちゃんと見ている様にと叫んだ。
「申し訳有りません陛下……!ベアトリス様……!さぁ……!」
アーベルは駆け寄りジェイドに謝るとベアトリスをジェイド達から離そうとした。
「ベアトリス様……ジェイド様を止めてくれ……ブフッ……ジェイド様は御身(おんみ)を犠牲(ぎせい)にしようとしているのだ……ブフッ……」
スカーレットにとってベアトリスは憎(にく)い恋敵(こいがたき)であるがジェイドを救う為にジェイドを止める様にお願いした。
「犠牲……あっ!まさか……!駄目よジェイド……!やめて……!リーズも止めて……!」
ベアトリスはスカーレットが言った事とジェイドが錬成(れんせい)している魔法陣をよく見ると自分の魔力を消費するだけでなくそれで足りない場合は自らの肉体までをも犠牲にする魔法だと見抜いてジェイドを止めようとしたがジェイドは全く止めてくれずリーズにも手伝ってもらおうと呼び掛けた。
「はいニャ!ジェイド様やめるニャー!」
リーズもジェイドを止めようとしたが円形の魔法陣はどんどん広がっていきやがて世界全体を包み込んで――。
「オールリカバリー」
――ジェイドは上空に手をかかげながら全てを修復する魔法を発動した。
26/29.「駄目えええ!」
「駄目えええ!ジェイドおおお!」
ジェイドがその光と闇の混合魔法を使うとスカーレットの肉体も倒れているヒューマンの兵士も市民も瓦礫(がれき)の山と化していた倒壊した建物も全てが修復されていった。
「アベル!やっぱり貴方ならやってくれると信じてたわ!」
ティアラは祈るポーズで涙し感動していた。
「もち、私はこうなるって読んでた。ヴイ!」
アンリはVサインをして決め顔でそう言った。
「てかお、お前達……あとおい、魂を回収する準備は出来てんだよな……?」
カトラスはこの悲劇的な状況で人の心が無い様な事を言っているティアラ達に呆れて言葉を失うもアベルの魂を回収するという目的を皆が忘れてしまっているのではないか?と心配になりその事を訊いた。
「もちろん忘れて無いわよ。回収はアンリちゃんがしてくれるって信じてるから」
ティアラは暗殺者としてのアンリを信頼していた。
「それももち。後(あと)は出てくるのを待つだけ。グッ!」
アンリは魂を回収する魔道具を手に持ってそう言ってグッジョブした。
「そ、そうかよ……って、おい!ちょっと言い方考えろ……!」
カトラスはジェイドが死んでしまった心底悲しいのにティアラとアンリが全く悲しそうじゃなくて呆れて変な気分になりながらもアンリが変な事言った為突っ込んだのだがアンリがこの様な状況でもちゃんと魔道具を使う準備をしていた事にさすがプロだなと感心した。
27/29.「後(あと)は『』を頼んだぞ」
「すまなかった、ベアトリス。後(あと)は皆(みな)と国を頼んだぞ」
魔王ジェイドはそう言うとついに肉体は光の粒となり魂が天へと上昇していった。
「ジェイドおおおお!」
ベアトリスは慟哭(どうこく)した。
「なんて素晴らしいんだ……!出版社に新巻の打診をしなければ……!」
アーベルは感動しこのアベル譚(たん)をぜひ書籍にすべきだと思っていた。
「へぇ、最高の勇者ってそんな簡単に自分を犠牲に出来ちゃうんだ。面白い。ボクのインスピレーションになったよ」
時空神クロノスは映画館でエンディングを迎えた後の退室する前の後始末の様に残りのポップコーンを紙の容器を持ち上げ口内へぞろぞろと流し込むとボリボリと嚙み砕きながらその場を後にした。
*「こちら、オペレーション・デーモン。対象献身による死亡」*
(さぁて、回収回収っと)
アンリはジェイドの魂を魔道具で回収し――。
「はい。これで依頼は達成。報酬ワクワク」
――カトラスに渡したら容器が万が一壊されてしまうかもしれないと思いティアラに手渡した。
「ええ!アンリちゃん、お疲れ様♪」
ティアラはやっとアベルの魂を取り戻し解放された様な気分でとても幸せそうな笑顔を浮かべた。
「おう……ありがとなアンリ……ギルマスにもよろしく言っとくぜ……」
カトラスはジェイドが死んでしまった辛さに押し潰されそうにながらもアンリに感謝した。
「頑張った。ヴイ。あとジェイドの件はまたアベルとして復活させてあげたらきっと大丈夫。じゃ」
アンリはカトラスが辛い気持ちは分かるしフォローを入れるとテレポートしていった。
かくしてアンリは依頼を達成しティアラ達はアベルの魂を取り戻しベアトリスは魔王ジェイドを失いスカーレットもその悲しみに明け暮れるのだった。
*戦闘の後(あと)ベアトリス達は総司令官クライドとその他(た)勇者パーティーや騎士団の護衛で魔族領まで護送されました。*
28/29.「お前が俺の『』か」
そしてベアトリスはアーベルから今までのお礼にとお金を貰い魂を回してもらったのだがジェイドと共に過ごしジェイドが命懸けで救ってくれたこの世界を無かった事にする事が出来ずその為やり直す為の別の星を貰ったりもしたのだが――。
「お前が俺の婚約者か。良いぞ。側室にしてやる」
「私は魔導の探求で忙しいんだ。研究室に勝手に入って来ないでくれ」
「戦士でもない女が軍議に入ってくるでないぞ!」
「ぬいぐるみが好きなのか?子供かよ」
「これは両国が勝手に決めた政略結婚であって僕に君への愛情は全くない」
「お前を抱いてやろう。さっさと脱げ」
「私は男も好きだから男の側室も取るつもりだ」
「お前が嫌いな奴を教えてくれよ。俺がお前の代わりにいじめてやるからよ」
「今度出掛けたいだって?そんなの友達と行ってこいよ」
「は?勉強なんてする訳ねぇだろ。俺は自動的に魔王になれるんだし」
「悪いけど僕は女性には興味無いんだ」
「隣国に侵攻されたのか?まぁそんな事は貴族の私設軍や国防大臣に任せておけば良い。俺が行くまでもない」
「馴れ馴れしいぞベアトリス。俺は貴様を婚約者とも友達とも思った事は一度も無い」
「俺様は剣も扱えぬ貴様に用は無い」
「は?同族を殺すなって?うるせぇぞベアトリス。俺様に指図(さしず)すんじゃねぇ」
――という様にジェイドとの幸せな時と比べれば地獄でありついに心が折れてしまい――。
「ベアトリス様!まだ諦めちゃ駄目にゃ!」
――リーズの励ましの言葉を聞いても決意は変わらず――。
29/29.「私は『』に就(つ)くわ」
「私は眠りに就(つ)くわ。私を眠りから覚まさせられるのはジェイドの、いえ、アベルのキスだけ。アベルを探して、リーズ。また会う日まで」
「ベアトリス様~!」
――ベアトリスは長い眠りに就いた。
そして生き長らえたスカーレットはもはや魔神であり死ぬ事も出来ず時には暴言を吐(は)かれ時には襲われながらも罪滅(つみほろ)ぼしで世直しをして世界中を彷徨(さまよ)っていたのだがある時――。
「貴方の願いを聞かせて」
――声が聞こえてきて――。
「私は……ジェイドを生き返らせて……また会って謝りたい……」
――スカーレットは願いを述(の)べた。
「例えそれが辛い道のりだとしても?この世界から遠くへ行く事になるとしても?」
声の主(ぬし)はスカーレットの覚悟を尋(たず)ねた。
「ああ、それでもだ」
スカーレットは自分の願いが叶うのなら何でもするつもりだった。
「良いわ。ならまたいつか会える様にしてあげる。貴方はこれよりとあるダンジョンの主(あるじ)よ。そのダンジョンを守っていればいずれまたジェイドの魂を持つ者に出逢(であ)えるわ。貴方に幸(さち)が有らん事を」
声の主(ぬし)がそう言うとスカーレットはまるでテレポートするかの様に光になっていった。
*魔将スカーレットの暴走事件はヒューマン陣営によるものでありヒューマン達にその罪悪感と魔道具に送信機と受信機が有る事を知らずに発動させてしまったという瑕疵(かし)責任が有ったのだが魔王ジェイドが救ってくれた為魔王領とヒューマン領は停戦し一応世界は平和になりました。もちろんこれもアンリの目論見通りです。またスカーレットは暴走時自我を失っていたとはいえ完全には失っていなかったので根の優しさを発揮し誰も死なせてはいませんでした。もちろんこれもアンリの目論見通りです。というかどんどん強くなっていくジェイドに手を焼いた以外は全てアンリの目論見通りです(笑)*
後書き
ティアラ達の中で一番常識が有るのはカトラスだったりします。
まぁカトラスは好戦的なところとスパルタなところを除(のぞ)けば常識人ですからね。
そしてもし魔将カトラスの立場がティアラだったらそれはもう恐ろしい事になっています。
というのもカトラスはジェイドを殺(あや)める事は出来ませんでしたがティアラならジェイドに断られた時点で余裕でグサリでしたからね。
まぁアンの時は出来ませんでしたがベアトリスはティアラの世界の神ではありませんし何の縁(えん)も有りませんからね。躊躇(ちゅうちょ)無くいけるという訳です。
まぁティアラとカトラスのどちらが常識人かについては言い換えれば人間としての心を忘れていないのがカトラスで神々としての常識人がティアラという感じです。
まぁいずれにせよベアトリスとスカーレットに幸が有らん事を!(笑)